幸せな体温



胸の音を聴くために瞼を閉じれば、伝わってくるのは優しいぬくもり。幸せな体温。


とくんとくんと聴こえてくる胸の音に、柔らかな痛みが染み込んできた。それはひどくしあわせで、ひどくせつないもの。
「―――どうした?」
腕の中で身じろぎそっと瞼を開いたアイラに、静かにホリンは尋ねる。蒼い瞳に映る自分の姿を見つけてアイラはひとつ、安堵のため息をついた。
「…いや…夢を見て……」
「夢?」
大きな手のひらがそっとアイラの髪を撫でる。不思議だ、それだけで。それだけで全ての怖いものがなくなってゆくのが。こうしてその手で髪を撫でられるだけで。
「…お前が何処にもいない夢…馬鹿だな…こうしてお前はそばにいてくれるのに……」
こんな時きっと自分はひどく無防備な顔をしているのだろうと思う。そうでなければこんな風に、この手は髪を撫ではしないから。こんな風に、優しく子供をあやすように。
「ずっといる。俺はアイラ―――お前のそばにいる事だけが俺の全てだから」
「…ホリン……」
手を伸ばして、背中の感触を確認した。広くて大きな背中。生傷が癒える事のない背中。この背中を預けられる相手が、ずっと。ずっと自分だけであるようにと願いながら。
「ずっとお前のそばにいる、だから」
その先の言葉は告げられる事はなかった。重なり合う唇のせいで。けれどもアイラだけは知っている。ホリンが伝えてくれる言葉を、知っている。ずっと、知っている。


指を絡め合って口づけあう。何度も角度を変えて、互いの唇を貪り合った。何時しかアイラの口許からは呑み切れなくなった唾液が口許を伝う。けれども構わずに唇を重ね、吸い合った。
「…ふっ…んっ……」
舌を絡め合えば自然と身体も絡め合いたくなって。堪え切れなくてアイラは自らの脚をホリンに絡めた。下腹部が重なり合うように。
「…んんっ…はっ…はぁ…んっ……」
重なった下腹部が熱くなるのを感じる。じんっとソコが疼いているのが分かる。そして何よりも自分に押し付けてくる熱くて硬いモノの存在が、身体の芯を濡れさせた。
「…ホリン…私……」
快楽に潤み始めた視界で相手を見上げれば、それに答える代わりに額に唇が降りてきた。そしてそのまま胸に指が触れてくる。
「…あっ…あぁぁっ……」
普段はあんなにも強く剣を握る指が、今はこんなにも優しい。それはもどかしい程の優しい愛撫だった。けれども感じた。脳みそが蕩けそうな程に、感じた。
「…ホリンっ…あぁぁんっ……」
胸を弄られながら同時に下腹部に指を触れられる。入り口を指の腹でなぞられ、そのままずぷりと指が挿いってくる。
「…あぁんっ…くふっ…あ……」
蜜を滴らせている蕾を掻き乱す指の動きが、アイラの長い髪を揺らした。白いシーツの上に零れる漆黒の髪は、それだけでひどく煽情的に見えた。
「…あっ!……」
指が引き抜かれたと思ったら、脚を広げさせられた。そしてそのままざらついた舌がソコを舐める。その感触に、瞼が、吐息が、震えた。
「…あっ…あぁっ…あんっ…あんあんっ……」
茂みを掻き分け奥へ奥へと侵入する舌は、アイラの感じる場所を的確に攻めてゆく。この身体の全てを知り尽くした舌が。
「…ホリン…もうっ…もう…そこは…っそこは…いいから……」
「――――分かった、アイラ…一緒に……」
解放された蕾はいやらしくひくひくと蠢いている。大量の蜜を滴らせながら。その入り口に自らの楔をあてがうと、ホリンはその細い腰を掴みそのまま引き寄せた。


鼓動が、重なる。熱が、伝う。汗が、飛び散る。
「…ああっ…ああぁっホリンっ!…ホリンっ!!……」
擦れ合う肉の感触が。押し広げられる悦びが。貫かれる快感が。
「…愛している…アイラ……」
与えられる言葉が。降り注がれる想いが。その全てが。
「…あぁぁ…私も…私も…ホリン…私も…ああっ!!」
喉をのけ反らせて、喘いだ。注がれる熱に浮かされながら。


――――こうして繋がっている、喜びから。こうしてひとつになっている、悦びから……


伝わってくる体温。肌から皮膚から伝わってくるもの。それは何よりも優しい。それは何よりも愛しい。それは何よりも嬉しい。こうして言葉ではなく身体を重ねる事で伝わるものもある。伝わる想いも、ある。


柔らかな痛みも、説明のつかない切なさも、全部。全部この音に包まれていれば。このぬくもりに包まれていれば。何も、何も、怖くない。
「――――おやすみ…アイラ……」
腕の中で無意識に寄り添い眠る恋人の瞼に一つ唇を落とすと、そのまま瞼を閉じて後を追いかける。幸せな体温を、分け合いながら…。









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