愛の詩




あなたがそっと。そっと、微笑っていってくれたから。これからふたりで、想い出を作っていこうと。抱えきれないほどたくさんの思い出を、いっぱい。いっぱい、作っていこうと。


あなたが微笑えば、私は嬉しい。それだけで、いい。あなたが微笑ってくれれば、それだけで私はなにもいらない。―――なにも、なにも、いらない。だから、ずっと……


ボタンを外す手の動きが少しだけぎこちなくて、それだけでひどく泣きたくなったのはどうしてだろう?どうして、こんなにも。
「…カタリナ…その…俺初めてだから上手く出来ないかもしれないけど……」
「大丈夫ですクリス。私あなたが一緒なら何も怖くないです」
胸が締め付けられるほどに苦しくて、けれどもそれ以上に広がってくる想いがあって。それが緊張なのか喜びなのかが分からなくなって、どうしていいのか分からなくなって。間近にあるその顔を見上げたら。見上げたら私よりもずっと…ずっと緊張している顔があったから。
「…何も怖くないです…大好きです…クリス……」
不思議と口許が笑みの形を作っていた。そしてそんな自分の顔があなたの瞳に映った瞬間、強張っていたその表情がそっと柔らかくなって。何時もの優しくて真っ直ぐな笑顔になって。
「―――うん、俺も。俺も大好きだ、カタリナ」
何よりも大好きなその笑顔を瞼の裏に焼き付けて、そっと唇を重ねた。ずっとこの笑顔が消えませんようにと、心の中で祈りながら。


こんな私でも生きていていいのでしょうか?こんな私でもしあわせになっていいのでしょうか?そんな言葉を、疑問を、口にする前にあなたは言ってくれました。一緒にいようと。
不器用だけど大きくて優しい手を差し伸べて、ふたりで見つけてゆこうと。私が犯してきた罪の償いを、これからの未来の答えを、ふたりならば見つけられるからと。見つけていくんだと、少しだけ照れながら言ってくれました。私に教えてくれました。

―――こんな私でも生きている意味があって、こんな私でも出来る事があるのならば。

あなたの手が、声が、私を導いてくれました。真っ暗な世界の中で、あなたの優しい光だけが私を見つけ出してくれました。小さな塊でしかない私を見つけ出してくれました。ただの人形でしかないこのちっぽけな器に命を吹き込んでくれたのはあなたでした。


傷だらけの節くれだった大きな手が、剥き出しになった胸に触れた。包み込むように優しく小さなふくらみに触れる。
「…あっ…クリ…スっ……」
こんな時にもうちょっと胸が大きかったらなんて、馬鹿みたいな事を思った。この手のひらにすっぽりと収まる大きさじゃなくて、もっと大きかったらと。
「はぁっ…あっ…ぁ……」
けれどもそんな考え事もすぐに頭の中から消え去った。大きな手のひらが胸を揉みし抱き、尖った乳首を指で摘まんだせいで。与えられた刺激に思考は飛び散り、口許から自分の声とは思えないほどの甘い吐息が零れた。
「…あぁっ…あんっ…ああっ!……」
「あ、ごめん!痛かったか?」
「…大丈夫です…痛くない…です…その…気持ちいい………です………」
最後の方は恥ずかしくて声にならなかった。けれどもそんな私にあなたは嬉しそうに子供のように微笑ったから。恥ずかしさよりも、嬉しくなった。ひどく、嬉しくなった。
「良かった、カタリナ」
「…あっ!…ああんっ!……」
唇が胸の突起に触れる。そのまま生暖かい口中に吸い込まれ、きつく吸われた。その刺激に耐え切れず身体が小刻みに震えるのを止められない。びくびく、と。
「…クリ…スっ…ぁぁっ…あんっ…やぁんっ……」
胸を吸われるたびに手のひらで揉まれるたびに、下半身が熱くなる。じわりと痺れて耐え切れずにきつく股を閉じた。けれどもその中心部分から熱いものが込み上げて来て身体中を駆け巡る。その刺激から逃れようと首をイヤイヤと左右に振れば、動きが止まって心配そうに自分を見つめてくる顔があった。
「…違い…ます…クリス…そのこれは…その…気持ち…よくて…その……」
「俺も気持ちいいよ、お前のそんな様子を見ているだけでほら」
「――――っ!」
手を重ねられてそのままあなたの下半身へと導かれる。おずおずと当たっているモノに手で触れたら、それはとても熱く硬くなっていた。
「…お前のせいで…こんなんだ…カタリナ……」
「…クリス……」
指を伸ばしてソレに触れて、そのまま包み込むように扱いてみた。それだけで手の中のモノの形が変化する。どくどくと脈を打ちながら。
「…クリスの…凄く…熱くなって…ます……」
「…うん…お前が…触れているから……」
「…どんどん…大きく…なっています……」
自分がこうして触れる事で形を変化させてゆく事が、恥ずかしかったけれど嬉しかった。この手であなたを感じさせる事が出来るという事が何よりも嬉しかった。
「…お前も…熱くなっている……」
「――っ!あっ!!」
指が、挿ってくる。ずぶりと濡れた音を立てながら。私の中に指が埋め込まれてゆく。それはまるで電流が身体を駆け巡るような、そんな感覚で。もう何も考えられなくなって。
「…あぁっ…くふっ…はっ…あぁぁんっ…クリスっ…あぁ……」
中を掻き乱す指の動きに合わせて、手のひらを動かす事しか出来なかった。懸命に手のひらを動かす事以外出来なかった。口から零れる喘ぎと与えられる刺激のせいで、それ以外の事がもう何も出来なかった。
「…あっ……」
不意に指の中にあった存在感が消滅する。その刺激に無意識に漏れた溜め息は、もっとと告げているようでひどく恥かしくなった。けれども次の瞬間それ以上の巨きくて硬いモノが入り口に当たるのが分かった。思わずびくんっ!と身体を震わせれば、大きな手のひらがそっと。そっと髪を撫でてくれて。
「―――出来るだけ優しくするけど…痛かったら言ってくれ……」
「…大丈夫…です…クリス…私…クリスになら…何をされても…嬉しいです……」
汗ばむ前髪を掻きあげてくれる。そしてそこにひとつ。ひとつ、そっとキスをしてくれた。だから。
「…カタリナ…好きだ……」
「…はい…クリス…私も…私も…大好き…です……」
だからもうなにも。なにも怖くないと思った。―――何も怖くはないと。


