ロンサム



理由も意味も見いだせないまま、この無意味とも思える関係を続ける。そこにあるのは愛でもなければ、情でもなくて。ただ在るのは空っぽの闇だけだった。


求めているものも見つめている先も違うのに、どうしてこうやってふたり肌を重ねるのか。そんな事を考える事すらもう、遠い場所に在るような気がする。
「―――こっちを向け、カミュ」
こんな時まで命令口調なのがひどく可笑しくてひとつ表情だけで笑った。それに気付かれたのか気に入らないとでも言うように、強引に顔を相手の方へと向けさせられる。
「何がおかしい?」
絡みあった視線の先に在る強い紅い瞳は、どんな時でも変わらない。常に前だけを見つめ、そして全てを手中に収めようとする王者の瞳だった。
「…いや…貴殿らしいと思ったのでな……」
「ふん、憎たらしい口だ」
そう告げながらも口の端で笑みの形を作り、見下ろす紅い瞳は余裕すら感じる。そうだこの男はずっと。ずっと、その瞳を他人に見せ続けてきた。どんな場面であろうとも、どんな場所であろうとも…どんな時であろうとも。
「ならば塞いでしまえばいい」
「―――ああ、言われなくてもそうするさ」
落ちてくる唇と重ね合わせた口づけは嚙みつく程の激しさで、少しだけ頭の奥に残っていた思考を奪い取っていった。


これは『契約』だと言った。この行為は二人の結ぶ契約なのだと。ドルーアを滅ぼし、大陸の王者になる為に結んだ契約なのだと。それならばそれで良かった。無意味なものに意味を見出すために欲しがる理由ならば分かりやすいほうがいい。そうでなければ―――迷いが生まれてしまうから。
「…ふっ…はぁっ……」
重ね合わせた唇から零れるのは甘い喘ぎと濡れた音で。生き物のように舌を絡ませ、口づけという行為に溺れた。淫らな想いに溺れた。
「お前はこんなにも血に塗れているのに、何処までも白いのだな」
指が、触れる。剥き出しの肌に触れる。その指は全てを知り尽くした身体の弱い部分を的確に攻めてゆく。何処をどうすれば感じるのかを、知り尽くしている指先が。
「…貴殿は…全てが紅いな……」
与えられる刺激に飲まれる前に薄く瞼を開いて、その顔を見つめた。一面に広がる紅い髪は、まるで炎のようだった。触れたら火傷しそうなほどの熱い炎。それに衝動的に、飲み込まれてしまいたいと願う。このまま全てが溶かされて、何もなくなってしまえばと。
「…このまま…貴殿に……」
手を伸ばしその髪に指を絡める。細く綺麗な君は指先に馴染みながらも、少し力を抜けばするりとすり抜けてゆく。それはまるで……
「…飲み込まれれば…楽になれるのだろうか……」
それはまるで不確かな自分の存在のようだった。明確な意思も、確かな想いもここに在るのに。それなのに何処か輪郭のない自分の存在のようだった。


