―――最近妙な噂をメイドから耳にする事になった。
「なんかエーディン様とアイラ様って物凄く仲良くない?」
レックスとアゼルが偶然メイド達の井戸端会議に出くわした時に、そんな事を耳にした。
「なんか以外よねー。エーディン様とアイラ様ってタイプ全然違うしぃ」
「でもお二人とも綺麗だから並ぶだけで…ああんっうっとり〜」
わいわいと言いあっているメイド達にレックスとアゼルは顔を見合わせ、何とも言えない表情をする。仲良き事は良いことである。ましてアゼルはエーディンに、レックスはアイラに思いを寄せているとあっては、二人が仲が良ければ誘い出すのにも色々協力が出来るのだから。が、しかし。
「この間なんてねっ、エーディン様の膝枕でアイラ様が眠られていたのよ」
「きゃー私なんて仲良く公園でアイスを食べあいっこしているのを見たわーっ!」
「そんなの甘いわよっ!!私なんてエーディン様がならず者に囲まれている時に颯爽と現れ助け出したアイラ様を見たわ…ああ、ステキ過ぎるわ…アイラ様……」
最後のセリフを言ったメイドの顔はすっかりと陶酔しきってて、危ないものを感じさせる。と言うかアイラは女ではあるが異常に同性にモテるのだ。颯爽と長い髪を靡かせ、自分よりも大きな男たちをその剣でなぎ倒す姿は、女たちの憧れでもあった。現に男であるレックスですら彼女には歯が立たない。惚れている相手に勝てない事ほど情けないものはないのだが…しかしアイラは強かった。
「もうっ羨ましいっ!私もエーディン様くらいお綺麗だったら…アイラ様にもお相手してもらえるかしら…」
「何言ってるのよ、無理よっ無理無理っ!アイラ様もエーディン様も所詮私達には憧れの存在でしかないのだから」
このまま聴いていても延々とこの話が語られるのだろうと悟った二人はその場をそそくさと去る。しかし何か胸につっかえるモノが消えることはなかった。
「…なぁ、アゼル……」
それに耐えきれずにレックスはアゼルに向き合うとその名を呼んだ。その顔は何とも言えない表情をしている。無理もない、今の内容はアゼルにとっても消化しきれないものだったから。
「今のどー思う?」
「…どう思うって…僕に聞かれても…その…」
「まあメイド達の勝手な妄想だと思うけどな」
「そ、そうだよね…ただ単に仲がいいだけだよね」
そう言いながらも妙に納得できない二人だった。こう歯にモノが挟まったようなそんな感覚。どう心に折り合いをつけようか二人が悩んでいる、その時だった。
「ねえ、アイラ。貴女にこれ似合うと思うのよ」
レックスとアゼルの視界には、まさしく『噂』のふたりがそこにいたのだった。イアリングを手に持ったエーディンがそれをアイラに見せている。そしてその白い指先がアイラの耳たぶに触れると、そのままイアリングを嵌めたのだ。
「…ありがとう…エーディン、大事にするよ」
会話だけ聞いていればただの仲のいい二人にしか見えなかった。けれども。けれどもそれがビジュアルが付いて来ると何処か違うものへと感じる。特に何をしているという訳ではない。ただ。ただ見つめあって微笑いあっているだけだ。が、しかし。何故かそこに他人の入り込む隙間が、ない。
「ふふ、やっぱり似合っているわ。アイラの漆黒の髪にこの色は映えると思ったのよ」
うっとりとしたような瞳でアイラを見つめ、そのしなやかな指先が髪に触れる。そしてそのまま指先に絡めて、何度も撫でた。
「…エーディン……」
そんな彼女に戸惑いながらも微笑むアイラ。そしてゆっくりとその手がアイラの背中に廻ると、そのまま自分へと引き寄せる。そんなエーディンの胸に顔を埋めるアイラの表情は照れながらも何処か嬉しそうで。そして。
「…綺麗よ、アイラ…誰よりも……」
抱きしめるエーディンの顔を見上げてくるアイラの唇を、そっと。そっと彼女は、塞いだ―――。
『わあああああああっ!!!!』
それは声にならない叫びだった。心の中で絶叫した二人は首を何度も左右に振りながら、耐えきれずにその場を立ち去る。そして今起こった現実を何とか頭から消そうと必死になって、駆けずり回ってみた。しかしそれは何の意味もないことで。
