弱点



「俺がいない間に、随分と成長したな。ゴードン」
放たれた矢が正確に的を射ると同時にその声は発せられた。振り返らなくても相手はすぐに分かったけれど、その顔が見たくて振り返ろうとしたら…そのまま背後から抱きしめられた。
「…ジョ、ジョルジュさんっ…こんな所で誰かが来たらっ……」
「俺は構わんが。可愛い弟子との再会を喜んでいるだけだしな」
何処まで冗談で何処までが本気なのか…生憎ゴードンにはその表情を見る事が出来なくて判断出来なかったが、抱きしめられた腕の感触で少なくとも告げられた言葉は嘘じゃないという事だけは伝わった。本心なのだと。
「…でも……」
困っているはずなのに、嬉しさがこみあげてくるのを止められない。恥ずかしい筈なのに、幸せで堪らない。自分と同じ思いでいてくれている事に。同じ気持ちでいてくれている事に。
「――――それにこうすれば見えない」
「…あ……」
背後から抱きしめられたまま、一番大きな木の幹に身体を押しつけられる。頭一つ分大きなその身体と木に挟まれて自分の存在が隠されて、そして。
「俺にしか見えない」
そしてやっとその綺麗な顔を見る事が出来たと思ったら、見つめる事すら許さないとでも言うように覆いかぶさるように口づけられた。それは再会を喜ぶだけの甘いキスだはなく、もっと先の恋人同士の激しい口づけだった。


――――離れている時間が淋しくないと言えば、嘘になるけれども。それでもそれ以上に離れていても確かなものが互いの中にあるのだと信じられるようになったから、離れていても大丈夫だと思った。


離れて、触れて。触れて、離れて。繰り返されるキスの雨に、ゴードンの睫毛が切なげに震える。それはひどくジョルジュの瞳には綺麗に映った。まだ幼さすら残す子供のような顔なのに、何時しかこんな煽情的な表情を見せるようになっていた。
「…アリティアには何時着いたのですか?……」
けれどもそれは自分だけが知っている顔で。自分が作り上げた顔で。ただ一心に純粋な気持ちで憧れを抱いていてくれた相手を、こんな風にしたのは他の誰でもない自分自身で。
「ついさっきだ」
見上げてくる瞳が微かに潤んでいる。そこには確かに快楽の火種が潜んでいた。純粋なだけじゃない別の異物が混じり合っていた。けれどもそれは、自分も同じだから。
「お前に逢いたくて、真っ先にここに来た」
「…ジョルジュさん…あっ……」
背後から抱きしめたままその肢体を木の幹に押し付け、うなじに顔を埋めた。そこから広がる微かな懐かしい髪の匂いを嗅ぎながら、唇を一つ落とす。それだけで、じわりと肌に熱が広がってゆくのをゴードンは感じた。
「どうした?感じたのか」
「…意地悪な事聴かないでください……」
くすりとひとつ微笑いながら告げられる言葉に、ゴードンの耳が真っ赤になる。そんな所をひどく愛しく思いながらもう一度うなじにキスをすれば、びくんっと腕の中の身体が跳ねた。
「感じたんだな」
「…あっ…駄目っ……」
大きな手が服の上から胸の突起に触れる。布越しから触れられただけなのに、敏感なソレはすぐに反応を寄こしてしまう。服の上からでも分かるくらいに張り詰めたソレを巧みな指先で嬲られる。
「…あっ…あんっ…駄目…駄目です…こんな所でっ……」
「こんな所だから、余計感じるだろう?」
息を吹きかけられるように耳元で囁かれた言葉に、耳だけでは耐え切れずに全身が朱に染まった。意地悪ですと小声で呟きながら睨んでみれば、それすらも無意味になるほどに綺麗な笑みが返って来て、ゴードンは何も言えなくなってしまう。眩暈すら覚える笑みに見惚れたら、また意地悪な手がゴードンの敏感な個所を攻め立てた。
「…駄目ですって…こんな…あぁっ…はぁぁっ……」
直に触られず布越しに触れられる愛撫がもどかしい。強く摘ままれても布が直接的な刺激を遮ってしまう。そのじれったさが理性を残してゴードンの首を横に振らせた。けれども無意識に指に胸の突起を強く押し付けているのをジョルジュは感じて、口許に淫靡な笑みを浮かべるのを止められなかった。そして。
「ひゃうっ!」
乳首を摘まんだまま、脇腹を撫でる。その刺激に耐え切れずにゴードンの口から悲鳴のような声が落ちた。
「相変わらずココが弱点か?」
「…駄目ですっ…そこは…止めっ…あぁっ……」
指先が脇腹を何度も撫でる。戦場で誰よりも巧みに弓を扱うその指先は、今は何よりも巧みにゴードンの弱点攻め立てる。無駄のない脇腹の肉を軽く摘まんでやれば、それだけでゴードンの息は乱れた。乱れた息は甘い喘ぎとなって、その濡れた唇から零れ落ちる。
「…やぁっ…あぁっ…駄目っ…こんなっ……」
「胸よりも感じるのか?ココが」
「…違っ…あっ…あぁぁっ……」
押し付けられた下半身が木の幹に当たる。熱を帯びて形を変化させ始めたソレは、布越しとはいえ堅い木の幹に擦られその刺激に反応せずにはいられなかった。胸への愛撫も止められたのに、尖った乳首は木の幹に当たり脇腹を撫でられるたびに身体が上下して、擦られる。それだけで、もう。もう……
「―――こんな淫乱な弟子を持った覚えはないぞ」
「…ジョルジュさんのせいですよ…師匠がこんなだから……」
手を伸ばして、相手の下半身を弄った。それは自分が想像したように布越しからも形を変化させて、どくどくと脈打ち熱を持っている。自分の乱れた様子に反応し、堅く巨きくなってくれている。
「欲しいか?コレが」
答える代りに布越しに触れた。指を這わして、形を辿った。それだけでソレは強く堅く変化させてゆく。この身体を貫くために。この身体を蹂躙するために。
「…ジョルジュ…さ…んっ……」
「挿れてやるよ。その前に」
「…あ…は…んっ…んんんっ……」
綺麗な指がゴードンの口許に運ばれる。それを迷うことなく口に含み唾液で嬲った。この指がこれからどんな事をするのかを想像するだけで、また身体の芯が疼くのが分かる。ぞくぞくと、疼くのが。
「…はぁっ…ぁ…くふっ……」
上半身は衣服を身に付けたままで、下半身だけ脱がされる。けれども身体は木の幹に押し付けられたまま、前を向く事を許されず背後から抱きしめられたままで。そのまま濡れた指が双丘の狭間を辿り、秘所へと侵入した。
「…ふっ…くっ…はっ…ぁぁっ……」
閉ざされた蕾を濡れた指が淫らに押し広げてゆく。巧みな動きにすぐに蕾は開き、ひくひくと淫らに蠢く。刺激を求めて、媚肉が指を締め付けた。きつく、締め付けた。
「―――もう大丈夫だな」
「…あっ……」
指が引き抜かれる感触にすら浅ましい媚肉は反応した。けれどもそれは直ぐに当てられた別のモノによってより大きな悦びへと変わってゆく。
「…ジョルジュ…さ…んっ……」
双丘の狭間に当たる異物の熱と堅さにぞくぞくとしながら、ゴードンは睫毛を閉じた。全ての視界を遮断して、今は。今は与えられる楔の感触だけを感じたかったから。その熱だけで自分を埋めたかったから。


