その鼓動に耳をあてて確認をする。ここにあるただひとつの命を。ただひとつの愛しくて、大切なこの命を。
「……貴方の音がします…私はずっと、この鼓動に包まれていました……」
目を閉じて感じる命の音がただひたすらに。ひたすらに大切なものだから。自分の命よりも、何よりも。
「―――エイリーク様……」
そっと降ってくるその声に、瞼を開けるのを躊躇った。もっと聴いていたかったから。貴方が呼ぶ私の名前を、ずっと聴いていたかったから。
「…何よりも大切な…貴方の命……」
布を隔てた先にある貴方のぬくもりにひとつ唇を落とした。全ての想いと愛を、この唇の上に乗せながら。ただ一つの愛しい貴方の命へと。
「私も大切です。貴方が何よりも…そして愛しています…エイリーク様……」
瞼をそっと開ければそこにあるのは優しい貴方の瞳。その綺麗な瞳を瞼の裏に焼き付けて、私は再び目を閉じた。目を閉じて、迎え入れた。落ちてくる熱い唇の感触を。
――――この身体を満たしてくれるのは、貴方だけで。貴方の愛だけが、私をそっと。そっと埋めてくれるから。
剥き出しになった背中の傷跡を指で辿る。この傷跡が消えない事に憶える罪悪感と、そしてどうしようもないほどの幸福感は…どうすればいいのだろう?
「…エイリーク様……」
私のために負った傷。私のせいで永遠に消えない傷跡を作ってしまった。けれどもそれ以上に。それ以上に思ってしまう事がある。この傷がある限り貴方の中に『私』が永遠に刻まれるのだと。私が貴方の中にずっと残るのだと。
「…この傷は私の誇りです。貴方を護ったという…勲章です……」
そっと降ってくる唇の感触を、瞼を震わせながら受け入れた。重なった個所からじわりと広がる熱が、ゆっくりと私の意識を溶かしてゆく。
「…ふぅ…んっ…んんっ……」
薄く唇を開ければ、滑らかな舌が口内へと侵入してくる。戸惑う前にソレに絡めれば、濡れた音ともに答えてくれた。生き物のように私の口内を蠢いて、きつく根元を吸い上げられる。
「…はぁっ…んっ…んっ…ふっ……」
角度を変えて何度も何度も口内を弄られ、息が上がるのを止められない。けれどもそれ以上に…それ以上に私は貴方の熱さを感じたい。
「…エイリーク様……」
「…あっ……」
唇が離れても一筋の唾液が二人を結んだ。それを濡れた視界で確認しようとしたら、そのままざらついた舌で舐め取られた。それだけで、もう。もうじわりと心が濡れてゆく。
「愛しています、エイリーク様。貴女だけを」
貫かれたいと思った。今この視線に。真っすぐに向けられる痛い程の視線に。このまま貫かれて、私の中に消えない楔となって埋め込まれれば…幸せ。
「…私もです…ゼト…私だけの…騎士……」
想いを伝えるには言葉では足りないから、自分から口づけた。挨拶じゃない、思いの丈を込めた深い、深い、キスを。
ずっと恋焦がれていた。多分物心すらつかない頃から。ずっと貴方が好きだった。
「―――貴女とこうすることは許されないと思っていました」
広くて大きな背中にずっと護られていたから。ずっと貴方が盾になっていてくれたから。
「貴女は姫で私はただの一介の騎士…そう思ってずっと心に閉じ込めてきました」
私はそれ以外のものを望まなかった。貴方以外を、望まなかった。きっとその瞬間から。
「でも貴女はこうして私の腕の中にいてくれる…もう何も欲しいものはない……」
その瞬間から、私は恋に落ちていた。貴方に恋焦がれていた。どうしようもない程に。
露わになった乳房に舌を這わせられて、耐えきれずに身体が揺れる。まるで水の中の魚のように。
「…あっ…あぁ…んっ……」
