I Miss You



太陽の匂いがする癖のある紅い髪。その髪をしばらく見つめていたら、ひどく鮮やかに瞼の裏に焼き付いて消えなくなった。ずっと、消えなくなった。


羨ましいとすら思えるほどにまっすぐに自分を見上げてくる瞳が、何よりも愛しいものになってもうどのくらい経ったのだろうか?それは自分にとって当たり前で、ごく自然な事になって、そして。そして日常に溶け込むほどに、当然の事になっていた。
「なあ、シーザ。何読んでんの?」
聴こえてくる声に本から顔を上げれば、ひどく間近にその顔はあった。年よりも幼く見える無邪気な顔が、構って欲しくてうずうずしている子犬のような表情で自分を見上げている。
「剣の指南書だ。お前がこの間読むのを諦めたやつだ」
溜め息交じりに回答してやればその表情は見る見るうちに不貞腐れてゆく。非常に分かりやすい性格は、ここまでゆくと逆に羨ましい程だ。
「どうしてあんたはそんなに意地悪なんだよっ!俺だって頑張って読んでみようと思ったんだよ。思ったんだけど……」
「だけど、必要なかったって事だろう?お前には」
段々語尾が小さくなってゆくのが何だか気の毒で、フォローのつもりで頭を撫でてやれば無意識なのか、すり寄ってくる。本当にこんな所は犬みたいだ。
「そうっ俺は実戦で覚える派だから。だからいいんだ。それに」
「それに?」
「難しい事はシーザが考えてくれるから、俺はあんたのいう通りにしてれば間違えないし」
「何だそれは」
「言葉通りだよ。だってあんたのすることに間違えはないから。だから俺はあんたの言葉だけ信じればいい。あんたの決めた作戦やあんたが考えた戦術やあんたの言葉を…」
「―――物凄い信頼だな」
腕が、伸びてくる。そのまま首筋に絡まったと思ったら、吐息が掛かるほど顔が近づいてくる。鮮やかな紅い瞳に自分の顔が映っているのをぼんやりと見つめながら、重なってくる唇をそのまま受け入れた。


唇が離れる瞬間にふわりと髪が、揺れる。その紅い髪先からは眩しい太陽の匂いがした。その匂いをしばらく嗅いでいたいと思いそのまま顔を埋めれば、嬉しそうに抱きついてきた。
「…シーザ……」
背中を撫でてやりながら髪から顔を離して見下ろせば、微かに紅い瞳が潤んでいる。そんな表情を見ながら苦笑交じりに髪を撫でてやれば、また無意識にすり寄ってきた。
「どうした?発情でもしたのか?」
「―――した。俺あんたとえっちしたい」
「…全くお前は…素直なのか馬鹿なのか……」
「むぅ、素直なんだよ。だから、シて」
恥じらいも悪びれもせずに正直に告げてくる相手に今日何度目かの苦笑をして、シーザは腕の中の身体をそのままベッドへと運んだ。


子供のような幼さを残すこの顔もこうして瞼を閉じれば、まるで違う生き物のように変化をする。紅い淫らな獣へと。
「…んっ…ふぅっ…んっ……」
積極的に絡めてくる舌を好きなようにさせながら、シーザは巧みな指先でラディの身体を弄ってゆく。日に焼けた肌の中で浮かびあがる紅い胸の突起を指で摘まめば、面白いようにその身体は反応を寄こした。
「…んんっ…んんんっ…ぁ…ああん……」
舌を夢中に絡ませながらも、与えられた愛撫に素直に答える身体。敏感な個所を攻めれば舌の動きが止まり、その唇からは甘い喘ぎが零れてくる。止まった舌に催促するように動きを止めれば、また刺激が欲しくて積極的に絡めてくる。それを何度も繰り返してゆくうちに、重なっている下半身に熱が灯るのが伝わってきた。
「…シーザ…ココも…ココも触って……」
熱に焦れたように脚をもぞもぞと動かしながら、ラディはシーザの手を自らの下半身へと導く。そこは既に熱を伴いながら形を変化させていた。
「…ココも、…ね……」
見上げてくる紅い瞳は快楽に潤み濡れている。それは普段見せる幼い顔とは違う淫らな顔だった。淫らで淫乱な別の生き物だった。その生き物に誘われるように、その肉棒に触れる。
「…ああんっ!!…あぁんっ!……」
触れただけでびくびくと身体を揺らしながら喘ぎを洩らす喉元に唇を落として、包み込むようにソレを撫でた。何度も撫でながら、先端の部分を爪先で抉ってやればとろりとした先走りの雫が零れてくる。
「気持ちイイっ…気持ちいいよぉ…シーザっ…あん、あんっ!」
手の動きに合わせるように腰が揺れる。そのたびに紅い髪がシーツの上で乱れ太陽の匂いが夜の匂いへと変化してゆく。雄を誘う夜の匂いへと。
「…もっと…もっと…シて…っ…もっと…あああんっ!!」
夜の匂いに導かれように強く扱いてやれば、限界まで迎えたソレは弾けるように白い液体をシーザの手のひらに吐き出した。


