―――吹き抜ける風の先に君がいて。そしてひとつ。そっとひとつ、微笑ったから。
「どうした?俺の顔に何か付いているか?」
見上げてくる瞳が逸らされることなく真っ直ぐに自分に向けられる事に、少しだけジストは居心地が悪かった。いや悪いというよりも、少しだけ…照れくさかった。
「いや、久しぶりに君の顔を見られたから忘れないようにこの目に刻んでいるだけだ」
こんな風に目の前の相手が、真っ直ぐに自分を見つめてくる事は滅多になかった。何時も何処か少しだけわざと視線を逸らすように、自分の前に現れ見上げてくるのが常だったから。だからひどく、心が落ち着かない。
「にしては見つめすぎだ、サレフ。どうした?イイ男過ぎて惚れ直したのか?」
「照れているのか?君らしくない」
口許に浮かぶ笑みは穏やかで。そうずっと、サレフは穏やかだ。何時でもどんな時でも、そうある事がこの男にとっての『日常』なのだから。そうやってポカラの里とパレガと共に。それがこの目の前の男の独特の雰囲気を作り出しているのだろう。
「お前にこんなに見つめられちゃーな。流石の俺も平常心じゃいられねーよ」
「私は何時も君といると平常心ではいられない。ほら、今も」
サレフの細い指先がジストのそれに絡むとそのまま胸元へと引き寄せられる。そこから広がる胸の音は、彼の普段の穏やかさとは無縁の音を刻んでいて。
「―――君を見ているだけで、私はこんなになってしまう」
その音を確認すると同時にジストはその身体をそっと抱きしめた。胸よりももっと。もっと深い音を確認する為に。
君が、微笑って言ったから―――ただいま、と。そう。
傭兵である君にとって『家』という場所は存在しなかった。雇われれば何処へでも向かう君にとって帰る場所は戦場だったから。けれども君は言ってくれた。ただいまと。そして私の元へと帰って来てくれたから。
癖のある柔らかいサレフの髪を撫でながら、貪るようにジストはその唇を奪った。その身体全ての音を確認するために。その鼓動を、想いを確認するために。
「…ジス…トっ…んっ…ふぅっ…んっ……」
薄く目を開いて相手の顔を覗きこめば、きつく目を閉じて懸命に自らが紡ぎだす舌の動きに答えている。その様子がひどく、愛しかった。
「…はぁっ…ぁぁ…んっ…んんっ……」
角度を変え何度も何度も唇を貪れば、そのたびに甘い吐息が口許から零れてくる。それすらも全て拾い上げて奪ってしまいたくてまた。また、激しく唇を貪った。
「…ジ…スト…あっ……」
身体をシーツの波に沈められ、そのまま衣服を剥ぎ取られた。薄く色づいた肌にざらついたヒゲの感触が降りてくる。それをくすぐったいと思う間もなく、生暖かい舌が胸の突起を突く。その刺激にサレフは喉をのけ反らせて喘いだ。
「…あぁっ…んっ…はぁっ…あんっ……」
「相変わらずココは弱いな」
「…そんな…事…言わないっ…あんっ!」
かりりと音を立てながら歯で噛まれる。痛いほどの刺激ですら浅ましい身体は反応した。ソコからじわりと熱が広がり、神経を痺れさせてゆく。こうなるともう。もう、サレフの身体は止められなかった。
「…あぁんっ…あんっ…ジス…トっ……」
ジストの望むままに身体を開き、甘い喘ぎを上げる。髪を乱し、身体を震わせる。陶器のような白い肌がさあっと朱に染まり、身体の芯が火照るほどに熱くなる。それはジストしか知らない穏やかな彼の乱れた姿だった。そう、ジスト以外知る事のない……
「こんなお前を知っているのは俺だけだ。そして」
耳元で息を吹きかけられるように囁かれた言葉に、うっすらとサレフは瞼を開いた。その瞳は快楽に濡れ淫らで綺麗だった。
「…ジス…ト……」
「こんなに、獣のように欲情する俺を知っているのは―――お前だけだ」
ざらついた舌がぺろりと自らの唇を舐め取る。その仕草にひどく『雄』を感じサレフはぞくりと、した。この野生の獣に自分は犯され喰らい尽される事に。そしてそれを何よりも自分が望んでいる事に。どうしようもないほど、淫らに願っている事に。
「ほら、こんなにお前を欲しがっている」
