その背中に消えない痕を作ったら、お前は怒るだろうか?それとも――――?
その蒼い瞳が少しだけ翳り色彩を成してゆく。その闇のような深い蒼に呑み込まれそうになって、ひとつ喉を鳴らして堪えた。
「どうした?久々に俺に逢えて欲情したか?」
何処から来るのか分からない絶対的な自信を湛えた唇から笑みが零れてくる。それを憎らしいと思いながらも、目を離す事が出来ない自分がここにいて。
「―――そんな訳ないだろうが。どうしてお前はそう自信過剰なのだ?」
「ならば、どうして」
微笑う。それは何処までも絶対的で、逆らう事が許されないとでも言うように。どんなに逆らおうとも、誰よりも相応しい相手に対して何も出来なくて。
「こんなにお前の瞳は濡れている?」
耳元に息を吹きかけられるように囁かれ、こめかみに熱が灯る。それを否定しようと瞼を閉じたら、そのまま。そのまま噛みつくように唇を奪われた。
対等でありたいと願いながら、決してそれは叶わない事だと気付かされる。それでも同じ位置に立ちたくて足掻いてみたら、その手を掴まれた。そしてそのまま、全て呑み込まれた。何も、かもを。
「…んんっ…んっ!」
顎を掴まれ口を開かされれば、そのまま生き物のような舌が忍び込んでくる。逃れる前に絡みつかれ、深く口内を貪られる。
「…んんんんっ…はっ…やめっ…エフラ…っんんんんっ!」
手首を掴まれ形だけの抵抗を閉じ込められ、何度も何度も口中を弄ばれた。飲みきれなくなった唾液が口許を伝っても、それを拭う事すら許されなくて。
「―――止めろなんて口だけだろ?ヒーニアス」
挑発的にひとつ微笑うその顔はぞくりとする程に綺麗だった。目を逸らしたくても許さないとでも言うように、鮮やかに微笑う。まるで全てを見透かすかのように。
「だって、ほら」
「―――っ!あっ!」
しなやかな指先がそっと触れる。微かに膨らみかけた自分自身に。その刺激に思わず零れた悲鳴を逃さないとでも言うように、指が布の上に浮かび上がったカタチを辿ってゆく。
「キスだけでもうこんなになっている。イヤらしい身体だな」
「…そんな…身体にしたのは…誰だっ…あっ…ぁぁっ」
指の刺激のせいで脚が震えた。がくがくとひざが揺れまともに立っていられずに身体を預ければ、ふわりと髪の匂いが鼻孔に広がった。少しだけ汗を滲ませた雄の匂いのする薫りが。
「俺のせいか、ならば責任を取らないとな」
腰に手を当てられぐいっと引き寄せられる。布越しに股間を重ねられ、その熱さと堅さに思わず腰を引いた。けれどもしっかりと抱いた腕がそれを許してはくれなくて。
「…このっ…万年発情期がっ!」
「褒め言葉だ。それに俺はお前にしか発情しない」
「な、何だそれはっ!!」
「言葉通りだ。だからありがたく受け取れ」
そういうと絶対的な自信を称えた瞳で見つめて、そのまま。そのままシーツの波に身体を沈められた。
その絶対的な自信が悔しくて何処か綻びを捜そうと必死になるけれど。けれども何時も。何時もその前に唇を塞がれ、身体を開かされ、何も出来ないまま快楽の海に溺れてゆく。
前のボタンだけを外され、ヒーニアスの胸元が暴かれる。シャツを着せられたまま、尖った乳首をエフラムは舐めた。
「…あぁっ…やぁっ…ぁぁ…んっ……」
ざらついた舌の感触に敏感になった乳首は面白いように反応を寄こした。それを唾液で照るまで嬲り、そのまま軽く歯を立ててやれば喉をのけ反らせて反応した。
「…やぁっ…だめだっ…ソコはっ…やぁんっ…あぁっ……」
「口ではイヤだと言いながら押し付けてくるのはどこの誰だ、ん?」
「…ちがっ…そんなこと…しなっ…あっ!」
いやいやと首を振るヒーニアスを楽しげに見降ろしながら、エフラムは指先でぴんっと尖った胸の突起を弾いた。その刺激にまるで果実のようにソレは紅く色づいてゆく。
「なら触らん。お前の望み通りに」
「―――!やっ…はっ…ふっ…はぁっ……」
言葉通りにエフラムはヒーニアスのソレには触れずに鎖骨の窪みに舌を這わせた。それはただひたすらに柔らかい愛撫で。火の付いたヒーニアスの身体にはもどかしいだけでしかなくて。
「…はぁっ…ぁっ…くう…っ……」
腰が無意識に蠢く。脚を動かし、もっと、もっとと。その様子をしばらくエフラムは堪能した。普段のストイックな彼からは想像もつかないその淫らな欲求を。そしてそれを知っているのが自分だけだという事実に満足しながら。
