地上に降り続ける雪だけが、ふたりをそっと隠してくれた。
手が、冷たかったから。とても、冷たかったから。
だから暖めてあげたかったの。そっと、暖めてあげたかったの。
だってそれしか思いつかなかったから。あたしに出来る事が。
あたしが今、出来ることは…それしかなかったの。
―――何が、出来るかな?あたし。一体あなたに何が、出来るかな?
繋いだ手が離れないようにって、それだけを必死になって祈っていた。この手が離れる事がないようにと。
「―――ニノ…寒いか?…」
どれだけ遠い場所に来たのだろうか?どれだけ遠い場所に辿り着いたのだろうか?いっぱい歩いて。いっぱい歩き続けて、そして。そして捜している場所。
「ううん、平気。平気だよ、ジャファルこそ寒くないの?」
手をぎゅっと握り締めて、そして目の前の人を見上げた。冷たい目をしている人だった。でも今は。今はとても暖かい瞳をしている人。優しい瞳を、もっているひと。
「俺は平気だ―――お前の手が…暖かいから」
「へへ、ジャファルの手も…暖かいよ。とっても暖かいよ」
風は肌を引き裂くほど冷たく、頭上から降り続ける雪は容赦なく二人の体温を奪ってゆく。でも不思議と寒いとは思わなかった。二人だったから、思わなかった。
「あなたの手、とても暖かいよ」
こうして指先が結ばれている限り、怖いものも、寒いものも、何もなかった。
捜している場所があった。捜している場所がある。
二人が『ふたり』でいられる場所を。ずっと一緒にいられる場所を。
誰にも邪魔されずに、誰にも見つかる事のないそんな場所を。
雪がふたりを隠してくれたらいいのに。誰にも見つからないように、隠してくれたらいいのに。
古びた廃屋を見つけ、その中に二人で入った。中は少し埃っぽかったけれど、外の冷たさからは充分に護ってくれた。
木で出来た壁は少し腐りかけていて風が隙間から吹き込んで来たが、屋根の方は無事だった。雪が落ちて来ることもなく、室内にあった暖炉に火を灯すと二人で視線を合わせて微笑った。そんなささやかな事が、今の二人には何よりも大事だった。
「疲れてないか?」
「平気だよ。それよりも」
暖炉の前に座るジャファルの隣にニノも座ると、そのままちょこんと肩に頭を乗せてきた。碧色の髪がふわりと揺れる。そこから薫る微かな匂いがひどくジャファルをしあわせにさせた。
今まで彼にとって必要な匂いは標的の匂いだけだった。自分が抹殺する為の標的の匂いと気配、それだけがあればよかった。それ以外の生活臭や、日常的な匂いは全く必要としていなかった。
でも今はそんな『当たり前』のものが彼にとって最も必要なものだった。最も大事なものだった。こうやってふたりで少しずつ作り上げてゆくものが、ふたりがいる事で発生するものが。
「ジャファルの匂い、あたし覚えたよ。目を閉じていても、触れていなくても…分かる」
閉じられた睫毛の先にあるニノの顔はまだ幼いと言えるほどだった。まだ本当に子供のようだった。けれどもそんな彼女が自分にとっては何よりも大きなものに見える。小さい小さい女の子なのに、自分よりもずっと大きくて、そして深い存在に思える。
「…俺も、分かる…お前の匂い…お前のぬくもり…全部……」
凭れかかってくる彼女を後ろから抱きしめた。そしてそのまま唇を重ねる。すっぽりと腕の中に収まってしまう小さな存在。こうやって自分が抱きしめている小さな小さな女の子。でもどうしてだろう。抱きしめているのに、彼女に包み込まれているような気がするのは。そんな気がするのは…どうしてだろう?
「…ジャファル…んっ……」
啄ばむように重ねていた唇は、次第に深いものへと変化してゆく。最初はただ重ねるだけだった唇も、今は吸い付くように貪っている。舌でなぞり唇を開かせ、そのまま口中に忍びこんでゆく。
「…んっ…ふっ!……」
ニノの目がぎゅっと閉じられる。絡まる舌に答えるのに必死で、胸の膨らみに伸びたジャファルの手の動きに気付かなかったせいで。服の上から軽く揉まれただけなのに、突然に訪れた刺激にニノの肩がピクンと揺れた。
「…ジャ…ファっ…んんっ…はぁぁ……」
くちゅくちゅと舌を絡めながら、ジャファルはしばらく布越しにニノの胸を弄る。まだ成熟しきってはいない身体だったが、ジャファルにとっては何よりも愛しいものだった。
「…あっ!……」
布の上からでも胸の突起が立ち上がっているのが分かる。そのまま指の腹で捏ね繰り回してやると、耐えきれずに絡まっていた舌が離れた。そして唇から、甘い声が零れて来る。
「…あ…やぁっ…んっ…あ……」
胸は弄ったままで、もう一方の手をジャファルはスカートの裾から忍ばせた。服を脱がさないまま下着の上から割れ目を指でなぞる。その瞬間腕の中の、ニノの身体が跳ねたが、構わずに指を上下させ刺激を与えてゆく。
「…だ、…ダメ…ジャファル…やんっ……」
布越しからでもソコが湿ってきたのが分かる。そのまま指を食い込ませれば、ビクンっ!とニノが反応を寄越した。
