誓いの剣



――――俺の剣はただひとり、お前だけの為に捧げるから。


「これでよかったの?」
何時も気丈に生きなければならなかった、お前。でも今やっと。やっとその仮面を外す事が出来た。女王としての仮面を。
「何故、聴く?」
「だって貴方は傭兵…一定の所に留まる事無く…」
お前はそれ以上を云う事を躊躇うかのようにそっと口を閉じた。その瞳が何処か不安げで、俺はひどく切なくなった。
「――シーマ…」
こんな目をさせる為に俺は、ここにいるんじゃない。俺がここにいる理由はただひとつ。ただひとつ、だけ。
「…はい…」
その理由をお前に告げる事が。それがただひとつの不安を取り消す方法だとしたら。
「俺は」

「お前だけの傭兵だ」

お前を護る。他の誰でもないお前だけを護る。女王ではないただ独りの女である、お前だけを。

―――それが今、俺がここにいるただひとつの理由。


「…サムソン……」
驚きに見開かれた瞳。それすらも俺にとっては、何よりも大切で、何よりもかけがえのないもの。何よりも、俺にとっては。そして、お前は俺にとって。何よりも。
「―――シーマ…俺は、お前だのものだ」
その言葉にお前の瞳からそっと。そっと一筋の涙が零れ落ちる。それが何よりも綺麗で。綺麗だったから、一瞬拭うのを躊躇うほどに。けれども。
「…その言葉を…信じて…いいのですね…何もない私でも…護ってくれるのですね……」
けれども今。今この涙を拭えるのは俺だけだから。俺だけがお前を…お前を。
「…女王でもない…ただの平凡な女です…私はただの…それでも…」
そっと手を伸ばし、そして。そして零れ落ちる涙を拭い。俺はその身体を抱きしめる。きつく、抱きしめる。
「…女王でないのならばもう俺は…自分の気持ちを抑える理由がない…シーマ…俺は…」
抱きしめる。思いの丈を込めて、そして。
「―――俺はお前を…愛している……」
ただひとつの想いを、ただひとつの真実をお前に告げる。どんなになろうとも、変わらない想いを。


お前がどんな身分の女でも。
どんな境遇にあろうとも、俺にとっては。
俺にとってはただ独り。ただ独り、この剣に。
この剣に誓い、護ると決めた。
―――ただ独りの、女だから……


「…サムソン…私も…ずっと貴方の事が……」
「…シーマ……」
「…貴方だけが、好きです…貴方だけを、愛しています…だから…」


「…だから…ずっと私のそばにいて…ください……」


後から後から零れてくる涙を指先で拭いながら、俺はそっとお前の唇に口付けた。剣に誓ったように、今俺は。俺はお前に誓う。
―――ずっと、お前のそばにいると…永遠に、誓う……。
「…そばにいる…シーマ…俺はお前だけの傭兵だ……」
「…サムソン……」
お前の細い指先が俺の頬に、触れる。触れてそして。そしてそっと、微笑った。その顔はひどく子供のような…少女のような笑みだった。それがきっと今まで。今までお前が閉じ込めてきた顔。女王だと言う仮面が、閉じ込めさせていたもの。その、笑顔が。
「…私は…今…何も持っていないけれど…貴方にあげられるものは何もないけど…それでも…私の傭兵でいてくれるのですね……」
「―――お前がいれば、それだけでいい。お前さえいれば、俺は」
「…サムソン…私を……」
そこまで言って、お前は一端言葉を止めた。そして。そしてそっと俯いて、小さな声で。俺にしか聴こえない小さな声で、言った。

