―――少しでも、貴方に追いつきたくて。
少しでも傍にいたいから。
少しでも近づきたいから。
少しでも一緒にいたいから。
貴方と一緒に、いたいから。
「…ジョルジュさん…僕……」
大きな瞳から今にも涙が零れてきそうで、それがひどく。ひどく愛しいと思った。
「…僕…その…」
このまま抱きしめてもいいのだろうか?このままこの腕の中に閉じ込めてしまっても。
「マルス王子は、いいのか?」
走ってきたのだろう、まだ息が荒い。更に額に汗まで掻いている。そんなにして。そんなにしてまでお前は俺に会いに来てくれたのか?
―――そんなにしてまで、俺に……
「マルス様は大切な人です…でも…でも僕は…」
「…ゴードン……」
「…僕は貴方と一緒にいたいんですっ!…」
それだけを言うと堪えきれずにお前の瞳から涙の雫がぽたりと落ちた。それがあまりにも綺麗で。とても、綺麗だったから。
この指でそっと掬い上げて、そして濡れた睫毛に口付けた。
―――アカネイアを救ったアリティアの王子。
昔からの言い伝えそのままに。そのままに聖剣ファルシオンを持って。
この大地を救ったアリティアの王子。
けれども、けれども僕は。
この世界を救ったマルス様の傍にいて、国の再建を手伝うよりも。
…それよりも…貴方に…会いたくて……。
「―――いいのか?」
「ジョルジュさん?」
「…国は…マルス王子は…いいのか?…」
「マルス様には他にたくさんの人がいます。強力な仲間達が…でも…」
「でも?」
「…僕には…ジョルジュさんしか……」
そう言って俯いてしまった頬がほんのりと紅い。何時も、こうだ。お前は純粋な気持ちを真っ直ぐに俺に向けてる。真っ直ぐで曇りひとつない、綺麗な想いを。
だから俺は。俺はその想いを汚したくなくて。大切だから。何よりも大切だから。
お前の向けてくれるその想いを、大切に護りたいから。
―――大切に、したいから。
「俺にもお前だけだよ、ゴードン」
「…ジョルジュ…さん……」
俯いたままの頬にそっと手を充てると、そのまま自分の方へと向かせる。その瞳はまだ濡れていて、そして触れている頬は暖かい。それが無意識に俺の口許を微笑わせるのを、お前は気付いているのか?
「…ちょっと見ないうちに…」
「はい?」
「―――綺麗に、なったな」
お前が反撃を述べる前にその唇を塞いだ。俺の口の中に永遠にお前の言葉は閉じ込められる。それで、いい。だってお前は俺だけのものだから。
「…ジョ…ジョルジュさん……」
「綺麗になった、ゴードン。益々惚れ直すよ」
「…あ、あの…ジョルジュさんだって…」
「ん?」
「…益々カッコ良くなって…僕…どきどきしています……」
それだけを言ってまたお前は俯いてしまう。そんな所は全然変わらなくて。初めて逢った時から、全然変わらないお前の純粋さ。でも俺はそんな所が大好きで、どうしようもない程に愛しいから。
「もっとどきどきさせてやるよ、ゴードン」
そしてそのまま冷たい床に、その細い身体を押し倒した。
久々にこの腕に抱くお前は、やっぱり変わっていなくて。
この行為に慣れる事がなく真っ赤になりながら。恥じらいながら。
それでも俺に一生懸命答えようと、背中に腕を廻す。
そんなお前が。そんなお前が何よりも愛しくて、そして何よりも愛している。
微かに汗の匂いのする髪と。快楽に染まる白い肌と。
そして、そして濡れた瞳が。
全部。全部、俺だけのものだから。
「…あっ…ジョルジュさん……」
深く俺を受け入れて形良い眉が苦痛に歪む。狭過ぎるそこは、何時も俺を受け入れる時に痛みを伴うのだ。それでも。
「…ゴードン……」
それでも必死に堪えて俺を受け入れてくれる。背中に爪を立てながら、必死に。
「…ああ…はぁ……」
痛みを和らげる為に顔中にキスの雨を降らせた。そのシャワーを浴びながら、お前の身体は朱に染まってゆく。うっすらと汗ばむ肌は、けれども確かに快楽に溺れ始めていた。
「―――動いて、いいか?」
そっと息を吹き掛けるように囁いた言葉に、お前は小さく頷いた。その仕草にご褒美とばかりに俺は額に唇をひとつ、落として。
―――そしてゆっくりと、お前の全てを手に入れる為に腰を動かした……。
一緒に、いたいから。
貴方と一緒にいたいから。
だから早く追いつきたい。
貴方の隣に立ちたい。
貴方の隣に立って、そして。
そしてともに戦えるように。
強く。強く、なりたい。
貴方の傍に、いたいから。
「再会した途端、お前を抱くのは…俺がケダモノの証拠かもな」
「…ジョルジュ…さん……」
「でもそれだけお前が好きだって事で、許してくれよ」
「…許すも何も…僕だって……」
「…僕だって…ジョルジュさんを…感じたかったです……」
離れている間。淋しくて。
とても淋しかったから。
世界が平和になって、故郷のアリティアが自分達に帰って来て。
嬉しい筈なのに。満たされている筈なのに。それなのに。
こころにぽっかりと穴が空いてしまったように、淋しくて。
どうしようもないくらい淋しくって。それが。
それが貴方のせいだって事に気付くのは、とても簡単だった。
だから僕は。僕はこうして貴方を追い掛けました。
少しでも傍にいたかったから。少しでも近づきたかったから。
だから貴方のもとへと、やってきた。
「ゴードン」
貴方は笑うと、そっと僕を抱きしめてくれた。暖かい、腕。優しい、腕。
僕が何度も夢に見た、貴方の腕の中。
「…ジョルジュさん……」
貴方の温もりを感じながら、僕はそっと目を閉じた。暖かい腕の中で眠る事が出来ると言う、どうしようもない幸福感に包まれながら。
―――貴方の傍にいる事が出来ると言う幸せを、噛み締めながら。
「…おやすみ、ゴードン……」
聴こえてくる貴方の優しい声に、包まれながら。
一生懸命貴方に追いつくから。
だから、待っていてくださいね。
腕の中のゴードンが眠りにつくのを確認して、ジョルジュはそっと目を閉じた。その温もりを確認しながら…。