声を上げて、夢中になって手を伸ばした。手を、伸ばした。この手が届くようにと、貴方に届くようにと。
どちらかともなく手を伸ばしそっと指を絡めた。そこから伝わるぬくもりが優しくて、ただ優しくて…子供みたいに泣きたくなった。
「…エーディン様……」
少しだけ戸惑いながら呼ばれる名前にそっと顔を上げれば、何よりも優しい瞳が私を映しだした。それだけで、そっと。そっと、込み上げてくるものがあって。
「…ミデェール…ありがとう……」
貴方の瞳に映る私は微笑っていた。それはまるで少女のような笑みだったのがひどく可笑しかった。そう私はずっとこんな風に少女のように貴方に恋をしていた。
「やっとこうして貴方の手を繋げる事が出来ました。やっとこうして」
絡めあった手のひらをそっと頬に重ねる。一瞬だけぴくりと反応を寄こしたその不器用さが愛しくなって、瞼を閉じてそのぬくもりを感じた。暖かいそのぬくもりを。
「――――私は貴方の手に…届きました……」
自然と零れてくる雫を止める事が出来なかった。もう私は止める事が出来なかった。
一生懸命に伸ばしたのに、その手を掴む事が出来なくて。あんなに懸命に伸ばしたのに、掴んだものは宙だけで。あんなに懸命にこの手を伸ばしたのに……
怖くはなかった。貴方の事を考えている間は、怖くはないと思っていた。どんな時でもどんな瞬間でも、貴方が私の心の中に在る限り大丈夫だと思った。
「泣かないでください…エーティン様…私は貴女に泣かれるとどうしていいのか分からなくなります……」
けれども、淋しかった。貴方のいない世界はとても淋しくて。貴方が私のそばにいない事が何よりも。
「…ごめんなさい…ミデェール…私…嬉しくて…あなたがこうしてそばにいてくれる事が何よりも嬉しくて……」
ガンドルフにさらわれた時も、冷たい牢屋に閉じ込められた時も、デューとともに逃げ出した時も。怖くなんてなかった、けれども…淋しかった。
「…エーディン様……」
でも、もう淋しくはない。だって届いたから。伸ばした手のひらは結ばれたから。こうしてきつく、結ばれたから。
「…もう泣きませんから…だからひとつだけ私の我が儘を聴いてくれますか?……」
結ばれて同じ夢を見て、そして。そして繋がった心が今ここに在る。今このぬくもりの中に。だから。
「…エーディン…と呼んで…もう私達は…他人では…ないのだから……」
だから、離さないで。もう二度とこの手を離さないで。もう二度と、私を一人にしないで…。
少しだけ戸惑いながら、けれども視線を重ねて微笑いあった。零れてくるしあわせに、溢れてくる暖かさに。そしてもう一度きつく指を絡めて、そっと。そっと唇を重ね合った。
白いシーツの上に広がる金色の波を、何よりも綺麗なもののように思えたから少しだけミデェールは触れるのを躊躇う。けれどもそれ以上に愛しさが込み上げて来たから、そっと触れた。その金色の髪に。
「…ミデェ…んっ……」
触れるだけの唇は次第に深いものへと変化してゆく。互いに薄く開いた唇に舌を忍び込ませ、生き物のように絡めあった。
「…ふ、…んっ…は…ぁぁ……」
名残惜しげに離れた唇から零れた溜め息は甘く何処か淫らだった。その声に誘われるようにもう一度唇を重ね、ゆっくりと衣服の上から胸のふくらみに触れた。
「…んっ!…ぁっ…んんっ……」
触れた瞬間腕の中の身体がびくんっと震えて、反射的にミデェールは手を離してしまう。けれどもそんな彼の手に自らの手を重ねて、もう一度エーディンは自らの胸の上に重ねさせた。
「…触って…ミデェール…貴方に…触って…欲しいの……」
「…エーディン……」
「…ね、…触っ…あっ…あぁんっ……」
その手に導かれるようにミデェールはエーディンの胸の膨らみを揉んだ。外側の柔らかい部分を手のひらで包み込み、服の上からでも分かるぷくりと立ち上がった乳首を指の腹で転がす。そのたびに身体が小刻みに揺れ、その振動が手のひらに伝わった。
「…はぁっ…ぁぁ…ミデェールっ…直に……」
「…エーディン……」
「…直に…触って…っ…ああんっ!」
エーディンの衣服の裾をまくり上げ曝け出された乳房にミデェールの手が触れる。雪のように白い肌がミデェールの手によってさあっと朱に染まってゆく。その様子はどんなものよりも綺麗でそして淫らに見えた。
「…エーディン…綺麗です…凄く……」
「…ミデェール…ぁぁっ…あんっ!ああんっ!」