「…い、今の…今のは…レックス…ねぇ……」
「あ、ほら…別にキスなんて挨拶みたいなものだし…」
「……僕は挨拶でもエーディンとキスなんてしたことないし……」
「って俺もアイラとはねーぞっ!じゃなくて」
「じゃあ今のはっ今のは何々っ?!」
「深く考えるな…深く…なぁ…アゼル……」
そう言いながら必死に目の前の現実を反らそうとする二人だったが…けれどもそれに追い討ちをかけるような出来事が続く事になるのは当事者すらも分からなかった事だった。
見掛けよりもずっと華奢なアイラを抱きしめながら、エーディンはひとつ微笑った。それは端から見たら天使の笑みにしか見えなかっただろう。
エーディンは一部始終をしっかりとこの目でみていた。レックスとアゼルが自分達を見ていた事を。だからわざと。わざとこうして見せ付けてみてやったりした。
「…エーディン……」
甘えるような声で自分を呼ぶ彼女をもう一度そっと抱きしめる。大事な彼女を誰にも渡すつもりはない。レックスがアイラに好意があるのも知っていたし、アゼルが自分を好きなのを知っていた。だから。だから同時に玉砕させるのはまさしくグットタイミングだったのだ。けれども。けれどもまだ。まだ、足りない。ふたりに思いを寄せる男たちは山ほどいるのだから。それならば……。
「…ふふ、アイラ…甘えん坊ね……」
「…お前がそうさせたんだ……」
「そうね、甘えて。私にはいっぱい甘えて。大好きよ」
家族を亡くしたアイラには何よりもぬくもりが欲しかった。シャナンを護るためだけに、全てを捨ててきた彼女。他人のぬくもりも、甘えも、全て捨ててきた彼女。本当は何よりもそれを求めているのに。
―――求めているから…幾らでも与えてやりたいと…思うから……
アイラの柔らかい身体を抱きしめ、エーディンは彼女の額にひとつ口付ける。そこから広がる甘さが二人をそっと包み込む。このまま。このままずっと、二人でいたいと。
「…大好きよ…アイラ……」
誰よりも愛しい彼女を、自分だけのものにしたい。自分だけのものに。その為ならばエーディンは何でも出来ると、思った。
それは食事の時に突然起きた。何時ものように皆で集まって、何気ない会話と美味しい料理。それが一日の何よりもの楽しみだった。そんな楽しい時間に突然エーディンは立ち上がって、言って退けたのだ。
「アイラと私はお付き合いしています。なので殿方の皆様諦めてくださいね」
それもあの天使のような笑みを浮かべながら。にこにこと微笑いながら、そう言ったのだ。その途端楽しかったはずの時間が一気に凍りつく。圧倒的に男性の多いこの軍では仕方ないことだった。喜んだり楽しんだりしたのは一部のラヴラヴ新婚カップルと、女性達と…そしてそこに奉仕をしていたメイド達だけで。更にアゼルなんかはさっき心でしか叫べなかった悲鳴を、今この場で上げたりなんかしてしまっている。それは一層憐れだったが、恋人宣言をしてのけ満足しきってるエーディンには届くことはなかった。それどころか困ったような嬉しいようなどうしていいのか分からないアイラの傍に立つと、止めとばかりに皆の前でキスしてしまう始末だった。これには、その場にいた男たち全員が…撃沈、した。
「…お前と言う奴は……」
灰になった男たちを余所に、エーディンはアイラとともに浴室へと連れ立つ。他の女性陣は気を使ってふたりきりにしてくれた。
「ふふふ、だってアイラの事誰にも渡したくなかったんですもの」
ふたりで向き合いながら身体を洗いあって、こうして広い湯船にふたりで浸かる。ほんのりと火照ったアイラの白い肌が朱に染まり綺麗だった。
「…変だとは思っていたが…こんな事をするとは……」
その肌に触れたくてエーディンは彼女に近づくと、そのまま抱き寄せた。湯船の中でふたりの柔らかい肌が触れ合う。
「何が変だと、思ったの?」
「…お前があんな…人の通りそうな場所で抱きしめたり…あっ……」
エーディンの唇がアイラの耳たぶをそっと噛む。そのまま舌を耳の窪みに忍ばせて、何度も行き来させた。その感覚にアイラの瞼がピクリと震える。
