柔らかい日差しが窓から差し込んでくる。その暖かさがあまりに心地よくて開きかけた瞼を降ろしたら、そのまま閉じた瞼に唇が降りてきた。
「――――寝ぼけているのか?」
目を閉じていても分かる柔らかい声と、微かに微笑んでいる唇。そっと目を開いて確認したら予想通りの表情がそこにあった。
「…ジョルジュさん……」
「随分気持ちよさそうに眠っていたな…お陰で起こすのをためらった」
窓から零れる日差しのせいで金色の髪がきらきらと輝いている。それが眩しくて目を細めたら…そっと唇が降りてきた。
「目、覚めたか?」
触れるだけのキスでも、意識は覚醒する。甘いだけのキスでも、目の前の人が与えてくれるものならば。だってこんなにもどきどきしてしまうから。
「覚めました、ジョルジュさん。あの、僕そんなに寝ていましたか?」
何だか恥ずかしくなって顔半分を布団で隠してみたけれど、ときめきは止まらなかった。どきどきは抑えられなかった。
「ああ、もう昼前だ。よっぽど疲れていたんだな」
「わっ、ごめんなさいジョルジュさんっ僕―――っ!!」
昼前という言葉に飛び起きた瞬間に、下半身に鈍い痛みが襲ってくる。そのお陰で一気に昨夜の記憶が蘇ってきた。
「いいから、寝ていろ。その…俺のせいだしな……」
「…あ、はい……すみません………」
「馬鹿、謝るな」
「…あっごめんなさ…あっ!…」
「―――全くお前は……」
呆れたようにひとつため息をつかれたと思ったら、次の瞬間には何よりも綺麗な笑顔を口許に浮かべてくれて、そして。そしてひとつ甘いキスをくれた。痛みすら溶かされてしまう、甘い、甘い、キスを。
けだるい身体を横たえながら、ゴードンは昨夜の事を思い出していた。思いだした途端恥ずかしさが全身を襲い、そのまま頭まで布団の中に潜ってしまう。何だか改めて顔を見る事が出来ない。
昨日、初めて身体を重ねた。その行為に後悔はない。ずっと憧れていてずっと好きだった人だから。だからこうして結ばれた事は泣きたくなるくらい嬉しかった。嬉しかったのだけれども。
(…でも…僕…どんな顔をすればいいのか…その……)
まるで自分の声じゃないような甘い声を出して、恥ずかしい所を全て曝け出して、そして。そしていっぱいその背中に爪を立てて…
(ジョルジュさん…痛かったよな、背中…きっと…僕物凄くしがみ付いちゃったし…)
その事を謝りたいと思いながらそっと布団から顔を出したら、綺麗な瞳にかちあった。
「潜ったり出てきたり、忙しい奴だな」
「あ、その…僕…その……」
「いいから出てこい。お前の顔、見たいから」
「…はい……」
おずおずと布団から顔を出して上半身を起こせば、そのまま背中に腕を廻される。優しく抱きしめられたと思ったら…身体が宙に浮いていた。
「わっ、ジョルジュさんっ?!」
「掴まっていろ、落ちるぞ」
「…は、はい……」
いわゆる『お姫様だっこ』をされた状態でゴードンはジョルジュによってリビングへ連れてゆかれる。その間落ちないようにぎゅっと抱きついたら、髪にひとつキスをしてくれた。
「あの、ジョルジュさん」
「何だ?」
「ここ、痛くないですか?僕いっぱいしがみ付いちゃったから」
背中に廻した手で、昨日掴んだ個所に触れれば記憶が蘇ってきて体温が上がった。けれどもそれ以上に謝りたいと言う想いが勝ったから、告げる事が出来た。
「気にするな、お前の可愛い顔見られた代償だと思えば―――気にならない」
「…もう…ジョルジュさんてば……」
「本当の事だ」
耳まで赤くなるのが自分でも分かった。この人の言葉一つ一つに、過剰なまでに反応をしてしまう。けれどもそれは。それはこのひとが何よりも、大好きだから。こうして椅子に座らされて離れる瞬間を名残惜しいと思ってしまう程…大好きだから……。
暖かい湯気とともに机の上に置かれたのはコーヒーとミルクティー。それはずっと変わらないものだった。アリティアで戦っていた時の合間に差し出された時から。アカネイアに渡り腕を磨く合間の休息時間から。ずっとずっと変わらない、もの。
「いただきます、ジョルジュさん」
「―――ああ、ゴードン」
こうして恋人同士になっても、変わらないもの。二人がどんな関係になっても、ずっと変わらないもの。これから先もきっと、ずっと。
喉を潤すこの液体の暖かさのように、ずっとふたりに降り積もるものが。ふたりを包み込むものが、暖かくて優しいものでありますように。
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