一方の胸を揉みし抱きながらもう一方を口に含んだ。立ちあがった胸の果実を、音を立てながら吸いつけば、シーツの上の黄金の波が揺れる。絡みつくように淫らに、揺れる。
「…あぁっ…あぁんっ…ミデェールっ…やぁんっ……」
手を触れる事すら許されない筈の人だった。触れる事すら許されない筈の人。そんな何よりも高貴で穢れなき聖女を、今。今この手で穢している。淫らな『女』という生き物へと変化させている。
「…エーディン…エーディン…んっ……」
「…んんっ…んんんっ……」
それはひどく罪深く、それはひどく甘美なものだった。穢れなき乙女をこの手で汚す事。けれどもこうする事を望んだのは、願ったのは他でもない目の前の相手だったから。
互いの唇を貪りながら、何度も何度も胸の膨らみを揉んだ。何時しかこの手に力がこもり我を忘れて鷲掴みに強く握るほどに。けれどもそんな自分に相手は身体を押し付けて答えてくれた。
「…あっ!…くふっ…ぁぁっ……」
脚を開かせ茂みを掻き分け、一番奥深い場所へと指を忍ばせた。そこは既にじっとりと濡れて、異物を迎え入れた。くちゅくちゅと音を立てながら中を掻き回せば、両の脚ががくがくと震えるのが分かった。
「…やぁんっ…ぁぁ…んっ…んんんっ…ふぅ…んっ……」
喘ぐたびに紅い舌が淫らな生き物のように蠢いた。それに吸い寄せられるようにミデェールは自らの舌を伸ばして絡め取る。茂みに埋め込んだ指を動かしながら。
「…んんんっ…んんんっ…んんんん…あっ……」
飲みきれない唾液がシーツに零れた。その透明な液体を舌で辿りながらもう一度髪を撫でた。それは先ほど撫でた感触とは違いしっとりと汗に濡れていた。金色の波は、そうして金色の海になる。
「…ミデェール…もう…私は大丈夫です…だから……」
「―――っ!」
白くて細いその指先がミデェールのソレに絡まる。それはもう既に充分な硬度を持ち、どくどくと熱く脈を打っていた。
「…だから…コレを……」
絡みつく指先は清らかなのに淫らだった。何よりも綺麗なのに淫靡だった。その動きに翻弄され、ミデェールのソレはより硬く巨きくなってゆく。
「…私の……なか…に……」
最期の言葉の語尾は消え入りそうなほどで。大胆とも思える行動の中に見える恥じらいに、ミデェールは気がついた。こうして自分から積極的になってくれる事で、自分の心の中にある罪悪感を消してくれている事に。そう主君である姫君とただの一介の騎士でしかない自分が結ばれることに対して。それは何よりも。なに、よりも。
「…はい、…エーディン…貴女は私の…私の妻です……」
もう迷わない。もう戸惑わない。今この腕の中にいる人は聖女でも主君でもない。ただ愛する人だ。自分の愛する人、そしてただひとりの妻だ。
「……はい…私は…私は…貴方の…妻です……」
何よりも綺麗な雫にひとつ唇を落として、もう一度指を絡めた。二度と離さないようにきつく絡めて。絡めて、そして。そしてゆっくりと茂みの中へ自らの楔を挿れた。
仰け反る喉元に唇を落とした。少しでも痛みがやわらげるようにと。
「――――くぅ!…ふっ…ああああっ!!」
そのままきつく閉じられた瞼に唇を移動させ、金色の海を撫でる。
「…大丈夫ですか?…エーディン……」
汗ばむ額を撫で愛しげに唇を落とせば、繋がった指に力がこもる。
「…大丈夫…大丈夫だから…だから…来て…もっと…もっと奥まで……」
そのままきつく指を繋いで、言われるままに身を進めた。奥まで、もっと奥まで。
「――――っ!!ああっ!あああああっ!!!」
弾けるような音がしたと思ったら、熱い液体が身体の中に注がれた。どくどくと熱い液体が。その瞬間、涙が零れた。痛みでも快楽でもない、もっと別の。別の意味を持つ涙が、零れ落ちた。
欲望を吐き出しても、離れなかった。繋がったまま、キスをした。指を絡めたまま、キスをした。そうして全てが繋がり合って、ひとつになった。ひとつに、なる。
「…もう二度と…私を離さないでくださいね……」
「はい、離しません。私はもう二度と貴女から離れません。私は永遠に―――」
「――――貴女に従う騎士で、貴女を愛す男で…貴女を護る夫です……」
見つめあって、微笑った。微笑んで、もう一度唇を重ねる。何度も何度も繰り返して、そして。そして眠る。指を絡めあったまま、もう二度と離さないようにと。そっと絡めあったまま。
―――――永遠に離れないようにと…離さないようにと………