カミサマ、この恋を



―――――どうしたら、上手く微笑う事が出来るのだろう?どうしたら、自然な言葉が口から零れるようになるのだろう?


どちらが先に好きになったかなんて、そんな事は無意味で。どちらが先に思いを告げたなんて、そんな事も無意味で。ただひとつだけ本当の事は、貴方の意思で貴方が選んだという事…それだけだった。
「―――パオラ、お疲れ様」
見上げればそこにあるのは穏やかで涼しげな碧色の瞳で。その瞳をずっと見つめていたいと願ったのは、何時からだったのだろうか?つい最近のようにも思えるし、ずっと遠い昔のようにも思えた。
「アベルも…お疲れ様」
こうして戦いの後気付けばこうして互いの『生』を確かめるかのように、自然と言葉を交わすようになっていた。ごく自然に、まるでずっと前からこうしていたかのように。
「今日は君のおかげで助かったよ。君のペガサスの鳴き声がなかったら、草むらに隠れていた敵に気付けなかった。本当にありがとう」
「お礼なんていらないわよ…だって私たちは共に闘う仲間なのだから」
見つめあって微笑いあう。そんな他愛の場面の中で私は、自然な表情をしているだろうか?ちゃんと、微笑っていられているのだろうか?
「それでもきちんとお礼が言いたかった。ありがとう」
「…アベル……」
私の口許は歪んではいない?瞳はちゃんと貴方を真っすぐに見られている?不自然な表情をしていない?そんな事を頭の中で巡らせてみても…きっと貴方は気が付かない。

――――だって私は仲間だもの。仲間でしかないのだもの……

それでも私は願った。貴方の笑顔を、貴方のしあわせを。それは嘘じゃないの。それは本当の事なの。けれども、それでも。
「じゃあ私はそろそろ行くわ…エストに無事な笑顔を見せてあげてね」
こうして言葉を交わせば、こうして瞳を重ねれば、こうしてそばにいれば…その先にあるものをどうしても願ってしまう。その先にある貴方の瞳の奥を望んでしまう。
「…ああ、じゃあパオラ……」
先に踵を返すのは、今この場にある想いから少しでも逃れるため。想いの破片が漂ってしまうのを隠すため。貴方の後ろ姿を追いかけてしまわないため。――――貴方の姿を瞳が追いかけてしまわないようにするため……。


私が望んだことはずっと。ずっと貴方が微笑っていてくれること。優しい笑顔で、穏やかな瞳で。その為ならばどんな事でもしようってそう思ったのに。思っているのに、こんなにも苦しい。今は、苦しい。貴方のしあわせな笑顔が。
『…恥ずかしいな…何かこんなのは…でも本気なんだ…エストの事は』
少しだけ困ったような顔で、それでも嬉しそうな瞳で貴方が告げた想いは私の心を貫いてゆく。このまま。このまま壊れてしまいたいと思えるほどに。
『…エストをしあわせにする…俺の全てで』
今ここにあるのは私が何よりも望んだもの。私が願った貴方の笑顔。それなのに苦しい。苦しくて、どうしていいのか分からない。
『だからパオラにも、認めてほしい…俺らの事』
口許に作った笑みは自然だっただろうか?おめでとうと告げた声は、震えてはいなかっただろうか?私はちゃんと、何時もの顔をしていた?
『…ありがとうパオラ…君に認めてもらえるのが何よりも嬉しい……』
その答えを確認する前に貴方が微笑ったから。何よりもしあわせそうに微笑ったから。それは私が何よりも望んだ貴方の笑顔だったから。


――――だからきっと。きっと私は上手く微笑っていた。自然に言葉が零れていた。


神様、どうか。どうかこの愚かな女のただひとつの願いをかなえてください。どうかこの恋を終わらせてください。この胸にある想いを暖かく穏やかなものへと沈めください。そうしたらきっと。きっと貴方が一番望んでいる事が叶えられるから。そして私が貴方に一番望んだものも叶うから。だから神様、この恋を。


―――――カミサマ、この恋をどうか………



お題提供サイト様 確かに恋だった