生きていてくれと、それが貴方の最期の言葉だった。
ただひとつの、華。
俺のただひとつの華。
何よりも綺麗で、何よりも尊い。
そして何よりも気高い。
―――地上に咲く、ただひとつの華
生きていてくれ。生きていてくれ。華のように生きてくれ。
誰よりも綺麗なただひとつの俺の華。
お前だけは、この地上に咲き続けて欲しい。
―――俺はこの手でお前を折る事は、出来ないから……
一度だけ、ただ一度だけ肌を重ねた。
許されない恋。許される筈のない愛。
それでも。それでも止められなかった。
だからただ一度だけ、最後の夜。
その腕に、抱かれた。
「ラケシス…すまない…」
どうして、謝るの?
私が望んだのに、私が求めたのに。
どうしてどうして謝るの?
謝らなければならない程、私達は許されない恋をしたの?
―――どうして、ひとを愛する事が間違えだと言うの?
「…それでも…生きてくれ……」
バカねお兄様。貴方の居ない世界でどうして私が生きていられると思うの?
私と言う華はお兄様と言う水がなければ咲く事が出来ないのに。
どうして艶やかに咲き続ける事が出来ると言うの?
私の命、それはお兄様。その命のない今、私は空っぽの入れ物でしかない。
愛しているの、愛しているの。
例え血が繋がっていても、例え他人のものでも私は。
私はお兄様を愛しているの。どうしてそれがいけない事なのか分からない。
愛する気持ちにどうして間違えがあるのか分からない。
分からない、私には分からない。
「生きてくれ…ラケシス……」
ただ一度だけの夜、最後の夜。
それを胸に抱き私は生きる。生きなければならない。
それが貴方の望みなのだから。
この想いだけを胸に、生きなければならない。
「…エルト兄様……愛しています……」
私の言葉に貴方は微笑う。哀しく、微笑う。
その笑みの意味を問いただす前に貴方は私から永遠に消えた。
まだ指の感触が残っているのに。まだ身体の熱さが残っているのに。
…まだ…貴方のぬくもりが…消えないのに……
華は咲き続ける。
貴方と言う水を無くしても。
貴方の残した愛だけで。
抜け殻のように咲き続ける。
私は貴方の言葉通りにこの地上にとどまるでしょう。それが貴方への愛の証だから。
けれども私はまた、貴方の言葉通りに生きている事は出来ないでしょう。
貴方のいない世界で、どうして私が。
私が咲き続けることが出来るのでしょうか?
愛のままに生きて、愛のままに死んで行ける貴方は幸せ。私を置いて死んで行ける貴方は幸せ。
私だけが取り残された。この地上に取り残された。貴方のない世界に。
―――私だけが、残された………