―――レヴィン様…貴方の想うままに、生きてくださいね……
碧色の長い髪に顔を埋めて眠ったのは、何時だっただろうか?
ついこの間のような気もするし、遠い昔だったような気もする。
そしてそれが『フォルセティ』としての記憶ではなく『レヴィン』としての記憶の。
最期の、俺としての記憶だったのかもしれない。
何時も控えめに、微笑っていた。俺の一歩後ろを歩きながら、ずっと。ずっとそうやってお前は俺の背中を護っていてくれたんだな…と。
…今になって気付くのは…遅すぎたか?フュリー……
何時もお前の髪からは、シレジアの蒼い空の匂いがした。その髪に顔を埋めて、そして。そしてそっと口付ける事が、何よりも俺にとっての安らげる時間だった。
「…あ…レヴィン様……」
こうして夫婦となって身体を重ねても、お前は何時までも『レヴィン様』だった。そんな不器用な所が何よりも愛しく、そして愛していた。
「フュリー」
名前を呼べばお前の瞳は俺を捕らえる。その碧の瞳に俺だけが映っているのを確認して、そのままそっと唇を塞いだ。始めは触れるだけのキス。そしてゆっくりと啄ばみながら、次第に舌を絡めてゆく。
「…んっ…んん……」
細い腕が背中に廻る。空を駆け巡りペガサスを操るお前の腕は、それでも驚くほどに華奢だった。こんな細い腕で俺を必死に護ろうとしていてくれた事が。それが俺にとって切なく、そして嬉しかった。
「…はぁっ…レヴィン…様…あぁ…」
何度も唇を重ねながら、俺の手はお前の胸へと滑る。手に余るほどの大きさが、俺を喜ばせた。揉めば弾かれる弾力のある胸。それを少し強めに握りながら、尖った乳首を指で捏ねた。
「…ああんっ…あん……」
甘い声を上げる時も、お前は決して恥じらいを忘れない。何時も初めて抱かれるように頬を染めながら、それでも声を上げる。最初控えめに…けれども次第に快楽に飲まれてゆけば、本能のままに声を上げる。そこまで辿り着いて初めて。初めて俺はお前を自分のものだと実感した。
「…あぁ…やぁんっ…」
空いている方の乳房を口に含み、舌で胸の果実を転がしてやる。ぷくりと立ちあがったそれにかりりと歯を立てれば、お前はイヤイヤと言うように首を振った。けれども。それでも背中に廻した腕は、解かれる事はなかったが。
「…あぁ…ダメ…です…ソコは…あぁんっ……」
「フュリーは本当にココが弱いな」
「…あ…あぁん…言わないで…くださっ…はふ……」
乳首に強い刺激を与えられるのが、お前の弱点だった。ココを乱暴なくらいに弄ってやると、お前は耐えきれない。その乱れる姿が堪らなくてつい虐めて、後で拗ねられるのを分かっていても。
「…はぁぁぁっ…あぁ…んっ……」
唾液でてらてらと光るまでたっぷりとむしゃぶりついて、やっと乳首を開放してやった。そうしてお前を見下ろすと、熱に浮かされたような表情のまま俺を見上げている。その顔がひどく色っぽく、より一層俺の欲望に火を付けた。このままずっと。ずっと自分のものだけにしたいと言う欲望。俺だけのものだと言う満足感。そして。そして込み上げてくる激しいまでの愛しさが俺を支配して。そして。
「…レヴィンさ…んっ……」
名前を最期まで呼ばれる前に、俺は思いの丈を込めてその唇を塞いだ。
『貴方の、望むままに生きてください』
お前は、綺麗だ。ずっと、綺麗だ。
きっと年老い、皺だらけになっても。
お前のそのこころの清らかさと、そして。
そして優しさは色あせる事はない。
誰よりもお前は、綺麗だ。
ただひとつ俺が俺として護りたかった花。
戦場に置き忘れたように咲く小さな白い花。
それがお前、だから。
花びらに口付けて、そしてずっと。ずっと慈しみたかった。
