愛憎



―――指先から零れ落ちるものは、その想いの答えは何処にあるのだろうか?

紅い髪に口付けて、そのまま乱暴に衣服を剥ぎ取った。縛り付けられた両手では抵抗する事も出来ない。ただその瞳を俺に睨み付ける以外には。
「…ミシェイル……」
それでもその瞳に見え隠れするどうしようもない憐れみと哀しみは…一体俺の何に向けられているものなのだろうか?
「無様な格好だな、ミネルバ」
着けていた衣服は無残にも引き裂かれ、素肌が眼下に晒されている。隠そうとしても両の手は拘束されてどうにもならない。ふくよかな乳房が、すらりとした肢体が、こうして暴かれている。普段は鎧に隠されている白い素肌はほんのりと朱に染まり、乳首は綺麗なピンク色をしていた。下腹部は茂みに覆われ見ることは出来なかったが、脚を広げてしまえば簡単に陥落するだろう。
「…どう…して……」
見つめる瞳と裏腹に声は何処か弱々しかった。いくら兄弟とはいえ異性を前にして恥ずかしい格好を晒すのは、お前でも耐えられないのだろう。
「――どうしてだろうな」
言葉にしてみたらひどく可笑しくなった。笑いたくなった。今ここで狂気染みた笑いを浮かべれば、きっと何よりもこの場面に似つかわしいのだろう。実の妹を捕らえ、そして陵辱しようとしている兄など。ただのキチガイでしかないのだから。
「ただお前が憎い。それでは理由にならないか?」
コツコツと、乾いた音がした。お前に近付く俺の足音だけが室内を埋める。そんな俺をお前はただ、見ていた。憐れみとも哀しみとも付かない瞳で、俺を。
「私がマケドニアを…貴方を裏切ったからか?」
「―――そう思いたければそう…思えばいい」
そんなお前を見下ろしながら、俺は顎を捕らえてそのまま口付けた。舌を噛み切られると思いながら、噛みきってくれと思いながら口中に舌を忍ばせて……。


『兄上、私は男に生まれたかった』
『どうしてだ?ミネルバ』
『…だって男に生まれれば…ずっと一緒に』

『――― 一緒にいられるでしょう?』



竜に乗り、鎧を纏ったのは心を封印する為。
全ての甘い、そして苦しい想いを封印する為。
この硬い鎧の中に閉じ込めてしまえば。
全てを閉じ込めてしまえば、私は『騎士』として。
そうして、生きてゆく事が出来るから。

―――ミシェイル…と…何時から私は兄上をそう呼び始めたのだろうか?



