誰もいない夜、ふたりでそっと抜け出した。誰も見ていないから大丈夫だと、悪戯をする前の子供みたいな顔で微笑うその顔。その顔を瞼の裏に焼き付けながら、背中を追いかける。漆黒の闇にも溶ける事のない艶やかな深い翠の髪を見つめながら。
「きゃっ、冷たい」
靴を砂浜に脱ぎ捨て、素足を海に浸した。白い脚だった。しなやかでまるで別の生き物のような綺麗な脚。その動きをぼんやりと見つめていたら…頬に冷たい水がひとつ、当たった。
「ふふ、冷たい?」
子供のような好奇心いっぱいの瞳で、自分を見つめてくる。その瞳に映る自分の顔の間抜けな表情に、苦笑を隠しきれない。どうして自分は、この人の前ではこんなにも情けなくなってしまうのか。
「でもこの冷たさが気持ちいいね、ケント」
そう告げて子供のように無邪気に微笑うから。その顔があまりにも眩しく見えて目を細めたら…細めたら、そのままキスをされた。
「…リ、リンディス様……」
触れて、離れるだけのキス。それだけでも自分にとっては、どうしようもなく甘いもののように感じる。とても、甘いものに。
「駄目よ、ケント」
月だけが光の世界の中で、白い腕だけが鮮やかに浮かぶ。その白い生き物がそっと背中に絡んできて。そのままぎゅっと抱きつかれて。
「ふたりきりでいる時は…リンって呼んで……」
さっきまでの無邪気な瞳とは別の、もっと先の大人になった瞳で見つめてきたから。だから、そのまま。そのままさっきとは違うキスを、した。触れるだけじゃない、キスをした。
翠色の綺麗な髪に、そっと指を絡めて。
「…ケント…大好き……」
そのまま頭上で結んでいた髪を解いて。
「…私もです…リン様……貴女だけが……」
私しか知らない、貴女を曝け出す。
「…貴女だけを…愛しています……」
それはもう。もう、少女の顔じゃなかった。
砂浜にその肢体が汚れないようにケントは自らの上着を脱いで、その下に組み敷いた。その間ずっと、リンの腕はケントの背中に廻ったままで。何度も撫でるように、その広さを確かめながら。
「こんな所でするの?」
くすくすと笑いながら言う瞳は、言葉とは裏腹に微かに潤んでいた。その先の行為を期待して―――女の瞳に、なっていた。
「嫌ですか?私は貴女が望まない事はしたくない」
「意地悪ね、ケント…分かっているくせに…」
「…すみません…その…貴女があまりにも……」
髪を、撫でる。何よりも愛しげに、その手が。それだけで。それだけで、幸せになれる。それだけで、しあわせに。
「…あまりにも…可愛くて…その……」
それ以上は恥ずかしいのか、目尻を微かに紅く染めたままで黙ってしまった相手に、リンはひとつ微笑うと。そのまま。そのままひとつ、キスをした。その先の言葉は直接こうして唇が…聴くから、と。
唇を重ねあいながら、互いの衣服を脱がしあった。こうしている時間も少しでも繋がっていたくて、何度も角度を変えてキスをした。
「…ケン…ト…んっ…ふぅ…ん……」
リンの口許から飲みきれなくなった唾液が伝う。それを優しくケントは舐めとった。どんな時でも、この人は優しい。こんな些細な動作ですら。それが何よりも、リンには嬉しかった。何よりも、大好きだった。
「…はぁ…ぁ……」
唾液を舐めとった舌が、そのまま額に触れた。柔らかいキスが、降ってくる。それだけで、睫毛が震えた。
「…愛しています…リン様……」
震えた睫毛にも唇が降りてくる。鼻筋にも、頬にも、髪にも。優しいキスの雨が、降ってくる。それは意識を蕩かしてくれる、とても甘い、もの。
「…ケント…私も…貴方だけが好き…大好きなの……」
意識が甘く溶けても、言葉を紡ぐ。伝えたいから、声にする。この気持ちを。大事な大事な、想いを。そのままきつくしがみ付いて、伝える。胸の鼓動を。想いが溢れてくる、この音を。
「―――リン様……」
「…んっ…んんっ……」
再び唇を重ね、そのまま互いの口中を貪った。言葉では伝えきれない想いを伝えるために、深い口づけを重ねる。
「…んっ…はぁ…あっ……」
大きな手が、胸のふくらみを包み込んだ。少女から大人へと変化してゆく途中の、瑞々しい肌。その肌に、触れた。
「…あぁ…ケン…ト……」
「リン様のここ…凄く柔らかいです……」
