IF YOU WANT




ふわりと鼻孔をくすぐった薫りに瞼を開ければ、そこにあったのは予想通りの顔だった。その表情に何故かひどく安堵感を覚えて手を伸ばす。けれどもその手は無残にもぴしゃりと跳ねのけられてしまった。
「…ひどい…ライデン……」
そう言ってはみたもののある意味予想通りだった。こんな場面で優しく手を握り返してくれる相手ではないのだ。分かってはいたけれど少しだけ虚しくなってしまう。
「酷いもなにもないだろう。どうしてお前はこんな所で寝ている?風邪を引いたらどうするのだ」
―――前言撤回。呆れたような口調で、けれどもその奥に心配している声色が見え隠れする。更に眉間にしわが寄っているのは、怒りながらも自分の事を考えていてくれる証拠だ。それに気付いてしまえば先程の虚しさも何処へやら、だ。
「確かにちょっと寒いな。風邪を引くかも…だからライデン」
にっこり笑って手を広げるポーズをすれば、相手の眉間に益々皺が寄るのが分かる。更に不機嫌な表情になるのも。けれどもそんな事でいちいちめげている理由もない。何故なら。
「お前が、暖めてくれ」
そのまま強引に引き寄せ腕の中に閉じ込める。閉じ込めて唇を奪えば、相手は決して逃げない事を、知っているから。


柔らかな藁の上に押し倒された事によってライデンの眉間のしわが益々深くなってゆく。実際こんな事をされる為にここに来た訳ではない。訳ではないのだが…
「こら、ロベルト…こんな所で何している?大体ここは馬小屋じゃないかっ!」
器用に上着のボタンを外してゆくロベルトを恨めしそうに見上げても、どこ吹く風だった。ひどくご機嫌な顔で、勝手に手を進めてゆく。
「大丈夫、こんな所に誰も来やしないよ」
「そ、そういう事じゃなくてっ!」
「じゃあ、何が不満なの?」
真顔で聞いてくる相手に思わずライデンは口ごもってしまう。何が不満だと言われれば、困った事にちゃんとした答えが出てこない。思い付いた回答はムードがないとか、誰かに見られたら恥ずかしいとか、そんな事ばかりで。もしそれ言ったら相手が喜ぶだけなのは目に見えているので、絶対に言う訳にはいかなかった。
「――――皺になる」
「何、ライデン?」
「服が皺になるだろうっ!何でそんなにお前はだらしないんだっ!」
「え?」
言う訳にはいかないからと、こんなしょうもない答えが出た自分に呆れながらも、ライデンは止められなかった。止められなくてそのままロベルトの服を脱がすとあっけに取られたままの相手を無視して自ら服を脱いで、几帳面にも二人分の服を畳んで端に置いた。その一連の動作を呆然としながら見ていたロベルトは、ライデンが畳み終わって端に置いたその瞬間、噴き出すのを止められなかった。
「わ、笑うなっ!大体何時も何時もちゃんとしないお前が悪い…っんっ!!」
一通り満足するまで笑ってロベルトはライデンの身体を引きよせそのまま唇を塞いだ。抵抗する間も与えずに強引に口を割り、舌を忍び込ませてゆく。そうすればライデンが大人しくなるのをロベルトは知っていた。こうして思考を奪う程のキスを与えれば…。
「…んっ…んんんっ…ふっ…はぁっ……」
何度も何度も口づけを繰り返し、舌を絡め取った。時々唇を離せば切なげな甘い吐息が零れてくる。それに満足し再び唇を塞ぎ、そのまま胸へと指を滑らせる。
「んっ!はっ…ぁっ……」
偶然に辿り着いたとでも言うように胸の突起を弄れば腕の中の身体がぴくんっ!と跳ねる。その反応を楽しみながらロベルトの指は胸の果実を堪能する。それと同時に奥深く口内を味わえば、無意識にライデンの目尻からは生理的な涙が零れてきた。
「…ぁっ…ロベ…あぁ…んっ……」
涙の雫が欲しくなって唇を離せば、そこから零れるのは甘いため息で。舌先で雫を舐め取り、胸を弄れば、より深くより甘い声が零れてくるから。
「ライデン、可愛い」
「…バカ…そんな事…言うな…ぁぁっ…やぁんっ……」
指だけでは足りなくてもう一方の突起を口に含んだ。ぺろりと舐めてやれば、ソレは痛いほどに張り詰める。張り詰めた突起に歯を立てれば口から零れるのはもう吐息ではなかった。それは甘い喘ぎ、だった。
「…だめ…ソコは…ソコ…は…あぁんっ……」
「だめじゃないよね、ライデンはココをこうされるのが好きなんだよね」
口に胸の突起を含みながら言葉を紡げばそのたびに歯が当たって、ライデンのソレを刺激する。そのもどかしい柔らかな刺激が、ライデンの身体を震えさせるのを知っていながら。知っているからこそわざと。わざと軽い愛撫を与える。
「…やぁ…ぁっ…ぁぁっ……」
組み敷いた身体がもぞもぞと動くのが分かる。脚を揺らし、布越しに形を変化させた自身を押し付けてくるのが分かる。それをライデンが無意識にやっているのを知っているから、ロベルトは口許に笑みを浮かべるのを止められなかった。そして。
「どうしたの?ココ――――キツいの?」
「―――――っ!」
ズボンの上から膨らみを撫でられて、びくんっ!とライデンの身体が跳ねる。その反応を楽しみながらロベルトは、今度は布越しに形を辿った。それだけでびくびくと震える身体を愛しいと思いながら。
「キツいよね、ライデンのココこんなに大きくなっている」
「…そんな事…言うなぁ…っ…ぁぁんっ……」
「今楽にしてあげるよ」
「あっ!――――あああんっ!!!」
ジィとファスナーが降ろされる音と共に限界まで膨れ上がったライデンのソレが外界に晒される。外のひんやりとした空気に一瞬縮こまるが、次の瞬間生暖かいモノに包まれて一気にソレは膨張した。
「…ああんっ…だめっ…だめだっ…もぉっ……」
「いいよこのまま。このまま出しても」
先端の割れ目に舌を這わされ、大きな手のひらで側面を擦られて、ライデンはもう限界だった。必死に首を横に振って押し寄せる快楽を堪えようとしても巧みな指と舌が許してはくれなかった。そして―――
「あああああんっ!!!!」
そして耐え切れずに、ライデンは自らの欲望をその口の中に吐き出した……


