何時も、いっぱキスをしていたい。
後ろから抱き付いて、そのまま抱きしめた。普段あれだけ大きな剣を振り回しているのに、その身体は腕にすっぽりと納まる程に華奢で。
「ヨハルヴァ?どうしたの?」
見上げてくる漆黒の瞳は大きくて、まるで吸い込まれそうなほどで。そして軽く首を傾げる姿が、滅茶苦茶可愛くて。
「…お前がいたから…ひっつきたかった」
堪らなくなってギュッと抱きしめた。少しだけ困ったような顔でお前は俺を見ている。それすらも可愛いと思ってしまう俺はちょっとマジヤバイのかも、しれない。
「引っ付きたかったって…ヨハルヴァ〜」
「お前が悪い、スカサハ。そんな可愛い顔するからだ」
「…あ、あの……」
可愛いと口にした瞬間に耳まで真っ赤になるのがまた可愛い。普通ヤローなんだから可愛いと言われて喜ぶ輩はいないのだが、こいつはどっかずれていて何時もこんな反応を寄越す。どうも『可愛い』=『好かれている』と解釈してるらしい。
―――まあ…こいつに言っている分には…俺の気持ちは大差はないのだけどな。
自分でもヤバいなと言うくらいに惚れている。
可愛くて可愛くて仕方なくて。本当に目に入れても痛くないほどに。
どうしようもなくかけがえのない存在。大事な、存在。
何時もこうして腕の中に閉じ込めて、大事に護りたいけど。
実際お前は強くて。戦場に出ると滅茶苦茶強くて。
父親譲りの剣捌きで、廻りが見惚れるほどに綺麗にその剣を振るう。
普段の優しい表情から想像できないほどに。
…けれども本当はその瞳の奥の哀しみが宿っているから……
「ああ〜可愛い、キスさせろ」
「って何時も聴く前にするくせに」
「イヤか?」
「…イヤ…じゃない……」
目を閉じたお前の唇にそっと口付けた。
何時もキスをしていたいと、思う。
何時もこうやって触れ合っていたいと思う。
そうしたら。そうしたらお前の哀しみを見逃したりはしないから。
「ヨハルヴァ」
「ん?」
「…俺の事、好き?…」
「聴かないと分かんねーか?」
「…分かる、けど…」
「…でも聴きたいなってちょっと思ったから」
少しだけ照れながら微笑うお前にもう一度キスをして。
そして心の全てを込めて言った。
――――好きだぜ、と……。
風がひとつ吹いてお前の髪を揺らした。そのまま顔を埋めて微かな薫りを感じる。涼風のような薫りが何時もお前からは、した。
「…ヨハルヴァ、ちょっと重い……」
「あ、わりーじゃあこう」
一端手を離して、自らのほうに向かせてそのままもう一回ぎゅっと抱きしめた。柔らかい髪を撫でながら耳にキスをする。それだけでぴくんっとお前の肩が揺れた。
「へへ、やっぱおめー可愛い」
「…可愛いって…俺以外、言わないね。ヨハルヴァは」
「当たり前だろ?可愛いのはお前だけ、大好きだぜ」
耳だけじゃ我慢出来なくて、額に鼻筋に頬にキスの雨を降らせた。こうして少しでもお前に触れる事が、今の俺にとって一番の『幸せ』を感じる時だから。
「うん、俺も好き」
何時も俺の方が好きっていっぱい言っているけど…でもお前もこうして言ってくれるから。俺が欲しいなって思った瞬間には。
―――本当は…剣を振るいたくはないんだ……
誰の前でも話さなかったお前の本音を、俺だけに話してくれた時。
ぽつりと呟くように、話してくれた時。俺は。
俺はこいつを護ろうって決めたから。こころを、護るって。
本当は人を殺すのが嫌いで、戦争が嫌いで。
そして誰よりも優しい心を持っているお前を。そんなお前を。
これ以上傷つかないようにと。これ以上哀しまないようにと。
俺がお前の盾になると、そう心に誓ったから。
「なぁ、スカサハ」
「うん?」
「…俺って頼り甲斐、あるか?」
「くすくす、何言ってるの?ヨハルヴァ」
「いやその…お前から見てとうかなぁって…」
「俺に聴いても意味ないよ」
「だって俺誰よりもヨハルヴァを頼りにしているから」
にっこりと微笑って、俺の一番欲しい言葉をくれるお前。お前にとって頼り甲斐のある奴だったならそれでいい。他はいい。お前が安心出来る場所を俺は作りたいから、だから。
「ああ、頼りにしろよ…俺は…お前だけのモンだからな……」