大きな手が自らの手を包み込み、そのままジストの雄の部分へと導かれた。それは彼の言葉通りに巨きく硬く脈打っていた。
「…本当…だ…こんなになっている…こんなに……」
熱い男根にサレフの指が絡まると、そのまま手のひらで包み込み扱き始めた。手のひらでは収まりきらないくらい大きなソレが自分の中に挿ってくる瞬間を思い浮かべれば、自らの中心部分が熱く滾った。
「そうだ、サレフ。巧いぞ」
指だけでは我慢出来なくなってジストの上半身を起こさせて、そのまま肉棒を口に含んだ。口内に収まりきらないほどの巨きなソレに眩暈を覚えながら、懸命に舌と口で奉仕した。
「…んんんっ…ふっ…くふっ…んっ…んんんっ!」
顔を動かし何度も抜き差しを繰り返した。そのたびに口の中のソレは存在感を増し、みっしりと口内に広がってゆく。先端からはとろりとした先走りの雫が零れてきて、そのまま舌で掬ったら髪を引っ張られ口を剥がされた。
「…ジスト……」
「口はもういい。それよりも」
「―――あっ!」
「お前のココでイキたい」
ずぷりと太く逞しい指がサレフの秘孔に侵入してくる。それはこれからの行為を思い浮かべ淫らに蠢いていた。
「…くふっ…はっ…ぁぁっ…あっ…あ、あ、……」
くちゅくちゅと中を掻き廻されるたびにサレフの瞼が揺れ、唇からは喘ぎが落ちてくる。何時しか口許からは飲みきれない唾液が伝い、ぽたりとシーツに染みを作っていた。ぽたり、ぽたり、と。
「イイか?サレフ」
囁かれるジストの言葉にこくりと頷くと、サレフはその逞しい肢体をベッドに沈め自らはその上に跨った。天井を向く大きな肉棒に手を合わせると、腰を浮かせ自らの入り口に宛がった。
「…ジスト…挿れる…ね…挿れ…っああああっ!!!」
入り口に楔が当たるのを確認して、そのままサレフは自ら腰を落としてソレを受け入れた。自らの体重が重しとなって巨きな楔を見る見るうちに呑み込んでゆく。
「…あああっ…ああああんっ!!」
腰を、振った。激しく振って、その肉を求めた。擦れ合う摩擦に溺れ、広げられる痛みと貫かれる快感を貪った。深く、深くと。
「――――気持ちイイか?サレフ」
自らの上で淫らに腰を振るう相手を見上げながら、ジストは舌舐めずりをしながら告げた。そのむせかえるほどの雄の顔で。欲望の全てを喰らい尽そうとでも言うような野獣の顔で。
「…イイッ…イイよぉっ…ジストっ…気持ち…イイっ…ああんっ!!」
ジストの逞しい両腕がサレフの細い腰を掴むと一気に揺さぶった。がくがくと身体が震え、激しく肉がぶつかり合う。ぐちゅぐちゅと濡れた音と共に。
「…あんっ…あああんっ…イクっ…イッちゃ……」
「イケ、ほら」
「―――――っ!!!あああああんっ!!!」
ぐいっと腰を引き寄せられ突き上げられる。最奥まで貫かれ、ソコに焼けるほど熱い液体を注がれる。その刺激に耐え切れずにサレフもジストの腹の上に自らの欲望を吐き出した…。
君の帰る場所がここならば。私の元ならば、それだけで。それだけで私は…
「…どうした?まだ、足りないのか?…」
欲望を吐き出しても、繋がった身体は離さなかった。
「…もっと…もっと…シテ…ジスト…もっと……」
離したくなかった。もっと、繋がっていたい。もっと、もっと。
「ああ、幾らでもしてやんよ、ほら」
もっと激しく、もっと貪って。全てがぐちゃぐちゃに溶けあうまで。
「あああっ!ああああっ!!!」
身体の境界線がなくなるくらいに、もっと。もっと、激しく。
「…あいして…いる…ジスト…ジスト…あああっ……」
喉をのけ反らせて喘いで、呆れるほど身体を繋げて。壊れるほどに貫かれて。溶けあう程に重ね合って、結びあって。そして、その腕で。その腕の中で眠れたならば。
意識のないその瞼にジストはひとつ唇を落とす。獣のように求めあった後は必ず。必ずこうして壊れものを扱うかのように大事に抱きしめる。大切に、この腕の中に。
「―――ああ、俺もだ。サレフ…愛している……」
そしてその髪を撫でながら眠りに落ちた身体をそっと抱きしめて、自らも瞼を閉じた。夢でもまた。また出逢えるように。