「――はあっ……」
舌を絡め取り、きつく吸い上げても噛まれる事はなかった。ただ答える事もなかったが。そのままたっぷりと口中を蹂躙してから開放した。お前の口許に飲みきれない唾液の筋が伝う。けれども俺はあえてそのままにさせた。
「…ミシェイル…どうして?……」
見上げてくる瞳は何処か潤んでいた。それはひどくお前を『女』に見せた。こんな顔を知っている人間が俺以外にいるのだろうか?何時も鎧を纏い、女というものを隠し続けているお前に。それを戦場で否定し続けるお前に。
「最も効果的な苦痛の与え方だろう?こうして陵辱されるのは」
「ああんっ!!」
剥き出しの乳房を鷲掴みにした。そしてそのまま力任せに握り締める。手のひらに収まりきらないそれは、ぷるんっと震えた。
「…やめ…ミシェイル…いやぁっ……」
弾力のある胸はいくら握りつぶしても、手からはみ出てくる。柔らかく張りがあるソレは、極上の感触を指先に与えた。
「…止め…ミシェイ…ル…あああんっ……」
握りながら、ぷくりと立ちあがった乳首を指の腹で転がした。かりりと爪で引っかいてやると耐えきれずにあられもない声を上げる。それは明らかに感じている声、だった。
―――実の兄に身体を好きにされて、それでも感じているのは女の性だからだろうか?
首を左右に振りながらも、口から否定の言葉を零しても。それでも明らかに身体の方は刺激を求めている。
「…あぁ…止めて…止めて…あぁんっ……」
乳首を指で摘んで、そのまま引っ張った。充血した果実が痛い程に張り詰めている。それをそのまま口に含み、舌先で転がす。そして空いている方の手で、柔らかな肢体に指を滑らせた。成熟した女の身体、だった。それは紛れもなく女の柔らかさを持った身体だった。
―――幼い頃必死で俺の後を着いて来た少女とは違う……
「…いや…ミシェイル…あぁ…あっ!!」
胸から口を離すとそのままぐいっと脚を開かせた。一番恥ずかしい個所が露にされる。お前は必死で脚を閉じようとするが、俺はそれを許さなかった。足首を掴み固定させると、茂みの下に息づく秘所を見つめた。そこはひくひくと生き物のように蠢いている。
「…はあっ…ああっ!!」
外側を指でなぞり、そのまま中へと侵入させた。蕾は異物を排除しようとぎゅっと締め付けたが、構わずに中へ中へと進ませる。
「…いやあっ!止めて…止めてっ……」
くちゃくちゃと肉の抵抗を振り切るように内部を掻き混ぜれば、イヤイヤと首を振った。紅い髪からは汗の雫を飛ばしながら。
「嫌と言っているわりには、ぐちゃぐちゃになっているぞ。実の兄にこんな事されて感じているなんて…お前はどうしようもない淫乱だな」
「ち、違っ…違う…あぁ……」
幾ら言葉が否定しても、花びらから零れるのは甘い蜜。とろりと指先が湿ってくるのが分かる。ぐちゅぐちゅと指を掻き乱すたびに濡れた音が室内を埋めた。
「…あぁ…ん…はぁ…ダメ…止めて…はぁぁ……」
「その癖に腰を押し付けてくるのは何処のどいつだ?」
俺の言葉にかああっと身体が火照るのが分かる。それでも腰を引く事はさせなかった。指の本数を増やして、勝って気ままに中で遊ばせる。そのたびに一番感じる個所に当たり、ぴくんぴくんと身体を震わせ た。
「…いやぁぁ…あぁ…止めて…止めてぇ…あぁ……」
たっぷりと濡れているのを確認して俺は指を引き抜いた。その瞬間ぴくんっと身体が鮮魚のように跳ねた。そして蕾はひくひくと刺激を求めて震えている。
脚を広げさせたままで、しばらく愛液を零すソコを見つめた。視線に晒されているだけで感じるのか、蜜の分泌量が増えてくる。口から零れる息も甘いままだった。
「…あぁ…もぉ…止めて…もう…これ以上……」
目尻に涙を浮かべながら哀願するお前は綺麗だった。何よりも誰よりも綺麗だった。綺麗過ぎて、そして。そして苦しかった。


―――憎んで…ほしかった…俺を…俺を何処までも……

お前がもう二度とこちら側へと戻れなくなるくらいに。
お前はマルスとともに光ある場所へとゆく為に。
滅びゆく俺達へと二度と振り返らないように。もう二度と。
あの時お前は俺に止めを刺せなかった。
死にゆく筈の俺に最後の止めを刺さなかった。
あの時俺はお前に刺され、死んでしまいたいと思ったのに。
どうしてだか、分かるか?いいや分からなくていいんだ。

―――俺はお前を…愛していたんだ……

実の妹に対する愛情ではない想いで。
それを越える想いで、俺はお前を。
だから俺はもう二度と。二度とそちら側へとゆかない。
お前の元へと、ゆかない。
それが俺に出来る唯一の事だから。だからミネルバ、俺を。
俺を何よりも憎んでくれ。俺を何よりも愚かだと想ってくれ。
そして俺を忘れてお前は。お前は、その。