――――私を…抱いて…ください…と……


そっとその身体をベッドの上に横たえさせる。鎧を脱ぎ捨てたその肢体は、儚いほどに華奢だった。
「…シーマ…愛している…」
「…サムソン…んっ……」
そっと口付けながら、お前の衣服を脱がしていった。自分でも可笑しいくらいに緊張しているのが分かる。女を抱くのは初めてじゃないのに…まるで初めてのように緊張した。
「…んっ…んん……」
薄く開いた唇に、そっと舌を忍ばせる。少しだけ怯えたお前の舌を絡めて、そのまま吸い上げた。その瞬間、ぴくりっと睫毛が揺れる。
「…んんん…ふぅ…んっ……」
角度を変えながら何度も何度も口付ける。いくらその唇を重ねてもキリがないとでも言うように。キリが、なかった。幾ら口付けても、後から後から愛しさが込み上げて来て。
「…はぁっ……」
やっとの事で唇を開放した頃には、お前の瞳は微かに潤んでいた。その瞳で俺を、見上げる。
「―――綺麗だ、シーマ……」
生まれたままの姿になったお前を、余す所なく見つめた。透けるほどの白い肌が、ほんのりと朱に染まってゆく。俺の視線で、染まってゆく。それが何よりも愛しかった。
「…そんな…見ないで…恥ずかしい……」
「綺麗だ、俺の…シーマ……」
「…あっ……」
薄い鎖骨にそっと口付けて、そのまま柔らかい乳房を揉んだ。俺の無骨な指では傷つけてしまいそうな不安が過って、壊れ物を扱うように丁寧に揉んだ。柔らかい肉が、指の隙間に零れる。伝わる感触が、俺の欲望に火を付ける。
「…ああっ…んっ……」
廻りを柔らかく揉んでから、尖った乳首に指を這わせた。指の腹で転がしながら、外側を揉む。そのたびにびくんびくんと、腕の中の身体が震えた。
「…あぁんっ…あん…はぁぁっ……」
空いている方の胸を口に含む。もう一方を揉み解しながら、尖った突起をちろちろと舌で舐めた。何時しか乳首だ唾液でねっとりと光る。それをそっと指で拭った。
「…あぁ…サムソン…はぁ……」
胸から一端指と舌を離して、お前の身体に滑らせる。俺が知らない個所などないように、全てに。全てに、巡らせた。
「…あんっ!……」
時々的を得たようにぴくんっと身体が跳ねる個所を、集中的に攻めた。その度にその身体は熱を帯びて紅く染まってゆく。綺麗に、染まってゆく。
「…あぁ…ん…あ…あっ!」
下半身に辿りつき脚を広げて、お前の一番感じる場所に辿りついた時には、そこはしっとりと湿っていた。
「…あぁっんっ…あんっ!……」
外側の肉を指で広げて、中へと舌を忍ばせた。とろりと零れる蜜を舌で感じながら、奥へ奥へと侵入する。舌が一番感じる個所を探り当てた時、お前の身体は鮮魚のように跳ねた。
「…ああんっ!…あぁ…あぁんっ……」
剥き出しになったソレを舌で突ついて、外側の媚肉を何度も指で辿った。その度に花びらはヒクヒクと切なげに蠢いて、俺を淫らに誘う。俺は何時しか夢中になってソコを吸い続けていた。そして。そして…
「あああんっ!!」
お前は身体をびくびくと震わせながら、大量の蜜を零して…イッた……。


「…サム…ソ…ン……」
乱れた息のまま、それでもお前は俺の名を呼ぶ。それに答える変わりに顔を上げて、お前の唇にひとつ口付けた。
「―――シーマ…愛している…俺だけの……」
「…私も…愛している…だから……」
白い腕が俺の背中に廻ると、そのままぎゅっとしがみ付いた。その腕が、その身体が、微かに震えているのを見逃さずに。そして。
「…だから……」
震える声で、震える睫毛で。告げようとした言葉を、そっと。そっと俺は唇で塞いで。そして。
「ああ、ひとつになろう。シーマ」
その言葉に。俺の言葉にお前は微笑った。その顔は俺が見てきたお前の顔の中で、一番綺麗な笑顔だった。


「…ああああっ……」
細心の注意を払って、俺はお前の中へと挿っていった。それでも初めての繋がりは、そこから血を零さずにはいられなかったが。それでも俺は。俺は自らの湧きあがる欲望を抑えて、ゆっくりとお前の中へと挿っていく。
「…あああ…あぁぁっ…ああっ……」
ぎゅっと、お前が俺にしがみ付く。それが嬉しかった。それが、嬉しかった。俺だけを、ずっ。ずっとこのまま。このまま一生、抱き付いていてくれ。この背中はお前だけのものだから。
「…シーマ…愛している…シーマ……」
こんな事で痛みが、衝撃が和らぐとは想わなかったが、俺はキスをした。お前の顔に余す所なく、キスをした。
「…あぁぁ…あ…サムソン…私…私…平気…だから……」
震えながらも開かれる睫毛。涙が零れても俺を見つめる瞳。その全てが、俺にとって。俺にとって何よりもの。
「…シーマ……」
「…私…嬉しいの…貴方とひとつになれて…嬉しいの…だから…貴方の気持ちを…もっと見せて……」
何よりも愛しく、そして。誰よりも愛した女。俺の全てを懸けて、ただひとり愛した女。この剣に、誓ったただ独りの女。
「―――ああ、シーマ……」
「あああっ…ああああっ!……」
俺はその細い腰を掴んで、思いの丈を込めて揺さぶった。きつく熱いその中を掻き分けて、俺はお前の中へと。お前の、中へと。
「…愛している…シーマ…俺だけの……」
「…あああ…あぁ…サムソン…サムソン…あああっ……」
「―――俺だけの…王女……」
「あああああっ!!」
そして想いの全てを、お前の中へと注ぎ込んだ。



誓い、ただひとつの誓い。
永遠にお前を。お前を護ると。
ただひとつの俺の、誓い。


…永遠にお前だけを愛し、お前だけを護ると…この剣に誓う……



「…サムソン…ありがとう……」
「…シーマ……」
「…貴方に逢えて…よかった…貴方がいてくれて…」
「―――俺もだ…シーマ…俺の剣を捧げる相手が」


「俺が永遠を誓う相手が…お前で…よかった……」


見つめあって、そして。
そして指を絡めあって。
絡めあって、キスをした。
誓いのキスを、ふたりが。


―――ふたりがずっと共にあると言う、誓いを込めて……




「…この剣に誓う…永遠に、お前を護ると……」