何時も泣いてばかりで、どうしようもない私の頭を不器用に撫でてくれたのはいつも。いつも、あなただったね。
空からいっぱい雨が降っていた。いっぱい、いっぱい、降っていた。それはおじいちゃんが死んだ事を、私と一緒に空が泣いてくれているみたいだった。他の人も泣いてくれて、みんなが一緒に哀しんでくれて。でも、淋しかった。心に大きすぎる穴が空いて、どうしようもなく淋しくて、どうしようもなく哀しくて。どうにも出来なくて、ただ。ただ俯いて泣きじゃくるだけだった。
『…ネイミー……』
そんな私に掛けられた声に、顔を上げるのが精いっぱいだった。けれども可笑しいね、その顔を見た途端、あんなに淋しくって哀しかったのに…心の奥底から安心出来たのが。ふわっと暖かいものが、心を満たしてくれたのが。
『…ふぇぇ…コーマ……』
ぽたぽたと頬を伝う涙は止まらない。そのせいで視界が少しだけ歪んで見える。それでも、どうしてだろう?あなたの顔だけははっきりと見えたのは。私にはちゃんと見えたのは。
『大丈夫だ、ネイミー、俺がいるから…だから』
そっと指先に暖かいものが触れる。それがあなたの手だってことはすぐに分かった。そうだ、何時もこうやって。こうやって貴方は手を握ってくれる。私が困った時、私が不安になる時、私が淋しい時。
『だから泣くな、ネイミー』
必死で慰めてくれるあなたも泣いている。ふたりで、泣いている。けれども繋がっている手のひらが暖かいから。絡め合っている指先が優しいから。
『うん、うん、コーマ…コーマぁ…ぐすんっ……』
ずっとこうして手を繋いでいた。こうしていれば哀しみを半分こできるような気がして。だからずっと、涙が枯れるまでこうして。涙が乾いて頬を伝う涙腺が消えても、こうして。こうしてずっと、手を繋いでいた。
何時しか空から零れる涙が止まって、優しい光が注いでも。繋いだ手だけは離さなかった。
こうして視界が歪むたびに、呆れずに見護ってくれる瞳がずっとあったから。だから、こうやって毎日を進んでゆけるんだって気付いた時に、私はきっと恋をしていた。
「―――好きだぜ…ネイミー……」
初めて言葉にしてくれた気持ちに、私は零れる涙を堪え切れなかった。何時も、何時もあなたには泣かされていたけれど…今日という日程本当の意味で、あなたのために泣いた日はなかった。
「って何でまた泣くんだよっ!」
困ったような声が頭上から降ってくる。けれどもこんな時に涙を止められないのは…恋する女の子なら仕方ないのだから、許して欲しい。
「…全く…しょうがねーな……」
涙が止まらない私の手をそっとあなたが取る。そっと取って、指を絡める。暖かくて、優しいその手が。それはずっと。ずっと変わらない…私が知っている、大切な手のひらだった。
思えば、ずっと。ずっと、繋がっていたね。そして。
「本当にお前は、泣き虫だな」
そしてこうやって、分け合っていたね。色んなものを。
「だって…コーマが…そんなこと言うから……」
哀しい事も、楽しい事も、全部一緒だったから。
「…って…好きだって言うのも駄目なのかよっ…」
だから哀しみは半分になって、喜びは倍になった。
「…びっくり…したんだもん…でもね……」
いつもふたりで。ふたりで、こうして作ってきたね。
「…でもね…嬉しくて…嬉しいから…私……」
こうやってふたりで、一生懸命作り上げてきたね。
色んなものが浮かんでは消え、消えては浮かんでくる。その破片に必ずあなたがいる。どんな場面でも、どんな瞬間でも。
背中に腕が廻される。ぎゅっときつく抱きしめられて思わず目を閉じた。けれどもその強さが嬉しかった。とても、嬉しかった。
「…だって…私…ずっと…コーマが……」
おずおずと背中に自らの手を廻せば、抱きしめてくれる腕の力が強くなる。触れあっている個所が熱くなる。伝わってくる胸の鼓動が重なって、一緒になった。その瞬間がまた。また私の頬に涙を伝わせる。
「ああ、大好きだって―――言ってくれたよな」
「…うん、うん、うん。大好きだよ。コーマが大好きだよぉ……」
「だから俺もちゃんと言いたかったんだ。言ってなかったから」
「…コーマ……」
背中に廻されていた手が離れて、そっと。そっと私の頬を包み込んでくれた。こんな時にも感じられるあなたの手のぬくもりが嬉しい。嬉しくて、心がいっぱいになって。
「もう一回言うぞ。次いつ言うか…分かんねーから…好きだ、ネイミー」
いっぱいになって溢れそうになったら、その想いをあなたの唇が受け止めてくれた。触れあった唇がそっと、受け止めてくれた。
追いかけていた、ずっと。小さいころから追いかけていた。
必死に追いかけたのに追い付かなくて、どうしようもなくなって。
哀しくて泣いたら、必ず。必ず振り返って、戻ってきてくれた。
私の元に戻ってきてくれて、そして。そして、手を繋いでくれる。
――――手を繋いで、そうやって。そうやって私と一緒に、歩いてくれるから。
唇が離れたと思ったら、額が重なった。そこから伝う体温は、泣きたくなるくらいに優しいものだから。
「ネイミー」
吐息がかかる距離で呼ばれる名前の響きは、不器用でぶっきらぼうだけど何よりも暖かい。それは私が一番知っている、私が一番好きなあなただから。
「これからもその…よろしくな」
「―――はい」
幼なじみという関係が恋人になっても、変わらないものがある。それこそがふたりが一緒に育ててきたものだから。一緒に、育んできたものだから。
「これからも…一緒だね…コーマ……」
ふたりがこうやって、重ねてきたもの。それは暖かくて優しくて、そして。そして少しだけ…切なくなるもの。
「…ずっと…一緒、だね……」