―――貴方とともに生きてゆきたい、と。
真っ直ぐな瞳で、私を見つめてくれたから。
反らされる事のない視線で。
ひたむきなほど真っ直ぐな瞳で見つめてくれたから。
私は迷う事無く、貴方の手を取った。
好きだから一緒にいたい。好きだから一緒に生きていきたい。
そう素直に思える事が。そう思える事が、大事だから。
それが何よりも大切だと、私は気がついたから。
「フィン、好き」
「…ラケシス様…」
「貴方が好き。一番好き」
その言葉を言うのに私はどれだけ遠回りをしてしまったのだろうか?
どれだけ迷って、さ迷ってそして。そしてやっと辿り付けた。
―――貴方の元へと、辿り付けた。
「僕も、好きです…愛しています」
こんなに簡単な事。こんなにも単純で、でもかけがえのないもの。
貴方が好き。貴方だけを愛している。それは何よりも、大切なもの。
「ふたりで、生きていきましょう」
伸ばされた手に指を絡め、そして微笑んだ。
その先に在るものがどんなモノだとしても。
どんな困難があろうとも。
ふたりでいる限り未来は光を作るだろう。
光ある、未来。ふたりでいれば。
この指先が繋がってれば、もう何も。
何も怖くないって、気が付いたから。
「…随分、遠回りしちゃったね…フィン……」
微笑った。強がることもなく、自然に。自然に自分の笑みが零れてきた。私貴方の前でならこんな風に、微笑う事が…出来るの…。
「…ラケシス様……」
何時も緊張していた。強くならねばと、気持ちを張り詰めていた。弱みを…弱い所を見せてはいけないと、前だけを見て。前だけを、見つめて。
―――でも本当は…私はずっと……
「これだけを言うのに…随分と遠回り…したね……」
心細かった。淋しかった、哀しかった。兄様を失ってから、私は。私はひたすらに強くならねばとそれだけを必死に。必死にそれだけを思って生きてきたけれど。
でもこころは、磨り減っていって。こころは、少しづつ疲れていって。私は何時しか意識しなければ微笑う事が出来なくなっていた。
「…遠回り、しちゃったね……」
本当は誰かに頼りたかった。誰かに助けて欲しかった。強くあらねばと言う想いに押し潰されそうになっていた私に、誰か気付いて欲しかった。
「―――そう、ですね……」
でも貴方はずっと。ずっと私を見つめていてくれた。そして。そしてその手を、差し出してくれたから。
貴方だけが本当の私のこころに、気付いてくれたから。
ずっと貴方を、見ていました。
華のように華麗に戦場を駆け巡り。
誰より先頭に立ち、戦う貴女を。
それは何よりも綺麗で、何よりも哀しい。
綺麗であればあるほどに、貴女が。
貴女が何よりも僕には哀しく見えた。
――――こんなにも貴女は…傷ついているのに……
どうしたら、貴女を護れるのか?
どうしたら、貴女を癒せるのか?
…ずっと、それだけを僕は…考えていた……
「…フィン…貴方の手…傷だらけで、でも優しい手……」
「…ラケシス様……」
「…誰よりも、優しい手…小さな哀しみを決して見逃さない貴方…」
「…私はそんな貴方を好きな事を…何よりも誇りに思います……」
笑っている。私は今、微笑っている。
心の底から、作り物ではない笑み。
貴方への想いから生まれる笑み。これが。
これが貴方が私にくれたもの。
―――貴方だけが私に、与えてくれたもの。
手を、伸ばして。そして指を絡めて。
そして。そしてそっと。そっと抱き寄せられて。
抱きしめられる、身体。伝わるぬくもり。
あたたかさが、やさしさが、そっと。
そっと染み込んでくる。貴方だけのぬくもりが、そっと。
そっと私を包みこんでくれる。
見つめあった。瞳を見つめあって、そしてキスをした。
「…好きよ…フィン…貴方だけが好き…だから…」
「…ラケシス様…僕も……」
「…だからずっと…そばにいてね……」
「―――僕の心は、ずっと」
「…ずっと貴方の心の中に……」
見つめあって、そして。
そしてふたりで、微笑った。
口許から自然に零れる笑み。
自然と零れてくるもの。
それが、大事。それが何よりも、大切。
「―――ふたりで…生きて行こう…ラケシス……」