PAIN




―――――傷口から溢れだした紅い血をざらついた舌が舐め取ってゆく。その感触が静かに私を癒し、また別の痛みを生み出した。


貴女がこの世界に生きる事、生きてゆく事。それが私の騎士としてのただひとつの誇り。貴女がこの世界で生き続ける事が、私のただひとつの騎士としての証。貴女の存在だけが…私の唯一の『男』としての意味。


「…ふっ…く……っ」
唇が乾く間もなくグロテスクなソレが捻じ込まれる。もうどのくらいこうしていたのか分からなかった。この苦痛はさっき始まったような気もするすし、継続的に与え続けられているような気もする。もう時間という感覚が分からなくなっていた。
「ほら、もっと奥まで咥えなっ!俺ら全部満足させるまで終わらねーからな、ハハハ」
何人もの男達がすえた臭いを撒き散らしながら、あらゆる場所にその凶器を捻じ込んでゆく。手のひらに、口の中に、秘孔に。
「…はぁっ…ふ…んんんっ……」
口の中いっぱいに広がったソレのせいで、悲鳴を上げる事はなかった。それだけがこのどうしようもない状態の中での唯一の救いだった。女のように嬌声を上げるのも、捻じ込まれた凶器に悲鳴を上げるのも、どちらも耐えがたい苦痛だった。
「ら、出すぜったっぷりと呑み込みなっ!!」
「んんんっ!!んんんんっ!!!」
髪を掴まれ強引に喉奥までソレを捻じ込まれる。その瞬間口の中に生暖かい液体が広がった。それを吐き出す事は許されず、口を引き剥がす事も許されず、生臭い液体を飲み干す以外にはなかった。
「――――っ!!!!!」
飲みほして一息つく間もなく塞がれた後ろから精液が注がれる。何度も何度も犯されたソコは既に感覚が麻痺しかけていたが、それでも最奥まで貫かれれば激しい痛みが襲ってくる。そこに快楽など何処にもなくただ引き裂かれる痛みだけが広がるだけだった。
「ふぅ、気持ちイイぜ。まだイケそうだぜ、この穴はよぉ」
「おい、いい加減に変われよ。俺もその中に挿れたいぜ」
「まてよ、もう一回やらせろ。ほらっ」
「――!んんんっ!!んんんんっ!!!」
「まだまだコッチも楽しませろよ、ほら奥まで咥えな」
果てた筈の肉棒が再びそれぞれの場所でその存在感を強くする。圧倒的質量で口の中に、媚肉の中に、捻じ込み擦れさせる。もう限界だった。意識が溶かされ壊れてゆく。壊れて堕ちてゆく――――


――――貴女がこの地上で華のように咲き続ける事。それが私の生きる意味。


命を奪う事よりももっと屈辱的な罰を与えよう。そう告げられこの地下牢に閉じ込められ、男どもにかわるがわる犯された。女のようにソレを咥えさせられ腰を振り、大量の精液を浴びせられる。それは永遠に終わりのない拷問だった。身体を傷つけられる事よりも、血を流すよりも、戦いで負ける事よりも、何よりもの苦痛だった。
「ほら、腰を上げろ。そしてそのまま呑み込め」
命じられるままに腰を落とせば、グロテスクな肉棒が捻じ込まれる。奥へ、奥へと。腰を掴まれ激しく揺さぶられ、擦り切れるほどに犯される。穴という穴を埋められ塞がれ、吐き出される。生臭い液体に呑み込まれ、もう何も分からなかった。
「ほらもっと腰を振りな、女のようにな、ハハハハ」
麻痺する神経、正反対に過敏になる感覚。白と紅が混じり合ってぐちゃぐちゃになってゆく。出口は何処にもなくて、ただこうして犯されるだけ。そうやって醜い塊になってこの命は終わるのだろうか?惨めな塊になって全てが終わるのだろうか?


――――それでも、いい。貴女という存在を私の手で救う事が出来たのならば。


指先が触れる事すらきっと許されない恋。それでも見えない糸がふたりを結ぶ。
『…カミュ…私は貴方が……』
その先を告げてどうなると言うのか?言ってしまえば互いが辛い。ずっと辛い。
『…あなたが…私は…ずっと……』
告げてしまえば、互いの気持ちが結ばれていると確信してしまったら。


――――それでも告げるべきだったのか?結ばれる事が許されなくても心を繋げば良かったのか?苦しくても、辛くても、それでもしあわせだったのか?


視界が一面の紅に染まる。白い世界が紅い色に染まる。それは鮮明な紅い色だった。瞼の裏に焼き付いて離れない激しい炎の色だった。それを瞼の裏に焼き付け、混沌とした意識をそのまま手放した……。


「――――クズと言うには、クズに失礼だな」


ミシェイルは吐き捨てるように告げると散らばった無数の死体には目もくれず血の気の失ったその白い肢体を抱き上げた。
「何処までも愚かだな―――大陸一の騎士をこんな女のように使うなど」
精液まみれの身体を自らのマントで拭い、そのまま包み込んだ。幽閉期間の間に体重は落ち、軽々と抱き上げられるようになっていた。それがひどく哀れだと思えた。
「この男ほど戦いの場に相応しい華はないと言うのに」
やつれた身体に生気はなく白い肌はまるで透けてみえるほどの青白さだった。それは戦場を駆け抜ける黒騎士の姿とは遠く離れたもので。
「――――お前ほど…あの血なまぐさい場所で美しいものはないと言うのにな」
意識のない唇を塞げば、そこから広がるのは生臭い精液の味ではなく紅い血の味だった。口の端から零れる血をざらついた舌で舐め取る。それはきっと声を上げないようにと必死のプライドで護ったものだろう。その高貴な血を舌先でたっぷりと味わった。そこから広がる微かな淫靡な匂いを感じながら。
「まあ、いい。お前はこんな所で朽ち果てる存在ではない。お前は戦場で咲き誇るからこそ意味がある」
綺麗な金色の髪に指を絡めその感触を確かめた。それはどんなに犯されようとも屈する事のない相手の心のように輝いていた。こんなどうしようもない場所でも、その金色の髪は。
「生きて、戦い…俺の目を楽しませてくれ……」
もう一度意識のない唇を塞ぐ。それは先ほどの血の味とは違う微かに甘い味がした。それはミシェイルの気の迷いだったのかもしれない。けれども確かに甘いとそう感じたのだ。今、この瞬間だけは。


――――生きてくれと私は貴方に告げた。そんな私に貴殿は告げる。生きろ、と。生きて鮮やかに咲き誇れと。


次に目覚めた時この腕の中の男はどんな顔をするのだろうか?誇り高く真っ直ぐに俺を見つめるのだろうか?それとももっと違う表情を見せてくれるのだろうか?どちらにしろ俺にとっては何よりも興味深いものだった。何よりもの楽しみだった。