鍵穴




―――――その鍵穴に鍵を捻じ込んで、貴方の秘密を抉じ開けたい。


金色の髪から零れる雫がひどく綺麗で、そこだけが切り取られた空間のように場違いなものに思えた。
「…ミシェイル……」
艶やかに濡れた唇が呼ぶ名前にどうしようもない嫉妬を覚え、それ以上に羨望するのを止められなかった。夜に濡れた声が零す乾いた名前に。
「―――どうした?カミュ。お前から俺を求めるなど…珍しいな」
紅い髪、瞳。触れたらその炎に飲まれる程の絶対的な紅。そこに優しさもなければ愛もない。だからこそ、その手は貴方を手に入れる。そこにある激しい熱だけが、貴方を満たす事を私はきっと誰よりも知っている。だって誰よりも私が貴方を見てきたのだから。
「…おかしいか?私が貴殿を欲しがるのは?…」
「いや、構わん。幾らでも求めるがいい、ほら」
「―――っ!…あっ……」
何も纏わない貴方の陶器のように白い身体を、その逞しい指先が触れる。貴方の身体を知り尽くした饒舌な指先が、感じる場所を的確に攻め立てる。そのたびに貴方の白い喉が、震えた。
「…あぁっ…ぁぁっ…ミシェ…イルっ……」
「相変わらず敏感な身体だな―――こんな淫乱な身体では私に逢えない時は、さぞ辛かっただろう」
「ああんっ!」
クククと喉で笑うと、その指が貴方の胸の突起をぎゅっと握りつぶした。その痛みのような刺激に、その唇からは悲鳴のような喘ぎが零れる。それはぞくりとするほど淫靡なものだった。何処までも綺麗で何処までも淫らな……
「それともこうやって自分自身を慰めていたのか?」
「…違っ…そんな事は…はぁっ…ぁぁっ……」
胸の突起を弄りながらもう一方の手が貴方の手を掴むと、そのまま重ねながら貴方自身を握った。そのまま力を込めて貴方自身を締め付ける。そしてゆっくりと自らの手を離した。けれども貴方自身の手のひらはソレからは離れなくて。離れることなく貴方は自らの指で、自身を慰める。
「違わないだろう?俺の手が離れても、お前の手は止まらん」
「…それは…貴殿が…貴殿が…見ている…から……」
「お前は見られると燃えるのか。ならもっと見せろ、俺に。淫らなお前を、な」
完全にあなたから手を離すと、まるで獲物を狙う獣のようにその姿を見下ろす。その紅い双眸に導かれるように貴方は自らの手で、その尖った胸を、膨らみ掛けた自身を弄った。口許から唾液を零しながら、淫らな吐息を洩らしながら。それは。それは、どうしようもない程に――――欲情する姿だった。


ずっと知っていた。貴方の秘密を知っていた。貴方が叶わない、叶ってはいけない恋にその身を落とした時に、すり替えるように紅い炎に飲まれていったのを。そこに愛などなく、ただ欲望だけが満たす場所でしかないと分かっていても。それでも一時の安らぎと忘却の為に貴方がその身を堕として行った事も。
「…隊長……」
ずっと貴方を見てきた。ずっと貴方の背中を追い駆けていた。叶わない想いだと分かっていたから、ずっと心に閉じ込めてきた。けれどそんな貴方を紅い炎が奪ってゆく。奪ってゆく。
「…隊長…貴方の中に…私も……」
命じられて腰を掲げる貴方は何処までも淫らで綺麗だった。決して他人に見せる事のない秘密の場所を自らの指で押し広げ、紅い瞳の目の前に晒す。そこはひくひくと蠢き、刺激を求めて切なく疼いていた。
「…その中に…私のコレを……」
自らの指を突き入れくちゅくちゅと掻き乱す。濡れた音と貴方の荒い息だけが音のない部屋を埋める。淫靡な音だけが、全てとでも言うように。
「…コレを…っ……」
もう限界だった。私は自らのズボンのファスナーを降ろし、貴方の姿に欲情した自らの肉棒を外界に晒した。それは既にどくどくと激しい脈を打っている。
「…コレを…貴方の中に…そしてぐちゃぐちゃに……」
その狭くてキツい秘孔に突き入れたい。そしてぐちゃぐちゃに掻き乱したい。何度も何度も突き入れて、その中で果てたい。身体の体液がなくなるまで、その中に欲望を注ぎ込みたい。注ぎ込んで溢れさせて、そして。そして私の雄の匂いを染み込ませたい。
「…貴方の中に…隊長…隊長…っ…」
手を、動かす。貴方の乱れる姿を見ながら、自らを擦る。貴方の中で果てる夢を見ながら、何度も何度も。


指がソコから引き抜かれる。そのまま腰を高く上げれば、その双丘に黒光りする肉棒が捻じ込まれてゆく。ずぶずぶと奥深く捻じ込まれてゆく。
「あああっ!!あああああっ!!!」
がくがくと揺さぶられ、悲鳴のような喘ぎをあげる。女のように腰を振り、髪を振り乱す。
「イイか?カミュ。イイならもっと自分から腰を振れ」
「ああんっ!!あああんっ!!ああああっ!!!」
命じられたままに激しく腰を振り、貪欲にその肉棒を求める。それに答えるように腰を打ちつけ、貴方を征服する。捻じ込んで、引き裂き、狂わせる。
「―――イケ、カミュ。ほら」
「――――っ!!!あああああああっ!!!!!」
最奥まで貫かれ。貴方は身体を痙攣させ自らの鈴口から白い液体を飛び散らせた。


「――――くっ…隊長…隊長っ…!」


その見かけよりも細い腰を掴んで、捻じ込んで揺さぶって。何度も何度も貫いて、そのまま。そのまま欲望を注ぎ込みたい。溢れて溺れるまで、何度も何度も。
「…はぁ…はぁ…隊長…私は……」
手のひらに吐き出した精液の匂いがひどく生々しくて、何だか可笑しかった。貴方が犯されている姿を見ながら自慰をする自分は情けないのか、それとも狂っているのか。
「…私は…貴方を……」
愛していなければ貴方を手に入れる事が出来たのかもしれない。欲望だけで何も生み出さない関係ならば。けれども私は誰よりも貴方に憧れ尊敬し、そして愛している。愛して、いる。

――――だから貴方は決して、私のものにはならない。

貴方が望むのは刹那の快楽、そして永遠の絶望。決して結ばれない相手への揺るぎない愛と、かりそめの安らぎ。貴方は自らの愛を貫くために、乾いた欲望だけの関係を結ぶ。それでも。それ、でも。
「…愛して…います……」
それでも貴方が選んだ。貴方が他でもないあのひとを選んだ。それは貴方自身も気付いていない、意味のある事で。そう他の誰でもないあの人を、貴方自身が選んだことが。
「…愛して……」
その事は私だけが知っている。他の誰よりも貴方を見ていた私だけが…知っている。


――――貴方の鍵穴を抉じ開けたくても、私はその鍵を持ってはいなかった。