「ああんっ!」
脚を限界まで広げさせ、花びらに舌を忍ばせた。ソコはすでにじわりと湿っていて、ひくんひくんと切なげに震えていた。
「…あぁ…んっ…あんっあんっ……」
奥へ奥へと掻き分けながら、甘い蜜を垂らす花びらを征服してゆく。剥き出しになったクリトリスに辿り着くと、そのまま軽く噛んだ。
「―――ああっ!」
電流が走ったかのようにピクンっとお前の身体が跳ねる。それを合図に俺は執拗にソコを攻め立てた。びくんびくんと波打つ身体を押さえながら。
「…あぁん…あ…レヴィン…さ…ま…もぉ……」
とろりと舌に感じる蜜を味わいながら、俺はゆっくりとソコから唇を離した。そしてお前の上に覆い被さると、そのまま腰を抱いた。
「もう我慢、出来ないか?」
「…そんな事…私の口から…言わせないで…ください……」
目尻にぽろりと快楽の涙を零しながら、それでも少しだけ拗ねながらお前は言った。愛しい、と想った。そんなお前がどうしようもなく愛しいと。
―――こんなにも、大切なものが存在するなんて…分からなかった……
「聴きたいお前の口から」
「…レヴィン…様…」
「駄目か?」
こくりと、息をひとつ飲む音がした。そして。そしてぷいっと俺から視線を外して。頬をかぁぁっと朱に染めながら。お前は。
「………欲しい……で…す………」
俺にしか聴こえる事のない、小さな声でそう言った。
風の中で、微笑うお前。
全てを悟り、そして。
そして微笑いながら俺を見送るお前。
その瞳だけが泣いていた。
泣けない瞳で、泣いていた。
分かっていたのだろう。これが永遠の別れだと。
分かっていたのだろう。もう今生で逢う事はないと言う事を。
それでもお前は何時も。
何時も俺を笑顔で。
笑顔で、見送る。
『いってらっしゃい』と。
さよならとは決して言わないお前が、何よりも切なかった。
「―――ああああっ!!!」
腰を抱いてそのままぐいっと引き寄せた。俺自身がお前の中に埋め込まれてゆく。ずぷずぷと濡れた音を立てながら。
「…あああっ…あああんっ…あぁ……」
擦れ合う肉の感触が。触れ合う一番感じる場所が。全ての意識を飲み込んで、ただひたすらに快楽だけが支配する世界を形成する。
「…フュリー…フュリー……」
「…ああぁ…ぁぁぁ…レヴィン…さ…ま…あぁぁっ!!」
爪を、立てられた。背中をばりりと引き裂く音がする。けれどももうそれすらも気にならなかった。ただ追い続ける快感と、そして。そして愛していると言う想いだけが。
―――ずっとこうして、繋がっていたら、きっと。きっと全てを忘れる事が出来るのに…
「…愛して、いるよ……」
「ああっ…はぁぁ…私も…私も…です…あぁぁぁ……」
ぐいっと腰を引き付け、子宮に届くように深く抉った。ぎゅっと自身を媚肉に締め付けられ、俺は耐えきれずに白濁した想いをその中に吐き出した。そして。
「ああああああっ!!!」
そして、お前も。喉を仰け反らせて、喘いだ……。
本当はずっと一緒にいたかった。
死が二人を分かつまで、ずっと。
ずっとお前とともにいたかった。
ずっとその髪で眠っていたかった。
けれどもそれ以上に俺に課せられた運命は。
そしてそれ以上に俺を分かっていたお前。
『いってらっしゃい、レヴィン様』
それは少女の頃から変わらずに。子供の頃から変わらずに。
お前が俺に告げていた言葉。お前が俺に伝えていた言葉。
―――お前は俺が帰ってくると、信じていたから……
何時か、還ろう。お前の元へ還ろう。
こことは違う場所で。
俺の魂が地上から開放された時。
俺は必ず、お前のもとへと辿り着くから。
…それまで、フュリー…お前なら待っていてくれるよな……