「…キス…したり…あんっ……」
耳を弄っていた舌がゆっくりと頬に滑り鼻筋に滑り、そのままアイラの唇を塞いだ。舌で唇を辿り歯列を抉じ開け、中へと忍ばせる。一瞬逃げ惑うアイラの舌を絡め取ると、そのままきつく吸い上げた。
「…んんっ…ふぅっ…ん……」
くちゅくちゅと舌が絡み合う濡れた音が浴室に響く。それでもふたりは唇を貪り合うのを止められなかった。反響する音が逆に欲情を煽り、音がふたりを濡れさせてゆく。何時しか湯船の下では指を絡めあい、舌とともに縺れ合わせていた。
「…んんっ…はぁっん……」
長い口付けからやっとの事で開放される。長いため息とともに、ふたりの唇を一本の唾液の線が結んだ。それがぽたりとアイラの口許に零れ、そのまま湯船にひとつ溶けていった。
「…エーディン……」
身体に火の付いたアイラは欲望を止められなかった。潤んだ瞳で自分の恋人を見上げる。そんな彼女に答えるようにエーディンは絡めていた指を解いて、それを胸の膨らみへと移動させた。
「――ああんっ!!」
胸を揉んだ瞬間、水面がぴちゃんっと跳ねた。その水滴がアイラの顔に掛かり、ひどく彼女を扇情的に見せる。それをしばらくエーディンは堪能すると、再び胸の果実へと指を絡めた。
手に収まりきらない程の膨らみを指で揉みながら、ぷくりと立ち上がった乳首を転がしてやる。それだけでびくんびくんと敏感な彼女の身体は跳ねた。
「…あぁっ…ああんっ…エーディ…ンっ…はぁぁっ……」
強く揉むたびに恍惚に喘ぐアイラを見ているうちにエーディンの身体も火照ってゆく。現に彼女の蕾がジンっと痺れているのが自分でも感じられた。
「…アイラ…私のも…ね……」
胸を揉みながら耳元で囁くエーディンの言葉にアイラはこくりと頷くと、快楽で縺れ始めた指先をエーディンの胸へと持ってゆく。そしてそのまま柔らかい乳房を摘んだ。
「…ああんっ…アイラ…イイ…イイ…もっと…強く……」
「…はぁぁっ…あ…エーディ…ン…ああ…あんっ……」
互いに胸をもみ合いながら、吐息が甘く乱れてゆく。耐えきれずにそのまま身体を擦り合わせた。火照った白い身体が水の中で揺れる。胸を弄っていた手が何時しかふたりのそれぞれの蕾に辿りつき、そのまま指をずぷりと差し入れた。
「ひゃあんっ!!」
その刺激にアイラの身体が弓なりに仰け反る。けれどもエーディンの指は止まる事無く、奥へ奥へと導かれてゆく。湯船ではない液体で濡れたその蕾へと。
「…あぁぁんっ…あんっあんっ!……」
そしてアイラもその刺激に必死に耐えながら、エーディンの花びらへ指を埋めてゆく。きついエーディンのそこはぎゅっとアイラの指を締め付けて離さなかった。その指を締め付ける刺激にすら、アイラの蕾はぐちゃぐちゃと濡れた。
「…あぁ…エーディン…もぉ…もぉ…私は…ああっ……」
「…アイラ…私も…もう…もうっ…あぁぁ……」
浴室に響くのは悲鳴のような甘い声と、濡れた音だけ。水面から跳ねる水の音と、互いの花びらから零れる愛液の滴り落ちる音だけ。そして。そして……
「――――あああああっ!!!」
「ああああああんっ!!!」
背中が弓なりに仰け反り、突き出した胸が揺れた瞬間。
―――ふたりは、同時に達した……。
「そうそう、この間聞いちゃったのよーっ!」
あの件以来立ち直れないレックスとアゼルが歩いてた時、またしてもメイド達の会話が耳に飛び込んできた。回れ右をして立ち去ろうとしたかったが、その気力すらふたりには残されていなかった。何故ならば。
「お風呂でふたりの声が…あれはもう…ああんっみたいな…」
「流石だわ、恋人宣言しただけあって…お風呂でなんて…大胆よねー、お二人とも」
「ええ、ホント。でも他の男の方たちって何やってたのかしら」
「そうよね〜ふたりを狙っていた方たくさんいたのに…こんな事になるなんて、やっぱり」
「ええ、やっぱり」
「女同士だからって警戒してなかった殿方達の敗因よねー」
同時にハモるように言ったメイドの言葉に、敗因を突きつけられた殿方達は…ただ。ただその場にがっくりと肩を落とすしかなかったのだった。