ずっと、見ていたかったから。
光の、皇子様。眩しいほどの光に包まれた、皇子様。
真っ直ぐで綺麗な道がそこに在って。その上を。
その上を決して曲がる事無く、歩んでゆく人。
…私はそんな貴方をずっと、見てゆきたかった……
何時も元気な振りをしていた。何時も勝気な振りをしていた。悟られたくなかったから。私の気持ちを気付かれたくなかったから。だから何時も独りで何でも出来ますって顔をしていた。
何時も貴方の隣には可愛いお姫様。
蒼い長い髪の。大きな瞳のお姫様。
昔から決まっていた事。皇子様の隣にはお姫様がいて。
そしてお姫様の為に強くなってゆく皇子様。
そして二人はたくさんの出来事と困難を越えて結ばれる。
それは昔から決まっていた物語だから。
『カチュア、ありがとう。君がいて、とても嬉しいよ』
微笑った顔が大好きでした。優しい笑顔で貴方が微笑う時が一番大好きでした。
『ありがとう、カチュア…シーダも君達がいて心強いって言っているよ』
そして、シーダ様の事になるともっと優しい顔になる貴方が。そんな貴方が何よりも苦しくて、何よりも嬉しかったんです。
『本当に、ありがとう』
苦しくて、とっても苦しくて。切なくて泣きたくなった事はいっぱいあったけれども。でも貴方が好きな人の事を、こんなにも優しく。優しく暖かく語れる人だと言う事実が何よりも、嬉しかったんです。
―――マルス様、大好きです。
何時もこころで呟いていた言葉。
決して告げられない言葉。
告げてしまったなら優しい貴方は。
優しすぎる貴方はきっと悩んでしまうから。
だから、私は言わない。
ずっと。ずっとこころに閉じ込めて。
閉じ込めて、消えるまで。
ゆっくり、ゆっくり消えてなくなるまで。
好きになった人を、苦しめるような女にだけはなりたくなかったから。
貴方の廻りを包み込む空気が好きでした。
優しくて暖かくて、心地よいその空気が。
光に包まれ、光の中で生きる貴方は。
貴方はとっても眩しくて。そしてとっても強いから。
だから見つめる事だけは、許してください。
「…マルス…様……」
それでも、やっぱり零れ落ちる涙は止める事が出来なくて。
どうして、かな?どうしてなのかな?
何時も微笑っていたいと。貴方の前では。
強くて、独りでも大丈夫だって。
こんなにも私は元気ですって、そうやって。
そうやってずっと、ずっと微笑っていたいのに。
でも時々こうして止められなくなるのはどうして?
両手で抱えきれない想い。
そっと溢れてくる想い。
手のひらから、こころから零れ落ちてくる。
静かに落ちてくるこの想いを。
どうしたら全て拾い上げて、埋める事が出来るかな?
全部、全部、奥深い場所に埋めて。そうして。
そうして誰にも分からなくなるように。
そうしないときっと。きっと何時か貴方を苦しめてしまうから。
ひかりの、おうじさま。
いつもとってもまぶしくて。
まぶしいから、めがいたくて。
いたいから、なみだがこぼれるの。
ぽろぽろと、こぼれおちてゆくの。
神様私に、強さをください。
貴方を護れる強さを。
貴方を護る事の出来る、強さを。
あの人に出来ない唯一の事がそれだけならば。
私は貴方の剣と盾になりたい。
―――貴方の背中にいる事が出来ないのならば、貴方の前に立って…護りたい。
「マルス様…私…」
貴方を護りたい。この手で。
「…私…マルス様の役に立ちたい…」
この手で、貴方を。
「…私…貴方に……」
「…必要とされる人間になりたい……」
そのくらい、許してくれますか?
ただこれだけを願う事を、どうか。
どうか、許してください。
…ごめんなさい…シーダ様…マルス様……
光の皇子様。ただ独りの皇子様。
眩しい光の中で、綺麗に輝く人。
そんな貴方を私はずっと。
……ずっと、見ていきたい………