Sweet Kiss




――――艶やかに濡れたその唇を塞げば、そこから零れ落ちるのは甘くて深い罪の味。


見上げてくる瞳は何処までも真っ直ぐで、曇り一つない事が少しだけ胸を苦しめる。けれどもそれ以上に向けてくる直線的な想いが、説明のつかない優越感をもたらした。
「――-シーザ……」
紅い瞳はまるで炎のようだった。普段は無邪気な太陽の匂いのする子供のようなのに、今は。今はこんなにも夜に濡れた瞳を俺に向ける煽情的な生き物になる。快楽の炎を隠すことなく見せつけてくる淫らな生き物に。
「大好き、シーザ。俺はあんたのそばにいられればそれだけでいい」
無邪気な笑顔なのに、今はこんなにもふしだらだ。伸びてくる指先も、背中に廻る生き物のような腕も、艶やかに濡れた唇も。
「お前は本当に―――」
―――呆れるくらいに俺が好きなのだな、と告げる前に唇が近付いて言葉を奪っていった。俺の言う事など当然だと言うように。分かりきっているとでも言うように…何も分かっていないとでも言うように……。


屈託のない瞳で、無邪気な笑顔で告げる言葉はただひとつ。ただひとつ―――あんたが、大好きだ。ただその一言だけで。その意味の全ての理由を捜しだす前に、俺は奪う。その身体を、心を全部。全部、俺だけのものにするために。
「…あっ…シーザっ…ふぅ…んっ……」
積極的に絡めてくる舌の動きに答えながら、衣服を脱がしてやる。そこから覗く少し日の焼けた身体は何処までも太陽の香りがした。その匂いに埋もれながら尖った乳首に指を這わす。
「…んんっ…ふっ…んんんっ……」
敏感な個所を攻めるたびに、重ね合わせた唇から甘い吐息を零してゆく。それを全て口中で拾い上げ吐息を奪った。耐え切れずに目尻から涙が零れてくるまで。執拗に胸に愛撫を繰り返し、同時に口内を弄った。
「…苦し…いよぉ…っ…シーザ…っ…あっ!」
やっとの事で唇を解放してやれば、二人を結ぶ銀色の糸がとろりと口許を伝った。それを舌で舐め取りながら、跡を辿るように顎を滑り首筋をきつく吸い上げる。そのまま辿り着いた胸の突起に軽く歯を立ててやれば、面白いように反応を寄こした。
「…ぁっ…あぁんっ…やぁっ…んっ…ソコ…ソコはっ……」
「ココをこうされるのが好きなのだろう?」
「…ああんっ!…だめぇっ……だめだよぉっ……」
わざと音を立てながら強い刺激を乳首に与えてやる。優しく愛撫されるよりもこんな風に乱暴にされる方が感じる身体は、腕の中でびくびくと震える。その反応をしばらく味わいながら、下着ごとズボンを剥ぎ取った。
「――-あっ……」
下界に晒されたお前自身はその空気の冷たさに一瞬縮こまる。けれども胸への刺激を再開すればソレは直に震えながら勃ちあがった。更に手のひらで包み込んでやれば、あっという間にどくどくと脈を打つ程になっていた。
「早いな、もうこんなだ」
「…それは…あんたが…巧いから…だろっ……あっ!!」
ぴんつと指先で先端を弾いてやれば耐え切れずに喉をのけ反らせて喘いだ。その反応をしばらく楽しんでゆっくりとソレを口に含んだ。
「――-っ!あぁんっ!!だめぇっ…俺っ……」
「何が駄目なんだ?」
一端口を離してその顔を見ればきつく目を閉じ必死に堪えている姿があった。小刻みに身体を震わせながら。その様子を見つめながらもう一度聞いた―――何が駄目なのだ、と。
「…だめぇ…っ…もう俺っ…俺……でちゃうっ…」
「―――いいぞ、出せ。ほら」
「―――っ!!!あああああんっ!!!!」
望みを叶えるために先端の割れ目に歯を立てて軽く噛んでやれば、勢いよくそこから白濁した液体を吐き出した。


無邪気に告げる言葉の意味の先を考える前に奪った。その想いの全てを、お前の全てを。そう俺はお前以上に。お前の告げる言葉以上に。
「…シーザ…お前も……」
自らの衣服を脱ぎ棄てれば既に形を変えた俺自身がお前の目の前に暴かれる。ソレを見てお前の喉がごくりと動いたのが分かった。それがまた俺自身の形を変化させる。
「…んっ…んんっ…ふっ…はっ…はふっ…んんんっ……」
快楽の残り香のせいでまだもつれる唇で、震える指先で俺自身を掴むとそのまま不器用に舌を這わせた。どんなに淫らな獣になろうとも、そこだけはずっと変わらなかった。それでもその方が感じた。どんな巧みなテクニックよりもこうして不器用にお前に咥えられる方が。
「…俺の…中で…俺の……」
ぴちゃぴちゃと懸命に舐める仕草がどんなものよりも俺には感じた。何よりもの快楽だった。そして。
「…俺の…ココで……」
唇が離れるとそのままお前は獣の姿勢を取り、双丘を俺の前に向ける。そこは触れてもいないのに既にこれから訪れるであろう刺激を思いひくひくと小刻みに震えていた。
「…ココで…イって…ねぇ……」
自らの指で秘孔を広げ俺を誘う。刺激を待ち切れずに腰を淫らに揺らしながら。その姿は何よりも誰よりも淫らな獣だ。炎のように熱い淫らな生き物だ。
「―――ああ、ラディ…たっぷりと味わえ」
「ああああっ!!!」
望み通り入り口に俺自身を宛がい、そのまま一気に貫いた。与えられた刺激に媚肉は悦び隠すことなくきつく俺を締め付けた。刺激を逃さないように、きつく、きつく。
「…あああんっ…ああんっ…シーザっ…シーザっ…いいよぉっ…気持イイよぉっ……」
腰に手を当てがくがくと揺さぶってやれば、紅い髪が淫らに揺れる。その先から汗の雫が零れて飛沫のように広がった。ぽたり、ぽたりと。
「ああ、ラディ。俺もいい…お前の中は……」
「ああんっ!!あんあんあんっ!!もっとぉっ…もっとぉっ!!」
媚肉が掠れる音がする。くちゅくちゅと、その音よりももっと激しい息づかいが部屋を埋める。淫らで濡れた音だけが室内を埋めた。それだけがふたりの音になって、そして。
「出すぞ―――うっ」
「あああああああああっ!!!!」
そして、最奥まで一気に貫いてそのまま。そのまま熱い身体の中に欲望の丈を吐き出した……。


もしかしたら、お前の言葉はもっと。もっと無邪気なものだったのかもしれない。
「…だいすき…シーザ…あんただけが……」
もっと綺麗で、もっと尊くて、もっと。もっと透明なものだったのかもしれない。
「…だい…すき…だ……」
けれども俺はもっと醜くて、もっと深くて、もっと。もっと混じり合った想いで。


――――お前が好きで、お前が欲しくて。誰よりもお前を、愛していて。



「…ああ、ラディ…お前を…愛している……」


伸びてくる唇を拒むことなく塞ぐ。触れ合うだけの口づけから零れてくるのは切なくて甘美な罪だった。