指先を、絡めた。ぎゅっと、繋いだ。その瞬間に訪れたのは身体を真っ二つに引き裂かれるような痛み。狭い入り口に巨きなモノが捻じ込まれてゆく痛み。
「――――ひっ!ああああっ!!!!」
耐え切れずに口許から悲鳴を上げれば、動きが止まった。そしてそのまま空いた方の手のひらが髪を撫でる。そっと、撫でる。
「辛いか?今なら、止め―――」
「…だいじょうぶ…です…だいじょうぶだから…止めないで…ください……」
その先を告げられる前に唇で言葉を閉じ込めて、そのまま笑みの形を作った。激しい痛みが全身を貫いたけれど、それでも懸命に微笑った。痛みよりももっと。もっと溢れてくる想いが私の中には在ったから。
「―――分かった、カタリナ。ひとつになろう」
「…はい…クリス…ひとつに……」
繋がった指先にもう一度力を込めた。それが合図だった。ずぶずぶと濡れた音とともに楔が捻じ込まれてゆく。その痛みに意識が飛びそうになりながらも、ぎりぎりの所で必死になって堪えた。感じたかったから。私の中にいるあなたを感じたかったから。私の全部で、感じたかったから。
「あああっ!!ああああっ!!!」
痛みを少しでも和らげるように指が胸に触れる。感じる箇所を攻め立て、刺激を与えられる。その快楽に意識が飲まれそうになった頃、中の楔が動き出した。腰を揺さぶられ、抜き差しを繰り返される。それは中に挿入するたびに巨きく硬くなって、私の中に圧倒的な存在感を示した。
「…あああっ…クリ…スっ…クリスっ…ああああんっ!!」
意識が、思考が、呑みこまれてゆく。痛みは何時しか別のものにすり替わってゆく。激しい快楽へとすり替わってゆく。
「…カタリナ…カタリナ……」
「…クリスっ…もぉっ…もぉっ…あああっ!」
何もかもが呑み込まれて、何もかもが分からなくなって、ただ。ただあなたの存在だけを追いかけて、頭が真っ白になったその瞬間。私の中に熱い液体が注がれた……。


…なにも、いらない。あなたがいれば、いい。だから、ずっと。ずっとこの指先を……


零れ落ちる雫をそっと撫でる指先が何よりも優しくて。
「…ごめん、カタリナ…大丈夫か?……」
何よりも暖かかったから。だから、私は。あなたの指先を。
「…大丈夫です…クリス…大丈夫です…だって…」
せっかく拭ってくれた指先をまた。また濡らしてしまった。


「…だって…私はもう…もうひとりじゃないから…あなたが…私の中にいるから……」


そっと、微笑う。あなたが、そっと微笑む。太陽のように眩しい笑顔で、少しだけ不器用な笑顔で、そして。
「ああ、ずっと。ずっと一緒だ、カタリナ。俺はお前と一緒にいる」
――――指先が結ばれる。きつく、繋がれる。ずっと、永遠に結ばれる。


溢れるほどの想いと、零れるほどの愛と、そして。そして抱えきれない想い出をふたりで作っていこう。ふたりで、生きてゆこう。