―――綺麗な道を、歩んでくれ……



「あああああああっ!!!!!」


ズブズブと濡れた音とともに、お前の中に俺自身が吸い込まれてゆく。刺激を求めてひくついていたソコは、俺の肉棒に淫らに絡み付ききつく締め上げた。
「…ああああっ…ああんっ…あぁぁぁっ!!」
一端最奥まで侵入させると動きを止めた。そして犯している自分の妹の顔を見下ろす。その顔は苦痛よりも快楽に歪んでいる顔だった。
「どうだ、ミネルバ…実の兄に犯されている気分は…実の兄を咥えている気分は」
「…あぁぁっ…抜いて…お願い…抜いてぇ…あああ……」
言葉とは裏腹に媚肉は俺をきつく締め付ける。首を左右に振って逃れようとしているが、繋がっている個所は焼けるほどに熱かった。
「…お願い…ミシェイル…もぉ…もぉ…私…あぁぁ……」
「どうにかなるか?」
「…あぁ…あぁぁ…ダメ…ダメ…なの…もぉ……」
「―――どうにかなってしまえ」
「ああああっ!!」
ぐいっと腰を押し付け、そのまま身体を揺さぶった。細い腰を掴むと、何度も揺らして抜き差しを繰り返す。そのたびに締め付けがきちくなり、そして俺自身も硬度を増していった。
「…あああ…ああ…もぉ…へんに…へんになっちゃ…ああああ……」
パンパンと腰を打ち付ける音と、肉が擦れ合う感触だけが世界の全てになる。もう何も考えられなかった。もう何も考えられずに、俺は夢中になってその身体を貫いていた。そして。
「――――ああああああっ!!!!」
そしてその身体の中に大量の精液を俺はぶちまけた。



――――ずっと…好きだったから………

だから貴方を兄とは呼びたくなかった。だからミシェイルとそう呼んでいた。本当はずっと貴方だけが好きだった。たとえそれが許されないものだとしても、私は。私はずっと貴方だけが。

だから鎧を身に纏った。
だから竜騎士になった。

鎧を身に纏い、想いを封印した。そして竜に乗って貴方の傍にいた。
貴方のそばにいられる方法が、それしか想い付かなかったから。

…本当はずっと一緒にいたかったの……。



「ミネルバ、俺を憎め…そしてもう二度と俺に情けをかけるな……」


貴方の声に私はうっすらと目を開けて、そしてその顔を見つめた。泣きたくなった、ひどく泣きたくなった。
「―――もう二度と…」
ずぷりと音がして私の身体の中から貴方が引き抜かれる。その刺激に私は眉を顰めた。けれども。けれども本当はずっと…ずっとその存在を感じていたかった。
「俺を憎んでくれ」
貴方の手が伸ばされて、私の両腕の戒めが解かれる。そしてその手に握らされたのはナイフだった。
「さあ、これを持って逃げるなり俺を刺すなり好きにするがいい…だから二度と…」
―――二度と俺の前に現れるな……と、貴方はそう言うでしょう。だから私は。私は、そっと。

そっと貴方の背中に手を廻した。


「…ミネ…ルバ?……」
「…ミシェイル……私は貴方を殺さない……」
「―――」
「…殺せ…ない……」

「…愛している…から……」


一度だけ、キスをした。私から、キスをした。
触れるだけのキス。けれどもそれが全てだったから。



「…さようなら………」



ふらつく身体で必死に立ちあがって、私は貴方から離れた。床に落ちていたマントを羽織り、そこに立ち止まる貴方をもう一度だけ見つめて。見つめて、そして。


「―――さようなら……」


扉を閉じた瞬間に、私は声を殺して泣いた。
全ての想いと、そしてただひとつの想いに。
私は泣く事しか、出来なかった。



――――零れ落ちて溢れた想いは、ただその場に置いてゆく事しか出来なかった。