海に、眠る



地平線を越えた先には、何があるのかな?


風に髪を靡かせながら、ずっと海を見ていた。蒼く深いその色を、ずっと。ずっと、見ていた。柔らかい風を浴びながら、潮の匂いのする風を浴びながら。
「マリク、ここにいたの?」
微かな砂を踏む音と、僕を呼ぶ声に振り返ればそこに。そこには海よりも蒼い瞳があった。綺麗な蒼いその瞳が。
「…マルス様、海見ていました……」
夕暮れの光をそっと染みこませてゆく地平線を、指しながら言った。その手に貴方はそっと。そっと自らの指で包み込むと、背後から抱きしめられた。
「海よりも僕を見ていて欲しいと思うのは、我が侭?」
耳元にそっと囁かれて、僕は瞼を震わすのを押さえきれなかった。そっと囁かれる言葉。静かな声の中に含まれる熱さが。その熱が僕を飲み込み、そして震わせる。
「…我が侭じゃ…ありません……」
こうして僕は貴方に絡め取られてゆく。身も、こころも、全て。全てが貴方へと絡まってゆく。
「…僕はずっと…貴方だけを…見ています……」
僕の身体も、僕のこころも、僕の魂も。全てが、貴方の為に。最後の血の一滴までも、全て。全て貴方に捧げられているものだから。

――――僕の全ては…貴方だけのものだから……


そのまま顔を上げて、貴方を見つめれば。
海よりも蒼い瞳が静かに僕を見下ろしている。
貴方は海のように広くて、そして波のように激しい。
その両面性を知っているのは僕だけだという事実が。
僕しか知らないという事実が、何時しか。
何時しかこころを埋めて、甘い痛みとなって僕を満たした。


「…マリク…好きだよ……」
輪郭を滑る指先が。冷たく熱い指先が。
「…君は僕だけのものだ……」
その感触に睫毛が震え、そしてこころが震え。
「誰にも渡さない…僕だけの……」
降りてくる唇の感触が、全身を痺れさせる。


―――僕は貴方だけのもの…けれども貴方は僕だけのものじゃない……


唇が痺れるほどに口付けられて、脳みそからじわりと意識を溶かされた。そのまま耐えきれずに貴方の身体に凭れかかると、そのままきつく抱きしめられた。
「このままここで君を、犯したい」
耳たぶをかまれながら囁かれる言葉に僕は拒否することは出来なかった。だって僕は…貴方だけのものだから。
「…あっ…マルス様っ……」
後ろから伸びてきた手が、上着の裾から忍び込んでくる。そのまま敏感な個所を指が探り当てると、ぎゅっと胸の果実を摘まれた。痛いほどに摘まれて僕の肩がぴくんっと震える。
「…あぁっ…やんっ……」
片方の手で胸を甚振られながら、もう一方の手が僕の肌を布の下からまさぐる。冷たく綺麗な指が、熱く僕の肌に触れる。
「…はぁっ…ふ…はぁぁっ……」
僕は耐えきれずに自らの指を口元に持ってゆき、もたらされる快楽に耐えた。それが無駄な抵抗でしかないという事は、後で嫌というほどに知らされると分かっていても。
「…ふ…あっ…はぁっ…マルス…様……」
「ダメだよ、マリク。声堪えないで。僕は君の声が聴きたいんだ…声も、僕だけのものだからね」
「…マルス…様…あっ!」
太股を撫でていた指が何時の間にか僕自身に触れていた。ソコは既に身体に与えられた愛撫のせいで微妙に形を変えていた。
「…あぁっ…あんっ…ソコはっ…はぁっ……」
指が形を辿り、そのまま手のひらで柔らかく揉まれた。それだけで快楽に慣らされた身体は、敏感に反応を寄越す。どくどくと何時しか自身は脈打ち、先端からは先走りの雫が零れ始めていた。
「…あぁんっ…あん…あぁ…ん……」
目尻から雫が零れ落ちた。快楽のための涙が止めど無く溢れ出す。そして口から零れる甘い吐息も、止められない。口許から唾液を零してまでも、零れる甘い息を。
「…マルス…様…もぉ…僕は……」
がくがくと脚が震えて、もう立っていることすら出来なくなっていた。自身に与えられる愛撫が僕を崩し、腰を抱く腕だけが僕を引き上げて。貴方だけが僕を溺れさせ、そして引き上げてゆくから。
「―――イク?マリク」
囁かれる言葉の息すらも今の僕には、快楽を増殖するものでしかなかった。熱く囁かれるその言葉ですら。
僕は必死になって首を上下に振って、そして。そして無意識に貴方の手に腰を押し付けて、開放をねだった。そんな僕に貴方は。
「ああああんっ!!」
貴方はくすっとひとつ微笑んで、僕を解放するために先端を強く扱いた。


