罪業



――――私は…罪を犯し続けている……


愛という名の魔物に捕らわれ、それから逃れられずにこの手を。
この手を血で濡らし続けている。自らの意思で濡らし続けている。
どんなに心が軋もうとも、どんなに心が壊れようとも。それでも。
それでも私は自らの罪で自らの心を抉り、どんなに全てを壊そうとも。

貴方を愛することを、止められないのだから。


愛だけに生きて、愛だけに死ねたら…しあわせ?貴方だけに全てを奪われたら…しあわせ?
口付けは何時も血の味がする。貴方の唇から零れるのか、私の唇から零れるのか、それはもう分からなくて。分からない、ただ。ただ絡み合う舌と唇が真紅の味がする事以外には。
「…はぁっ…んん……」
交じり合う、唾液。交じり合う、血。ぐちゃぐちゃになって何もかもが分からなくなったら。分からなくなったならば…私は…満たされるの?
「…イシュタル……」
「…はぁっ…ぁ…ユリウス…様……」
噛み付くような口付け、息が出来ないほどの、口付け。眩暈とそして血の味だけが口内を埋める、ただひたすらに甘美な口付け。それを。それを与えたのは貴方。貴方だけが私に与えたもの。

―――眩暈がするほどの、快楽と…抉られる胸の痛み……


愛だけに生きられたなら。
何もかもを捨てて、何もかもを捨て去って。
ただひたすらに貴方のためだけに生きられたならば。
何も苦しいことも、何も哀しい事もない。

ただ貴方だけを愛して生きられたのならば。

泣き叫ぶ子供の声も。溢れる光も。
その全てを綺麗に拭いされたならば。
貴方の血が全てを洗い流してくれたならば。


…私はもう何も…何も苦しむことはない……


「…ユリウス様…私を…無茶苦茶にして…ください……」
背中に爪を立てることすら許されなかった。貴方は支配者、私のただ独りの所有者。私は貴方の奴隷。貴方と言う存在に捕らわれそして恋をしたただの奴隷。だから爪を、立てられない。貴方の綺麗な背中に。
「―――ふ、お前は私のものだ…イシュタル…私だけの…」
ええ、貴方のものです。つま先からこの髪の一つ一つ全てが。全てが貴方だけのもの。貴方だけのもの、だから。

だから私を支配するのも、私を犯すのも、私を壊すのも貴方だけ。

乱暴に服を引き裂かれ剥き出しになった乳房に指が触れる。長い爪が白い胸に食い込み、そこから血がぽたりと零れた。けれどもその痛みすら。痛みすら、今の私には。
「…あぁんっ…あぁ……」
「相変わらずイイ声だ…お前の声は耳に心地よい…もっと聴かせろ」
「…あぁっ…はぁっ…ユリウス…様っ…あぁ……」
耳たぶを軽く噛まれながら、痛い程に乳房を揉まれる。胸の突起を爪で抉られ、充血するほどに尖った乳首が痛い程に張り詰める。けれどもそれすらも。
「…あ…あんっ…あぁ…ユリ…あぁぁ……」
胸から零れる血がぽたりと私の肌に伝ってゆく。胸の谷間を流れ、臍のくぼみに落ちて。そのまま下腹部の茂みに、落ちた。
「お前には赤が何よりも似合う…私のイシュタル」
「…ユリウス…様…んっ…ふぅっ……」
唇が重なり合い、何度も吸われる。唇が痺れて感覚がなくなるほどに。その間にも冷たい貴方の指先が私の身体を滑ってゆく。零れ落ちる血の後を辿るように、胸の谷間から臍の窪み…そして……。
「…ひぁっ!………」
茂みを掻き分け指が強引に中へと入ってくる。まだ濡れる前の乾いた器官は、遠慮無しに入って来た侵入物を拒んだ。けれども指は狭まる入り口を掻き分け、中へ中へと入ってくる。そのたびに媚肉が引き裂かれるような感覚に襲われた。
「…ひゃっ…ぁぁ…あ…っつ……ふ……」
くちゃりと中を掻き乱す指。肉が擦れ合う感覚。それが何時しか拒んでいた指を受け入れ、じわりと蜜を滴らせた。とろりとした蜜が貴方の指を、濡らす。
「…はぁぁっ…あぁぁ…やぁっ…ん……」
「―――イヤなのか?こんなにも私の指を濡らしておいて」
「…ち、違います…ユリウス様…私は…ぁぁ……」
零れる蜜と蠢く媚肉。指を、刺激を、求めて淫らに。淫らに貴方を求めるソコが。ソコがじわりと、熱い。―――あつ、い。


身も心も、全て。全て血の海に埋もれて。
そして溶けてなくなってしまいたい。貴方の。
貴方の作るこの波の中に溺れてしまいたい。
そうすれば僅かに残るこの罪悪感も消えてなくなるでしょう?


愛している。貴方だけを、愛している。
私のただ独りの人。私のただ独り愛する人。
貴方のためならば何でも出来る。
貴方のためならばどんな事でも出来る。

罪も、贖いも、全て。

何でもする。どんな事でも出来る。
私の血の、最期の一滴まで、全て。
全て貴方だけのもの。私の全ては。


――――魂までも…ユリウス様…貴方のものです……



「あああんっ!!!」



一番感じる個所をその爪で抉られて、いとも簡単に私は達した。貴方の指先に零れるのは、私が女として零す愛液だけだった。


「…イシュタル…お前は何よりも『紅』が似合う」
「…ああんっ…ぁぁ……」
「――私の『紅』が」


しあわせだと、想う。この瞬間を何よりもしあわせだと。
胸に宿る罪も、抉られる痛みも。この瞬間の前では。
今、この瞬間の前では。

―――私には全てが…無意味になる……


ずぶりと音とともに、貴方が私の中へと入ってくる。焼けるほどに熱い貴方が、内側から私を溶かしてゆく。
「ああああっ!!」
ぐちゅぐちゅと接合部分が発する濡れた音も。擦れ合う肉も。抉られる痛みも、全て。全て貴方が私に与えてくれるものならば。その全てが、貴方が私を支配するものならば。
「…ああああっ…あああんっ!!……」
溺れて、貴方に溺れて。愛という名の逃れられない糸に全てを絡め取られ。そしてゆっくりと身体を切り刻まれて。食い込む糸が、私の身体を無数に切り刻んで。

でも、しあわせ。それが、しあわせ。

「…あああっ…ああ…もぉ……」
内側から溶かして。私を溶かして。
「…もぉ…私…ユリウス…様…私…あぁぁっ……」
溶かしてぐちゃぐちゃにして。そして。
「――――ああああああっ!!!!」
全てを『無』にして。



貴方のものに。全てを貴方のものに。
そうすれば痛みも苦しさも何もかも。
何もかも消えて、そしてなくなるから。

―――だから私を…空っぽにして………


貴方の血で、私を埋めて。
空っぽになった私を、私を埋めて。
そうしたらもう。私は。


私はただ貴方のためだけに存在する人形になれるから。



「…ユリウス様……」
愛しています、貴方だけ。貴方だけを。
「――イシュタル……」
だから私を、支配して。全て、支配して。
「…愛しています…貴方だけを……」



そうしてこの胸の罪業を…少しでも…忘れさせてください……