わざと音を立てながら舐められ、もう一方の胸の果実に指を這わせられる。もうそれだけで、堪える事が出来ない。口からは言葉よりも先に甘い吐息が零れてしまう。
「…あぁんっ…駄目…です…そんな…舐めないで…っ……」
乳首が照かる程に舐められ、紅く色づくほどにきつく吸われる。敏感な器官を執拗に攻められ、どうにも出来なくて首を左右に振った。もう、どうにも出来ない……。
「そんな可愛い声で鳴かれては…私は止める事が出来ません。エイリーク様」
「…やぁっ…ああんっ…あんっあんっ!」
口に乳首を含まれながら言葉を紡がれれば、そのたびに歯が当たって益々私を悩ませる。そんなもどかしい刺激すら、今の私には媚薬にしかならない。
「…だ、め…っ…はぁっ…あぁぁ……っ……」
きつく目を閉じて押し寄せてくる波から逃れようとした。けれどもそうすればそうする程、余計に刺激がくっきりと浮かび上がってくる。浮かんで、襲って、呑まれてゆく。
「だめぇ…ああっ!」
指が脚に触れたと思ったら、いつの間にか秘所に忍び込んでいた。くいっと指を曲げられ、中を掻き乱させる。くちゅくちゅと濡れた音とともに。
「…ああっ…あんっ…ソコは…だめぇっ…やぁんっ…!」
「駄目なのですか?こんなにも…濡れているのに…。私の指がびちょびちょになるくらいに」
言葉通りに、濡れた音があそこから零れてくる。それと同時に蜜が滴るのも感じる。はしたない程に感じて、濡れぼそっているソコを。
「…だめですっ…だめぇ…変に…へんにっ…なっちゃうっ!……」
熱いものがソコから広がって全身を駆け巡る。意識を呼び戻そうとしても、熱いぬめりに飲み込まれてゆく。飲み込まれて、分からなくなって。
「分かりました、じゃあこっちで」
「…あっ…!…ああんっ!!」
指が引き抜かれる喪失感に浅ましい私のソコは、ぎゅっと蠢いた。けれどもそれはすぐに入れ替わった舌の熱さに、満足げに蜜を滴らせた。
「…だめぇっ…そんな…っ汚っ…あんっ…あぁぁっ!」
「汚くないですよ。私にとって貴女の全てが美しく、尊いものなのですから」
髪が、乱れる。そこからぽたりと汗が零れる。その汗が頬にあたり、口から零れる唾液と繋がった。ぐちゃぐちゃに濡れた、顔。それは私のアソコと同じで。同じ、で。
「―――愛しています。エイリーク…私だけの……」
「――――ああああっ!!!!」
舌の感触から解放されたと思う間もなく、私の濡れぽそった入り口に熱いモノが当てられる。それを確認する前に、ずぶりと楔が私の中に挿ってきた。
「あああっ!!ああっ…あんっあんっあああんっ!!」
ずぶずぶと埋め込まれる圧倒的な存在感に、もう私は甘い悲鳴を上げる事しか出来なかった。強く埋め込まれる楔の感触に呑まれるしかなかった。
「…エイリーク…エイリーク……」
降ってくる、声。降り積もる、声。優しく熱い、貴方の声。それとは裏腹に、貫く楔は激しく、強い。奥まで届くような、硬さと巨きさで。
「…ああっ…ああんっ…ゼトっ…ゼトっ!あああっ!!!」
腰を掴まれ、がくがくと揺さぶられる。そのたびにシーツが波打ち、髪が乱れた。振動で胸が揺れ、声が震える。意識が飛ばされ、もう何も考えられない。
「―――愛しています…貴女だけを……」
「あああああっ!!!!」
頭が真っ白になるその瞬間、私の中にどくどくと熱い液体が注がれた。激しく白い、液体が。
刻まれる、胸の音。私の中に落ちてくる音。
「…ずっと…この音が…私を……」
この音に包まれて眠るしあわせが、ずっと。
「…私を…護ってくれている……」
ずっと続いてくれるのならば、私は何もいらない。
「…貴方のこの胸の音が……」
なにも、いらない。貴方がいてくれれば。貴方の腕があれば、この胸の音があれば。