視界が下へと落ちてゆく。見下ろしていた海が、今は真正面に広がっている。
「…マルス…様…くふっ…はぁっ……」
砂浜に身体を後ろ向きのまま下ろされて、そのまま腰を突き上げさせられた。服の裾を捲り上げられて、一番恥ずかしい個所を貴方の眼下に晒される。ソコは刺激を求めてひくひくと切なげに震えていた。
「…はぁっ…あ…あんっ……」
蠢く媚肉に生暖かい舌が忍び込んでくる。ぴちゃぴちゃとわざと音を立てながら、貴方は僕の秘孔を舐めた。媚肉を掻き分けながら奥へ奥へと、舌は僕の一番恥ずかしい部分を濡らした。
「…あっ…はぁっ…ん…あ…ふぅっ……」
後ろだけの刺激に再び僕自身が震えながら立ち上がっていた。貫かれることを覚えた身体は何時しか後ろの刺激だけでも反応を寄越すようになっていた。
「…あっ…は…はふっ……」
がくがくと震えた腕がそのまま崩れ落ち、益々秘所を貴方に曝け出す形になる。それでももう。もう僕は腕を上げることが出来なかった。
砂が顔に付く。声を上げるたびに、砂が口に混じってゆく。そして口から零れる唾液が、砂に染みこんで淫らな染みを作った。それでも僕は。僕はこの行為を望んでいた。この行為を、自ら望んでいる。
腰を揺らめかせ、刺激を求めた。もっと深い刺激を、求めた。
「―――そろそろ、いい?マリク」
「…マルス…様…もう…僕は…我慢…出来……」
「くす、素直だね。そんな所が大好きだよ」
舌が離れ、貴方の身体が僕の上に覆い被さった。そのまま腰を掴まれ、入り口に硬いモノが当たる。その感触に全身で震えながら、僕は貫かれる瞬間を待った。



「あああああっ!!!」



貫かれる、痛み。貫かれる、悦び。
肉を引き裂かれ、熱い楔が僕を貫く。
中を蹂躙され、そして支配される。


その瞬間を僕は、うっとりするほどに、待ちわびている。


「…あああっ…あああんっ!!」
腰を掴まれ、後ろから突き上げられる。そのたびに僕は喉を仰け反らせて喘いだ。我を忘れて、自らの欲望のままに喘いだ。
「…あぁっ…ああん…あんあんっ……」
抜き差しを繰り返されるたびに、楔は巨きく硬くなってゆく。肉の擦れ合う感触が、粘膜を突き破るような激しさが、僕には。僕には堪らなくて。
「――――ああああっ!!!」
最奥まで抉られた瞬間、僕はその砂の上に真っ白な欲望を吐き出した。体内に貴方の熱い液体が流れてくるのを感じながら。



ぼんやりとする視界の中で僕は。
僕は、目の前の海を見つめた。
その先にあるものが何なのか。
その先に見えるものがどういうものなのか。
僕は知りたいと、ふと思った。

―――ふと、知りたいと思った…その『蒼』の先にあるものを……




「…マリク…僕だけの…マリク……」
逃れられない、逃れたくない。この声に永遠に。
「…誰にも渡さないよ…ずっと……」
貴方とともに、永遠に僕は。この海に。この蒼に。





―――――貴方に閉じ込められて永遠に海に、眠りたい。