「どうした、ヒーニアス?腰が揺れているぞ」
「違っ…これはっ……あっ!」
またぴんっと指で乳首を弾かれる。その刺激に我慢出来ずに満足気な声を上げてしまう。それに気付いて咄嗟に手を口に運べば、その指を掴まれそのまま重ねられる。そして。
「イイだろう?ココが、ほら」
「…あぁっ…やぁ…っ違…う…私は…っ…ああんっ」
そしてそのまま胸の突起に導かれ、上から手を重ねられたままでソレを弄られる。何度も何度も。
「イイんだろ?ほら、自分でやれよ」
何時しか重ねられた手が離される。けれどもヒーニアスの指の動きは止まる事がなかった。自らの指先で、胸を弄った。張り詰めて痛くなるほどに。
「コッチもほら」
「―――っ!あああんっ!!」
前のファスナーを降ろされ剥き出しになったシーニアス自身に、エフラムの手が触れる。それは既に刺激を求めて震えながら勃ちあがっていた。その様子を満足気に見つめながら、手のひらで包み込みそのまま擦ってやった。
「…ああっ…ああんっ…だめっ…だ…あぁんっ……」
「何が駄目なんだ?そんなイイ声を出しておきながら。もっとシテ欲しいんだろう?」
「…違っ…う…っ…あ、あああ、あああんっ!!」
先端の割れ目に指を這わしそのまま爪でぐいっと抉ってやれば、その刺激に耐え切れずに鈴口からは勢いよく精液が溢れだす。それがぴちゃりとひとつ、エフラムの顔の上に跳ねる。それを指の腹で掬いそのままぺろりと舐め取った。それはひどく。ひどく、煽情的だった。
――――その背中に爪を立てたならば。その背中に決して消えない痕をつけたならば。
伸びてくる舌に自ら絡ませた。くちゅくちゅと音を立てながら、何度も何度も絡ませる。
「…このまま……」
薄く目を開けながら互いの姿を見つめれば、それはどうしようもない程に欲情した獣がそこにいた。
「…このままお前を犯すぞ…ヒーニアス」
舌が、離れる。ズボンに手を掛けられたと思ったら、そのまま全て脱がされた。そして腰を掴まれる。その瞬間身体がふわりと宙に浮くような感覚がしたと思ったら、そのまま。そのまま太股の上に乗せられて、そして。
「ここに座れ」
そして双丘の入り口に硬いモノが充てられる。それが何なのかは嫌という程にヒーニアスには分かっていた。そう、何よりも欲しかったモノ。どうしようもなく今欲しいモノ。この熱くて硬くて巨きなソレが。ソレが何よりも、ほしい。どうしようもなく、ほしい。
「――――っ!!!くっ…く、ああああっ!!!」
命じられたままに腰を落とせば、自分の中に異物が捻じ込まれてゆく。狭い入り口押し広げ奥へ、奥へと。
「まだだ。まだ全部呑み込んでないぞ、ほら」
「ああああっ!!!」
ぐいっと下から突き上げられヒーニアスの中にエフラムのソレが全て押し込まれる。中を抉り一番深い場所へと。
「…あっ…あああっ…ああああんっ……」
下から揺さぶられヒーニアスは耐え切れずにエフラムの背中にしがみ付いた。そのままきつくしがみ付き、自ら腰を振る。もっと、もっとと。
「いいぞ、ヒーニアス。もっと俺を悦ばせろ、ほら」
「あああっ…あああんっ…あ、あああああっ!!」
爪を、立てた。その背中に。無数の戦いの傷があるその背中に。そこに消えない痕を作る。消したくない証拠を。消える事のない傷を。
「―――出すぞ、ヒーニアス。お前の中に」
「あああっ!!ああああっ!!くるっ…くるっ熱いのがっ…あああああっ!!!」
どくんっ!と弾けるような音が全身に響いて、その瞬間熱いモノがヒーニアスの中に注がれる。それを感じながら、自分自身も激しい熱を吐き出した。
荒い息を剥き出しのまま吐き出して、そのまま。そのまま唇を重ねる。背中に手を廻したまま。きつく爪を立てたまま。消えない痕を作りたくて。
「これがお前の…愛の表現か?」
「…違っ…好き勝手しているお前への仕返しだ……」
お前が私のものだって。私だけのものだって。私と同じだけお前の気持ちがここにあるんだと、それを確かめたくて。確かめたかったから。ふたりの想いは同じなのだと。同じ場所に立っているのだと。
「―――まあいい。どんな理由だろうとお前がつけたものならば俺にとっては宝物だ」