願いはただひとつ。ただひとつだけ。この世界に貴女が生きて存在してくれる事。貴女が幸福な笑顔を出来る世界を手に入れる事。それだけだ。私にとってはそれが全てだ。

――――それが私の生きる意味。私の騎士としてのただひとつの誇り。

私はどうやっても騎士としてしか生きられない。主君の為に生き、そして死に逝く事しか出来ない。それでも、願う。それでも、祈る。貴女の生を貴女の未来を。


触れ合う肌の熱に溺れたいと思った。今はただ溺れたいと。何も考えずに、ただ。ただ快楽を貪りたいと。
「…はっ…ぁっ…あぁっ……」
仰け反る喉に唇を落とされ、そのまま吸い上げられる。その刺激に睫毛を震わせれば、力強い腕できつく抱き寄せられた。
「…ミシェ…イルっ……つっ……」
身体が宙に浮くのが分かる。けれども喉元の唇は離れる事はなかった。背中がのけ反り、尖った胸が突き出される。それに指を這わされれば、口から零れるのは甘い吐息だけだった。
「…ふっ…はぁっ…ぁぁっ……」
耐え切れずにベッドの上に手を付いて、そのままシーツをきつく握り締めた。雛が出来るほどに強く。けれども胸の愛撫は止まる事がなかった。それどころか首筋に触れていた唇が、何時しか胸の果実を咥えていた。
「…あぁっ…あぁんっ!」
「お前は本当にココが弱いな」
口に含まれながら囁かれれば、突起に歯が当たる。その刺激すらも、敏感になった身体は受け止め、反応を寄こした。
「…そんな事っ…貴殿が…一番知っている…だろうっ……」
「そうだな、お前の身体は俺が一番知っている。何処をどうすれば、イイのか。何処を触れれば感じるのか。何処をどうすれば―――」
「―――っ!ああっ!!」
触れる舌が、指先が、思考と意識を奪ってゆく。奪って飲み込んでゆく。蝕んで、壊してゆく。それでいい。今はそれが、いい。このまま。このまま、溺れて狂いたい。


――――きつく結ばれた心を解くにはどうしたらいいのか?


気付かなければよかったのか?目を塞げば良かったのか?互いに在った視線の先に同じものを見つけなければよかったのか?ふたりが見ているものが、抱えているものが同じだと気付かなければ良かったのか?

それでも私は貴女を愛した。貴女だけを、愛した。貴女の幸せを願いながら、私という存在が誰よりも貴女を不幸にする。

先にある未来がこの瞳に映し出される。どんなに否定しようとも見えるものがある。それから少しだけ目を逸らした。目を閉じて、そして刹那の熱に溺れる。それがどうにもならない事だと分かっていても。それでも、今は。今だけは。


焼けるほどの熱い肌と、瞳と、その視線に。その紅に、溺れる。紅い海の中に、そのうねりに。
「――――ミシェイル……っ……」
名前を呼べば見つめてくる瞳は何時もと変わらない自信と強さを称えていて。それが何故だか今はひどく心地よかった。何も変わらないものが、心地いい。
「このまま飲み込め、俺を」
脚を広げたその先にはそそり立つ肉棒があった。それに手を添えると自らの入口に宛がう。熱く硬いモノが当たり、びくんっと身体が跳ねるのを止められなかった。
「――――くっ!はぁぁぁぁっ!!!」
そのまま自ら腰を落とし、命じられたままソレを飲み込む。ずぶずぶと音を立てながら、強固な楔が身体の中に挿ってくる。
「そうだ、カミュ。そのまま全部飲み込むんだ」
「…はぁっ…ぁぁっ…くふうっ……」
焼けるほどの熱が、体内を蹂躙する。熱が駆け巡り、何もかもを溶かしてゆく。意識も、心も、思考も、感情すらも。
「そうだ、そのまま腰を触れ。そして俺をイカせろ」
「…あああっ…ああああっ…あっあっあっ!」
そう何も考えられなくなる。ただ命じられたままに腰を振る。振って、快楽を追う。快感だけを追う。熱を、激しさを、欲望を。
「そうだ、よく出来たな―――ご褒美だ」
「――――!!あああああっ!!!!」
どくどくと音がする。熱い液体が注がれる。中に、奥に、注がれる。それを感じながら、自らの意識も真っ白になった。真っ白になって、果てた。


何も生み出さなくても。そこには何もなくても。それでも。それでも、触れる肌の熱さが。注がれる熱が。その全てがどうしようもなく、欲しいと思った。



友情も愛情も、そんな生温かい感情はいらない。
「―――カミュ…お前は…」
優しさも暖かさもいらない。ただここに。
「…哀しい男だな…それでも……」
ただここに在ればいい。穢れた絆でも、汚れた熱でも。
「…それでも俺は…お前を…手放せない…これも」


「――――これも『愛』なのだろうか?」


意識のない瞼にひとつ、ミシェイルは唇を落とした。それはカミュ以外に知らない、カミュすらも知らない…優しいキス、だった。