贖い



―――ああ、これが罪だと云うのならばこの身を炎で焼いてくれ。


罪を、犯している。
俺は許されない罪を犯している。
それでも。それでも、俺は。

―――俺はお前を、愛している。


「…あっ…エル…ト…兄様……」
色素の薄いその肌に唇を落とす。それはひどく甘美で、そしてひどく痛みを伴うものだった。
「…ラケシス……」
この身体を腕に抱くと言う事は。この身体を自分だけのものにすると言う事は、決して。決して許される事はない。どんな言葉を並べ立てても、どんな理由を付け足しても。それでも俺は決して許される事はなくて。
「―――抵抗、してくれ」
その身体を押し倒し、衣服を剥ぎ取った。唇を奪い、鼓動の高鳴る胸に直に触れた。けれどもお前は決して抵抗はしなかった。細い両腕を背中に廻し、そしてぎゅっと抱き付いて。
―――抱き付いて、俺の名を呼ぶ…エルト兄様と……
「そんな事…出来ません…兄様私は……」
「抵抗してくれ、でないと」
背中に回された手がきつく。きつく俺を抱きしめる。そして俺を見つめる瞳は真剣で。痛い程真剣で、俺は。俺は……。
「でないとお前まで罪を被ることになる」
―――俺は、どうしようもない程にお前を愛している。


お前から逃げたかった。
その瞳が、その唇が、その指先が、その睫毛が。
その全てが俺を狂わせる。お前が欲しいと。
お前がどうしようもない程に欲しいと。
ただ独りの大切な妹。ただ独り、俺の大切な。

―――どうしてお前は、妹なんだ?

騎士としての誇り。武人としての心。
俺は騎士として生き、騎士として死ぬ。
そうする事で、そう想う事でお前から。
お前から逃げていたのかもしれない。

―――向き合う事から、逃げていたのかもしれない。


「罪ってなんですか?兄様」
「ラケシス?」
「貴方を愛する事が…人を愛する事が罪だと言うのならば、私は」

「―――私は、そんな世界はいりません」


見つめる瞳。そらされることない瞳。お前は何時も。何時もこうして真っ直ぐに、俺を見ていた。俺が耐えられなくなるほどに真っ直ぐに。真っ直ぐに、俺を。
―――逃げたかった、お前から…そうしないと俺は…俺は……
「愛しています、エルト兄様」
お前の手が俺の指に絡むと、そのまま自らの胸へと導いた。柔らかく、そして鼓動が高鳴っているその胸に。
「愛しています、兄様。私を…ラケシスを…抱いてください」
「…ラケ…シス……」
「貴方の罪は私の罪です。私を抱くのが罪だと言うのなら、抱かれたいと想う私も罪です」
そのまま手を重ねられ、上から握られた。柔らかい胸の感触が、指先に伝わる。それは確かに『女』の身体、だった。
「堕ちるなら兄様…一緒に…何処までも……」
零れ落ちる涙と共に重なる唇に、俺はもう拒む事は出来なかった。


もしもこの想いが罪だと云うのならば。
俺はどうなろうとも構わない。どうなってもいい。
けれども俺は、お前を愛している。
愛している、この気持ちだけが。
この気持ちだけがただひとつの真実。