乳房の感触を堪能するように、柔らかい個所を揉んだ。わざと胸の果実には触れず、外側の柔らかい部分だけを。その柔らかい刺激のもどかしさに、リンの身体は焦れた。
「…バカっ…変なこと…言わないで…っ……」
無意識に手のひらにふくらみが押し付けられる。言葉とは裏腹に、唇が甘い吐息で解かれてゆく。その吐息を奪うようにひとつ口づけて、そのままケントは胸の果実に触れた。
「…ああんっ!……」
望んだ刺激が与えられ、リンは満足げに喘いだ。それを確認して、ケントはそのまま指先で乳首を転がした。空いた方の胸を揉みながら。
「…あぁ…あんっ…はぁ……」
「気持ちいいですか?」
「…もう…そんな事…聴かなくても…分かるでしょ?……」
こんな時にまで彼の気まじめな性格が出るのか、わざわざ確認してくる。そんなこと聴かなくても、こんなにも態度で現わしているのに。けれども、そんな所も。そんな所も、大好き。大好き過ぎて、時々どうしていいのか分からなくなるくらい。
「すみません…どうしても貴女のことになると…心配になってしまって…」
「心配なんてしないで…だって…私はケントから与えられるものなら…何だって嬉しいんだから」
「…リン様……」
「…だから、ね…だから…いっぱい…私に触って……」
リンの言葉に答えるように、ケントはその肢体に触れた。指先で、唇で、舌で。余すことなく、触れた。
ふたりを見ているのは頭上の月だけ。ぽっかりと浮かぶ、月だけ。
後はさらさらと流れる砂と、遠くに近くに聴こえてくる海の音だけ。
それだけが、今。今ふたりの世界の全てになって。それだけ、が。
――――月の海だけが、ふたりをみている。
脚を広げさせ、茂みの奥にある秘所を暴いた。そこに指をずぷりと挿れれば、すでにしっとりと濡れていた。
「…あっ…くふっ…あぁ……」
指を折り曲げ、そのまま中を掻きまわす。そのたびにぐちゅぐちゅと濡れた音がした。その音に反応するように、組み敷いた肢体がびくびくと震える。その様子を見ているだけで、ケントは欲情した。
「…リン様のここ…凄く濡れています……」
「…あぁ…だって…だってぇ……あっ!!」
指の刺激が消えたと思った瞬間、生温かい舌が中に侵入してくる。わざとぴちゃぴちゃと音を立てながら舐める舌に、耐えきれずリンの口からは甘い悲鳴が零れた。
「…だめぇ…そんなトコ…あぁっ…あぁぁっ!……」
生き物のように蠢く舌が、リンを悩ませる。どう動くか予想付かない刺激が、リンを未知の快楽へと導いていく。
「…あぁんっ…あん…あんあんっ……」
気持ちよくて、どうしようもなくて。意識が途切れ途切れになってゆく。このまま身体の奥まで溶かされて、ぐちゃぐちゃになって。ぐちゃぐちゃに、なって……。
「…ケント…もう……」
「…リン様?……」
「…もう…我慢できないの…貴方が…貴方が…欲しいよぉ……」
快楽に呑まれる意識を必死に留めて、告げた。今一番の願いを、告げた。そんなリンにひとつ、ケントは微笑って。
「…ええ…リン様…いくらでも…いくらでも…あげます…私の全ては貴女のものなのだから……」
額に一つ唇を落として、そのまま一気にリンを貫いた。限界まで膨れ上がった、その楔で。
「―――ああああっ!!!」
与えられた刺激と、熱さに満足げにリンは喘いだ。貫かれる巨きさと硬さに、喘いだ。それを裏付けるように、リンの媚肉はきつくケントを締め付ける。
「…ああっ…あぁぁ…ケントっ…ケントっ!……」
「…リン様…リン様……っ……」
細い腰を掴み、そのまま抜き差しを繰り返す。そのたびに肉棒は巨きくなり、内壁はよりきつくソレを締め付ける。互いを求め、強く、深く。
「…もぉ…ケント…私…あぁっ……」
「…私も…もう限界です…出します…リン様……」
「…出して…中に…いっぱい…出してぇっ…ああああっ……」
リンの言葉に答えるようにケントは激しく腰を打ちつける。そして最奥まで貫くと、想いの全てを込めてその中に白い欲望を吐き出した。
ふたりを見ているのは夜空の月だけで。ぽっかりと浮かぶ、月だけで。
「―――背中、痛くないですか?」
そして静かに波の音を奏でる海と、柔らかい砂の音だけが。
「…大丈夫…だって私それよりも……」
それだけが、ふたりの世界の全てになった。ふたりだけの、世界に。
「…それよりもこうして…ケントと一緒にいる事が…嬉しいから……」