埋め込まれる楔の堅さと巨きさに一瞬息を飲む。けれどもその唇は直ぐに甘い悲鳴へとすり替わった。
「―――あああっ!!ああああっ!!!」
痛みすらもうなかった。襲ってくるのはただただ激しい快楽だけで。貫かれる快感。揺さぶられる悦楽。引き裂かれる快感。その全てが、狂う程の激しさで。
「…ああんっ!!あぁぁっ…ジュルジュ…さっ…はぁぁぁっ!!!」
がくがくと腰を揺さぶられ耐え切れずに木にしがみ付いた。何時もしがみつく背中はこの体勢では叶わなかったから、ざらついた木にしがみ付く。そのたびに胸の突起が布越しに木に擦れ、いつもとは違う刺激を与えられた。
「相変わらずお前の中はキツいな」
「…ああんっ…ああああっ…ジュル…ジュさんっ…あっあっ!!」
抜き差しを繰り返しながら次第に巨きくなってゆく楔に、身体は悦びを抑えられない。無意識に自ら腰を振って、快感を追いかける。気持ちよくて、気持ちよくて、止められない。止められ、ない。
「…ああっ…ああっ…あんあんっ!」
「――――出すぞ、ゴードン」
「―――――っ!!あああああっ!!!!」
ぐいっと腰を引き寄せられ最奥まで抉られると同時に、熱い液体が体内に注がれる。それを感じながら、自らも白い欲望を吐き出した…。


離れていても確かなものがあるから大丈夫だと思えた。けれどもこうしてそばに居れば求めずにはいられない。確かなものがふたりの中にあっても、それ以上に求めるものがまた。またふたりの中に在る限り。


好きで、好きで、大好きで。それだけが全て。
「…ジョルジュさん…もっと…」
たくさんの感情が貴方にあったはずなのに。気付けば。
「…もっと顔…見せてください……」
気付けばそれ以外の言葉は浮かんでこなくなった。
「…貴方の顔…いっぱい……」
好き以外の言葉を、僕は知らない。貴方に対しては。


繋がった個所が離れて初めてこうして向き合う事が出来た。正面からその顔を見つめる事が出来た。何よりも綺麗で何よりも大好きなその顔を。だってそれこそが。
「俺も見たいお前の顔。呆れるくらいに」
何よりも綺麗な微笑う、その顔こそが。僕にだけ向けてくれる穏やかで優しいその顔こそが。僕にとって何よりもの。――――何よりもの。


―――――僕にとっての『弱点』なのだから。貴方という存在全てが。