―――お前へのこの愛だけが……


ただ独り、俺の運命。


「…ああっ!……」
胸の果実を口に含みながら、乳房に指を這わした。柔らかい感触と、甘い声が俺を誘う。微かに薫るお前の体臭に、鼻孔を刺激されながら。
「…ああっ…あん…エルト…兄…様……」
「…ラケシス…ラケシス……」
名前を呼ぶだけで、愛しい。名前を呼ばれるだけで、切ない。苦しく激しく、壊れて。落ちて堕落して、そして。そして俺達は何処へ辿り着くのか?
「…あぁ…兄様…もっと…もっとぉ…あぁぁ……」
ぺちゃぺちゃと音を立てながら乳房を貪った。今までこんな風に我を忘れて女を抱いた事などなかった。自分の理性を忘れて、身体を貪っている自分など。
―――どんな女を抱いても、何時もお前の面影を追っていたから……
「…ああんっ…はぁぁっ…兄様ぁ…あぁ……」
お前の腰が揺らめく。秘所を俺自身へと押し付けてくる。その茂みの感触に、俺自身は反応した。―――お前の中に、入りたいと。
「…兄様…ココ…ラケシスの……」
お前は自ら脚を広げて、俺の前に秘所を暴き出す。指先で花びらを広げて、ひくんひくんと震える蕾を俺の前に暴いた。
「…ココに…兄様のを…あぁんっ……」
お前の細い指がぷくりと、蕾に埋められる。そこからはとろりと蜜が零れていた。くちゅくちゅと音を立てながら掻き乱すお前の指。そして空いている方の手も、お前の胸へと辿り着く。
「…ああっ…あぁんっ…兄様のが…兄様のが…欲しい……」
胸を激しく揉みながら、蕾を指で弄くり。甘い悲鳴のような声と、俺を呼ぶ唇。俺を欲しがる唇。腰は激しく揺れて、口許から唾液の筋を滴らせ。それでも。それでも何処までも綺麗なお前。
「…欲しい…兄様…ラケシスのココ…に…あぁ……」
「―――ラケシス……」
俺はその手を止めさせそのままきつく抱きしめた。抱きしめて、口付けて。そして深く舌を絡めて。
―――そのままゆっくりと、お前の中に入っていった……


繋がって、いる。
今お前と一つに。
ひとつに、繋がっている。
もう戻れない。
何処にも戻れない。

――――ただ後は罪に堕ちてゆくだけ……


「――――んっ!!!!!」
唇を塞いだまま、お前の中へと入ってゆく。ピキィと音がして、肉が引き裂かれているのが分かる。それでも俺は止めなかった。そしてお前も止めて欲しくはなかった。
「…んっあっ!…あああっ…ああああっ!!」
唇を離して、お前の乱れる姿を目に焼き付けた。金色の髪を揺らし、我を忘れて喘ぐ姿を。
「…ああああっ…ああんっ…あぁっ……」
お前以外、欲しくはなかった。お前以外この腕に抱きたくはなかった。お前の中以外に、入りたくはなかった。
―――愛しているから。愛して、愛して、どうしようもなくて……
「…あぁぁっ…兄様…兄様ぁっ!」
「ラケシス…愛している…ラケシス…」
もうどうなろうとも構わない。どうなってもいい。地獄に堕ちようと、炎に焼かれようと。俺は。俺はこうしてお前を抱く事が出来るなら。お前とひとつになれたのならば。
「…兄様ぁっ…にいさまぁっ…あああっ!!」
罪は俺が被るから。死とともに俺が持ってゆくから。ラケシスお前は。お前はずっと。ずっと綺麗なままでいてくれ。俺の運命でいてくれ。
「…永遠に…愛している……」
「――――あああああっ!!!!」
最奥まで貫いて、そしてその中に熱い液体を注ぎ込んだ。俺のただひとつの想いを込めて。


「…あああっ…あぁ…兄様…もっとぉ…もっとぉ…」
「ああ、ラケシス。幾らでも…幾らでも」
「…はぁぁっ…ああ…深い…深いよぉ…あああっ……」
「…ラケシス…ラケシス……」


俺達は獣のように求め合った。
何度も何度も、我を忘れて。
ただそこに存在する『愛』と『欲』のみで。
深く、深く、互いを求め合った。

―――最も醜く、最も純粋な姿で。



「…兄様…ラケシスは貴方だけのものです…」
「―――俺もだ……俺もお前だけのものだ」
「これから先どんな事があっても。例え死が私達を分かち合っても」

「私のこころはずっと、兄様のそばにあります」



本当は、お前は分かっていたのだろう。
この先俺が選ぶ選択肢を。俺が選ぶ道を。
それでもお前は、俺を選び。
そしてただひとつの想いを告げる。

何処へも戻れないと分かっていても。




「愛しています、エルト兄様」




罪は、この罪は俺が死とともに持ってゆくから。
お前は綺麗なままで。ずっと綺麗なままで。




…地上に咲く、強い華となれ……