大切な人



―――僕にとって、何よりも大切な人。誰よりも、大切な人。


貴方のそばにいる為ならば。貴方のそばに置いてもらう為ならば。
貴方をずっと。ずっと、見つめていられる為ならば。
僕はどんな事でも、出来るから。どんな事だって、出来るから。


「本当に、いいのか?」
見下ろしてくる漆黒の瞳に僕は小さくこくりと頷いた。怖いとか、怯えるとか、そんな気持ちは何処にも無くて。何処にも無くて、ただ。ただこうして貴方が僕を見つめてくれると言う事だけが。
「…はい…キュアン様…僕は…ずっとキュアン様だけのものです……」
頬に掛かる大きくて優しい手に、僕はそっと目を閉じた。微かに睫毛が震えたけれども、それも次の瞬間に降りて来た唇に全ての思考が奪われた。

―――触れ合っている…唇のぬくもりが伝わる…そう、思ったら……

そっと舌をなぞられて、僕は唇を開いた。ゆっくりと貴方の舌が忍び込んでくる。そして僕の舌を絡め取ると、そのままきつく吸い上げた。
「…んっ……」
口の中を弄られ、僕の睫毛がびくびくと震える。口許からは飲みきれない唾液が伝った。それでも僕は。僕はそれから逃れようとも、逃れたいとも思わなかった。
「…ん…あ…はぁっ……」
舌の裏を舐められて頭の芯がぼーっとしてくる。その間にも貴方の大きな手が、器用に僕の服を脱がし始めた。素肌が空気に触れて、その寒さに一瞬身体が竦んだ。
「…あっ!……」
貴方の指先が僕の胸の果実に触れる。それはたちまちぴんと張り詰め、与えられた刺激に反応した。その立ち上がった突起を指で摘みながら、擦られる。それだけで僕の口からは甘い吐息が零れるのを抑えきれなかった。
「…あ…やんっ…あぁんっ……」
執拗に貴方はソコに愛撫を続ける。そのせいで僕の突起は真っ赤に染まっていた。けれどもその色すらも貴方は甘く溶けるような笑顔で『可愛い』って言ってくれた、から。
「あぁ…あ…ん…」
カリリと白い歯を立てられれば口からは長く甘い吐息が零れる。それを止める術も、止める理由も僕は知らなかった。知らなかったから。
「…キュアン…様…あぁ……」
ただ必死に貴方の背中に抱き付いて、感じるままに胸を突き出して刺激を、ねだった。


「―――ああっ!!」
貴方の手が僕自身に触れる。先ほどまでの胸の愛撫のせいで、ソコは既に微妙に形を変えていた。その手の中の膨らみを撫でて、そして包み込む。どくんどくんと、熱く脈打っているのが自分でも分かるほどに。
「…あっ…あぁ……」
長い指が、自身を撫でる。先端の窪みに爪を立てられ、裏側を撫でられた。その刺激にビクンッと自分の身体が跳ねるのを止められない。
「可愛いよ、フィン」
「…やぁ…あ…ん…あぁ……」
耳たぶを噛まれながら、囁かれる言葉が。同時に感じる場所を弄られながら囁かれる言葉が。僕をおかしくし、そして淫らにさせる。ただひたすらに乱れて、先端からは耐えきれずに先走りの雫が零れてきて、そして。
「…フィン…私のフィン……」
「…キュアン様…あっ…もぉ…僕……」
「いいよ、イッても。フィンのイッた顔が見たい」
快楽で潤んだ瞳で、僕は貴方を見上げた。優しい、瞳だった。優しい瞳が僕を見つめていてくれたから。見つめて、くれたから。
「…キュアン…様…僕……あっ……」
「いいよ、フィン」
「―――ああああんっ!!!」
ぐいっと先端を強くしごかれ、僕はあっけないほどに達してしまった……。



「…あっ…やっ」
僕の零した液体で濡れた貴方の指先が、そっと僕の中へと入ってくる。それでも初めて受け入れた異物に、僕の顔は歪まずにはいられなかった。
「…あぁ…やぁ…ん」
それでも何度も降って来る唇と、そして優しく中を掻き乱す指が、何時しか僕の敏感な肉に馴染んでいって。くちゅくちゅと濡れた音で掻き乱されるたびに。
「…ぁぁ…あぁ……」
痛みを和らげようと前に伸ばされた貴方の指が。僕を包み込む貴方の指が。その優しさが、僕にとって。僕にとって何よりも感じるものになって。
何時しか中に入っていた指の数が増えて、入り口を広げられても、僕は腰を振ってその動きに答えていた。
「―――もう、いいか?」
「…はぁぁっんっ!……」
貴方の言葉にこくりと頷けば、体内の指が引きぬかれる。その刺激にすら…僕の身体は感じていた。貴方の指だから、感じていた。
「…好きだよ…フィン……」
貴方の瞳がそっと僕を見下ろす。そして僕の全てを閉じ込めるように見つめてくれて。見つめて、くれて。
「…僕も好きです…キュアン様……」
唇に一つキスをくれて、そのまま腰を掴まれて…貴方が中に挿ってきた……。


粘膜が裂けて、血が零れて来るのが分かる。それでも僕は貴方に必死にしがみついた。しがみついて、離れなかった。離れたく、なかったから。
「…ああああっ…ひぁぁっ!……」
目尻から零れて来る涙は確かに痛みから来るものだったけれど。真っ二つに引き裂かれた痛みだったけれど。それでも。それでも。
「大丈夫か?フィン」
「…へぇき…です…だから…止めないでください…あっ……」
それでも今。今この瞬間にひとつになれたから。貴方と一つに、なれたから。だから平気。どんなに痛くても平気だから。
「…ああぁっ…あぁ…キュアン様…キュアン様っ!……」
好きだから。貴方だけが好きだから。だから平気。平気です。貴方だから。
「…愛しているフィン…私の……」
「…キュアン様…キュアン様…あぁぁ……」
「―――私だけのものだ……」
「あああああっ!!!」
激しく腰を打ちつけられて中に大量の熱い液体が注がれる。それを感じながら、僕の意識は真っ白になった。



大切な人だから。何よりも、誰よりも。
だからずっと。ずっとそばに置いてください。
貴方が死ぬその瞬間まで、僕を。
僕を貴方のそばに置いてください。


――――こんな時、男に生まれてきて良かったと思う。


貴方とともに戦えるから。前線で一緒に戦えるから。
何時しか貴方よりも強くなって、そして。そして貴方を。
貴方を護れるようになりたい。貴方の騎士に、なりたい。



「…フィン…大丈夫か?その…私はお前に無茶をしてしまったみたいだ……」
抱きしめてくれる腕。大きくて広くて、そして優しい腕。
「…いいえ、平気です。キュアン様…それに、僕も……」
この腕がずっと。ずっと、僕のそばにあれば。こうして抱きしめてくれれば。



「…僕も…無茶するほど…貴方が欲しかったんです……」