ラディの吐き出した精液で濡れた指が、双丘の狭間に忍び込んでくる。その感触に小刻みに身体を震わせながら、侵入してくる異物を媚肉は飲み込んだ。
「…くふっ…はっ…ぁっ……」
痛みなんてもうなかった。ただもどかしいだけだった。指よりももっと。もっと気持ちイイモノが自分の中に挿いることを知っているから。もっと巨きくて太くて硬いモノが。
「…シーザ…指はいいから…指よりも……」
手を伸ばし、自分が望むモノに触れる。それは想像していた通り熱くて硬くて巨きくて。コレが自分の中に挿って貫いてくれる事を考えただけで、吐き出したばかりの自身が熱くなるのを止められなかった。
「欲しいのか?コレが」
「…欲しい…欲しいよぉ…俺の中に挿れてっ……」
耐え切れずに腰を揺らしながら、シーザ自身を激しく擦る。そのたびに巨きく硬くなってゆくのに悦びを感じながら。
「――――仕方ないな」
苦笑交じりの、声。何度も聴いているその声のトーンが何時しか何よりも安心するものになった。何よりも安堵するものになっていた。そして何よりも感じるものへと。
「あああっ!!ああんっ!!イイっ!!イイよぉっ!!」
脚を広げられずぶすぶと濡れた音とともにソレは埋め込まれてゆく。きつく締め付ける媚肉を掻き分け、奥へ奥へと。それは指なんかとは比べ物にならない程、硬くて巨きくて熱くて…そして気持ちイイモノで。
「…もっと…もっと…奥まで…ああんっ…奥までっ……」
「欲張りだな、お前は。俺の全部を飲み込むつもりか?」
「…シーザっ…シーザっ…あああんっ…ああっ…ああああっ!!」
このまま身体を引き裂かれてもいいと思った。このまま真っ二つにされても。この快楽に溺れながら、引き裂かれてもいいと。気持ちよくて、気持ちよくて、堪らないから。
「――――ああああっ!!!」
注がれる熱い液体で溢れてしまいたいと思った。このまま白い熱に溺れてしまいたいと願った。――――大好きなあんたの腕の中で……


汗の匂いは夜の匂いで。けれどもそれでもやっぱり紅い髪からは太陽の匂いがして。強い日差しの香りがして。それはどんなになっても消えないもの。どんなに乱れても、どんなに溺れても、決して消すことが出来ないもの。
「…シーザ…大好き……」
背中に廻される手の熱さが心地よい。見つめてくる紅い瞳を瞼の裏に焼きつけてそのまま目を閉じれば、そっと。そっと唇が重なってくる。
「…だいすき…シーザ……」
そっと触れたまま呟かれた言葉をそのまま唇に閉じ込めて、抱き寄せてやればすり寄ってくる身体が愛しい。何よりも、愛しいと思った。


紅い髪をもう一度見つめて、そこから香る匂いを感じながら再び瞼を閉じた。優しく訪れるまどろみに身を任せ、ふたりそっと眠りに落ちてゆく。ふたり、一緒に。


――――夢すら見ないほど互いの存在に埋もれて眠ろう。そっとふたりで、眠ろう……