ズボンを脱がされ脚を広げられる。恥ずかしい個所が丸見えになっても、もうライデンには抵抗する気力はなかった。いやもともと…そんなものは目の前の相手にはなかったのだが。
「…く…ふぅっ…くぅんっ……」
ずぷりと濡れた音ともに埋められる指に、ライデンの媚肉は無意識に異物を締め付ける。少しでも刺激を逃さないようにと、きつく。
「…はぁっ…ふっ…ぅっ…ぁっ……」
指を折り曲げられ、中を掻き乱されれば、先ほど果てた筈のソレは直接触れられてもいないのに勃ちあがる。震えながらも、勃ちあがってゆく。
「指じゃ、足りないよね」
「…あっ……」
指が引き抜かれる。体内から異物がなくなって零れる声は名残惜しげで。けれどもその声に気付くほどライデンの意識ははっきりしていなかった。快楽に犯され、思考は拡散するだけで。後はもう。もう刺激を追いかけるだけだから。
「うん、今。今、挿れてあげるよ」
「――――っ!!あああああっ!!!!」
声が耳に届くと同時に、圧倒的な存在感がライデンの中に埋められてゆく。媚肉を押し広げ奥へ奥へと。締め付けすらも引き裂くように巨きくて硬い楔が。
「…あああっ…ああああっ!!!」
「イイ?ライデン。気持ち、イイ?」
「…あっあああっ…ロベ…ルトっ…ロベっ…ああああああっ!!!」
ロベルトの問いにライデンは答える事が出来なかった。もうその身体は刺激を追う事しか出来なくて。もうその唇は激しい喘ぎを零す事しか出来なくて。
「うん、イイよ。私は気持ちイイよ。ライデンの中熱くてキツくて…ぎゅうぎゅう私を締め付けて…もう…限界……」
「あ、あ、あ、…ロベルト…っ…もぉっ…もぉ…イっ……」
「イこう、ほら」
「!!!!あああああああっ!!!!」
ぐいっと腰を引き寄せられ最奥まで貫かれる。その瞬間ライデンは二度目の射精をし、その締め付けにロベルトは耐え切れずにその中に自らの欲望を吐き出した……。


「…お前のせいだ……」
気だるい身体を持て余しながらライデンはぽつりと呟く。その様子をにやにやしながら見つめるロベルトとは対照的に不機嫌な顔で。そして。
「何が?」
「…何がって…お前のせいで……」


「…お前のせいで…ズボンがしわくちゃだ……」


何時もの眉間にしわを寄せた不機嫌な声で告げる恋人の言葉に、ロベルトは声を上げて笑う。笑いながら、答える――――今度はズボンもお前が脱がしてくれよ、と。