「…だめぇ…あたし…っ…あぁんっ……」
「駄目なのか?こんなになってるのに」
「…やだっ…そんな事…言わなっ…あぁ……」
食い込ませた指を離し、濡れた個所を確認するように二三度押すと、そのまま下着だけを脱がさせた。スカートの裾をたくし上げて、薄い茂みを眼下に晒す。膝を立てさせて恥ずかしい個所を開かせると外陰を指でなぞった。ピンク色のソレは与えられた刺激によってひくひくと蠢いている。
「…あっ…あぁんっ…ジャファ…ルっ!……」
「―――ニノ…俺の…ニノ……」
「…あぁ…あぁぁ…ん……」
外陰を弄りながら、秘所に指を突っ込んだ。与えられていた愛撫によって濡れぼそったソレは容易くジャファルの指を受け入れる。ぐちゅぐちゅと濡れた音とともに掻き乱してやれば、ニノの身体は快楽に仰け反った。
「…あぁ…だめぇ…あたしっ…あぁんっ……」
剥き出しになったクリトリスを摘みながら何度も指で掻き回し、そのたびに反応するニノの耳たぶを軽く噛んでやった。それだけで身体はうっすらと汗ばんでゆく。脚からぽたりと汗が零れ木の床に染み込んでいった。
「…もぉ…あたし…あたしっ……」
ソコから指を引き抜き、小刻みに揺れるニノの身体をきつく抱きしめた。首筋に顔を埋めれば彼女の汗の匂いがする。その匂いにひどく『女』を感じ、ジャファルは欲情した。普段の無邪気な少女からは程遠い女の匂い。その匂いを知っているのは自分だけだという事実が、何よりもジャファルを駆り立てるのだ。
それはどんな事をしても得られなかった、自らの感情の高ぶり。知らなかった『本能』。
「ニノ、いいか?」
ベルトの外れる音がする。それが今のニノには何よりも大きな音に聞こえた。その音すらも敏感になったニノにとっては、感じずにはいられないものだった。頷く事が精一杯で、返事をする事が出来ない程に。
「…ふっ…くっ!」
ニノの蕾に硬いモノが当たる。その感触だけで背筋がぞくりと震えた。そのまま腰を掲げられて、モノがゆっくりとニノの中に挿ってゆく。ずぶずぶと濡れた音を立てながら。
「…ああっ!…あああっ!!」
ジャファルの硬い肉棒で秘所は押し広げられ、奥に挿ってゆくたびに肉の擦れる音がする。内壁が擦れ、クリトリスを刺激し、ニノの意識を飛ばしてゆく。一番深い場所に収められた所で一端動きが止まるが、その代わりに伸びてきた手が胸を鷲掴みにした。布の上からきつく揉まれる。そしてそのまま腰を打ちつけられた。
「あああっ!あああんっ!!」
抜き差しを繰り返すたびにニノを犯すモノは巨きく硬くなってゆく。耐えきれずにニノの目尻からは透明な雫が零れ、唇から唾液が滴った。紅い舌が喘ぐたびに口から覗き、頬は紅潮してゆく。脚はぐっしょりと汗に濡れ、ジャファルしか知らない雌の体臭を漂わせた。それが、ジャファルを獣に変えてゆく。本能のまま腰を突き動かしニノの肉を、きつく締め付ける感触を求めた。
「…もぉ…もぉ…あたしっ…あたしっ…ああああっ!!!」
ジャファルの口から荒い息が零れると同時に、どくどくと大量の精液がニノの中に注がれた。
外の雪はまだ止まる事無く降り続けている。しんしんと、降り続けている。冷たい雪、ひんやりと冷たい雪。けれどもここは。ここは、暖かい。
「…ジャファル……」
まだ荒い息のままニノは唯一の人の名前を呼ぶ。顔は火照ったまま、唇は紅く濡れたまま。その表情はジャファルだけが知る彼女の『女』の顔。
「…暖かい、ね……」
放り出したニノの足許からは、まだ乾いていない精液が零れて来た。それを指で掬ってやれば、まだ快楽の火種が残っているその身体は反応を寄越す。
「ああ、お前は暖かい。全部、暖かい」
「…あっ…ふ……」
白い液体の付いた指をニノの口に含ませる。その指をニノは迷う事無く舌で舐めた。ぴちゃぴちゃと音を立てながら、愛する人の欲望を口に含む。
「手も、身体も、唇も…全部……」
「…ふぅ…ん…はぁ…ん……」
「――――お前は…暖かい……」
耳元で囁かれるジャファルの言葉にうっとりとするようにニノは目を閉じた。しあわせそうに目を、閉じた。
あたためて、あげられる。あなたを、あたためてあげられる。
あたしに出来ること。こうやって体温を、ぬくもりを、分け合える事。
あなたと分け合えること。それはとても。とても大事なこと。
手だけじゃなくて。指だけじゃなくて。
もっと他のところも、たくさん。たくさん繋がって。
繋がって、絡み合って、そして分け合えれば。
あたしたちは捜していた。ふたりがふたりだけでいられる場所を。
誰も追いかけてこない、誰もあたしたちを捜さない場所を。でも。でも、もしかしたら。
もしかしたら、こうしてふたりがいる場所が。ふたりでいるということが。
それがあたしたちが捜していたものなのかもしれない。こうしてふたりでいるということが。
…このまま雪が、全部。全部、隠してくれたら…いいのにね……