一緒に、いよう。ずっと、一緒にいよう。ふたりで強くなって、ふたりで高め合って、そしてふたりで微笑いあおう。そうやってずっと。ずっと、ふたりで生きてゆこう。
絡め合った指先がひどくぎこちなくて不器用だったから、ふたりで声を上げて笑った。何だかひどく可笑しくなって…いっぱい、笑い合った。
「何だか、恥ずかしいね」
はにかむような顔で見上げてくるその瞳に視線を重ねたら、逆に僕の方が恥ずかしくて少し瞼を伏せてその視線から逃れた。微かに目尻に熱が灯るのを感じながら。
「―――うん、そうだね……」
繋がっている指先がじわりと汗ばみ、それが羞恥心に拍車をかける。かといって手を離すことなんて出来る筈もなく、どうしていいのか分からなくなって空いた方の手で自らの髪を掻くだけだった。けれどもそんな照れ隠しなんて無意味なものでしかなくて。
「あのね、フランツ…大丈夫だよ…あたしはもっと……」
「アメリア?」
「…もっと、どきどきしているんだから……」
自分の気持ちを見透かされているそう思ったら、照れ隠しも無駄な行為でしかなくて。再び瞼を開いて視線を重ね合わせたら、自分よりももっと真っ赤になっている彼女の顔がそこにあった。
「ね、凄いどきどきしているでしょ?あたし」
「うん、本当だ…林檎みたいだ」
「えっ?!林檎っ?!そ、そんなになっているの??」
恥ずかしさでいっぱいだった顔が、今度は大きな目を更に大きくさせてびっくりした表情へと変化していた。そんな風にすぐに顔に出てくる所も、気持ちをこうやって真っすぐに見せてくれる所も、その全部が。
「うん、なっている。でもそんな所が僕は……」
全部が、大好きだって。大好きだって思った。君の全てが僕は本当に大好きなんだと。
ふたりが進む道が少しだけずれていても、きっと辿り着く場所は同じだってそう思えた。君の見ている場所と僕が進むべき場所が同じだって分かったから。だからふたりで共に歩んでゆける。だからふたりで一緒に進んでゆける。そう思ったから。
「―――大好きだよ、アメリア」
ふたりで高め合って、ふたりで鍛えあって、そしてふたりで目指してゆこう。そうすればきっと。きっと、怖いものなんて何もない。ふたりでいれば何も、怖くない。
「…うん…フランツ…あたしも…あたしも大好き……」
ぎゅっと繋がっている手に力を込めた。それが二人同時だったから、また。また二人して笑った。こんな時でも一緒なんだって、笑った。
「フランツのお陰でね、あたし強くなれた気がする。自分の探していたものを見つけられた気がする」
迷いのない真っすぐな瞳。初めて出逢った時とは違う、強い、強い瞳。僕が何よりも好きになった君の瞳。そこに映し出される未来が綺麗なものになるように。どんなものよりも綺麗なものになれるようにと、僕は願わずにはいられない。
「独りぼっちだったあたしに独りじゃないって事を教えてくれたのは…フランツ貴方だから……」
「…アメリア……」
その為に僕が出来る事はどんなことでもしてあげたい。どんな事でもしてあげる。だから前だけを見ていて。真っすぐに前だけを、そんな君を僕は護るから。僕の全てで、護るから。
「…だから強くなる…強くなれる…大切なものを護るために…貴方を護るために……」
「そんな所も一緒だね」
「…フランツ……」
「僕も君を護りたいから強くなれる。大事な君を護るためにもっと強くなりたいから」
その瞳が二度と曇る事がないように。君の笑顔がずっと続いていてくれるように。それが何よりもの僕の願いだから。
「…そうだね、一緒だね…へへ…あたしたち…一緒だね」
そうその笑顔が、僕を強くする。どんな事よりも、どんなものよりも、僕を強くするんだ。
――――あなたが、あたしを見つけ出してくれたから……
一緒にがんばろうって言ってくれた。一緒に強くなろうって言ってくれた。まだ半人前で全然役立たずな私に。強くなりたいって大切なものを護れる力が欲しいって、幾ら心で強く思ってもやり方すら分からなかった私に。兵士になっても結局ろくに戦えなかった私に。そんな私と同じ場所に立ってくれた。振り返って同じ位置に立ってくれた。こうして対等な位置に、立ってくれた。
「あ、あのね…フランツ……」
伝わってくるよ。こうやって繋がっている指先から、貴方の気持ちが貴方の暖かさが、貴方の優しさが…伝わってくるよ。
「何、アメリア?」
全部、全部、伝わってくるよ。それが全部私の中にそっと浸透してくる。そっと包み込んでくる。優しくて暖かいものが、あたしを包み込んでくれるの。
「ありがとう。あたしと一緒にいてくれてあたしをライバルだって言ってくれて…そして」
その想いがあたしの全てを満たしてくれた。あたしの全てを埋めてくれた。その瞬間にあたしは怖いものがなくなった。可笑しいくらいに、何も怖くなくなった。あなたがここにいてくれる限り。そして。
「…あたしを好きだって…言ってくれて……」
あたしは必要とされている。誰かに必要とされている。そしてあたしはまた。また自分の大切なものを護る事が出来る。こうやって護るための力を生む相手がいる。それがあたしを強くしてくれるんだ。
「それは僕も一緒だよ…僕を好きになってくれてありがとう…アメリア」
「一緒がいっぱいだね」
「うん、いっぱいだね…でもこれからももっと」
「うん…もっと」
「ふたりでいっぱい作っていこう」
うん、ふたりで作っていこうね。たくさんの想いと、たくさんの場面と、たくさんの気持ちを。ふたりで呆れるくらいに作っていこうね。
見つめ合って、瞳が重なって。そしてどちらともなく瞼を閉じる。言葉も合図も何もなくても、それでも一緒だった。今この瞬間に、キスをしたいって一緒に思ったから。
歯が、当たった。唇を重ねた瞬間に。そんな不器用なキスがふたりには何だかひどくお似合いな気がして…またふたりで微笑った。
「失敗したから、もう一回ね」
「うん、もう一回ね」
指を絡めたまま少し背伸びして、もう一度キスをした。不器用だけど想いを込めた優しいキスを、した。