LAST FLOWER



―――こころに、優しい花束を。

ふたりで生きてゆくと決めた時から。
ふたりで生きてゆくんだって、決めたその時から。
―――僕等は、誓った。
しあわせになろうと。しあわせになるんだ、と。
指を絡めて、僕等は誓った。


例えどんな運命がふたりを傷つけても、僕等は護るべきものがあるのだから。


「―――アゼル、あたしたち」
君の瞳は何時からこんんなも強くなったのでろうか?何時も何処か不安定だった瞳。この軍に来て、君は裏切り者の子供だった。それでも。それでも明るく振る舞い、そして必死に哀しみを隠してきた君。その哀しみは君と向き合って、初めて気付いたものだった。
…何処か不安定な君の瞳は、その哀しみから来ているものだと気付いたから……
「逃げないよね」
でも今僕の目の前にいる君は、とても強い瞳をしている。真っ直ぐでそして。そして全てのものを受け入れ、自分の全てを見つめている瞳。
「逃げないよ、ティルテュ。この先どうなっても」
その瞳を受けとめる僕は強くなれただろうか?君が強くなった分だけ僕も。僕も同じ位置に立てるくらいに、強くなれたのだろうか?
「―――僕は決して逃げはしない。兄からも…君からも…」
その答えは今。今僕が向き合っている君だけが、知っている。


ずっと僕は逃げてきた。兄から、重圧から。
逃げて逃げて、そして辿り着いた場所。
そこに君がいて。君は前を向いた。逃げる事を止めた。
父親から逃げていた君は、もう何処にもいない。
真っ向から向き合い、そして。そして父親と戦った。
そこには泣いていた女の子は何処にもいなくて。
一人の女性が…母親がそこにいた。

――― 子供を護る、母親が……


「…あたし…母親になったのに…誰よりも親の気持ちが分かるようになったのに…」
少しだけ震える身体を、そっと抱きしめた。僕が君に出来る事。僕が君の為に、出来る事。
「…自分の親を殺すなんて…誰よりも残酷なのかもしれない……」
君の髪を何度も撫でて、そしてひとつキスをした。優しく慈しむキスを。君の強さを一番知っているのが僕ならば、君の弱さを一番知っているのも僕だから。
「―――違うよ、ティルテュ…君が父親を殺したのは誰よりも君が母親だからだ」
「…アゼル……」
「誰よりも子供を…未来を護りたかった君の想いを僕は…僕は分かっているから」
「…うん……」
小さく君はひとつ頷いた。こんな仕草はずっと変わっていない。そんな君が何よりも愛しくて、そして大切だった。
「分かっているから、ティルテュ」
もう一度、キスをした。今度は慈しむキスではなく、君の全てを奪うような激しいキスを。


本当は君は、泣きたかったんだろう。
あの時、父親にとどめを刺した時。
崩れゆくその身体に抱きついて、そして。
そして大声で泣きたかったんだろう。
でも君は、そうはしなかった。全てを。
全てをその目で見つめ、全てを受けとめて。
真っ直ぐな瞳で、全てを見ていた。

―――そんな君だからこそ、僕は君を愛したんだ……


この腕の中にいる時だけは、君は強がらなくてもいいから。僕の腕の中にいる時は、子供になっても。母親でなくてもいいから。
「…んっ…ふ……」
唇が痺れるまでキスをした。舌を絡めて、何度も絡めて。静かな室内に濡れた音だけを響かせて。
「…ふぅっ…ん…あ……」
唇が離れて一筋の唾液が、名残惜しく二人の唇に引かれた。それを指で掬って、そのまま君の口に含ませた。
―――ぴちゃ、ぴちゃ、と。君は音を立てながら僕の指先をしゃぶる。紅い舌がひどく扇情的だった。
「…アゼ…ル……」
君は微かに潤んだ瞳で僕を見上げると、そのまま背中にぎゅっとしがみ付いた。初めて君を抱いた時から、ずっと変わらない君の癖だった。
「うん、ティルテュ…大好きだよ……」
そっと耳元で囁いて耳たぶを軽く噛んだ。その途端ぴくりと君の睫毛が揺れる。それを確認しながら、僕はしばらく耳を舌で弄っていた。
「…あっ…アゼ……」
耳たぶは噛んだままで、胸に指を這わせる。柔らかい感触が指先に伝わった。その膨らみを布越しから揉んでやれば、君の身体は小刻みに震える。
「…やぁんっ…アゼル…やだ……」
「どうして?」
「…服の上からじゃイヤ…ね、お願いだから…直接……」
「うん、分かった」
こんな子供のような我が侭が、僕にはどうしようもない程に可愛かった。何度身体を重ねても、何時までもそんな所が抜けない君が…愛しかった。
上着に手を掛けると、そのまま脱がせた。薄暗い室内にうっすらと君の白い肌が浮き上がる。艶やかで、滑らかな肌だった。
「…あぁんっ……」
直に胸に触れて、満足したのか君は一層甘い声を上げた。僕はその声をもっと聴きたくて、執拗に君の胸を攻め立てる。柔らかく揉みしだきながら、乳首を指先で転がした。ぷくりと立ち上がった胸の果実は痛い程に張り詰めていて。
「…あぁ…あん…はぁっ…あん……」
何度も指の腹で捏ね繰り回しながら、僕はその胸の谷間に顔を埋めた。微かに君の香りがする。それがより一層僕の性欲を刺激した。
「…ああんっ…あんあんっ……」
両の胸を指で鷲掴みにしながら、谷間を舌で辿る。何回か行き来させれば、ほんのりと君の身体が朱に染まってきた。
「…あっ…アゼル…ココも……」
君は自らの指で胸の突起を摘んだ。ピンク色に色付く、その器官を。
「…ココも…舐めて…ねぇ…お願い……」
僕は言われた通りに君の乳首を口に含んだ。今は君のしたいように、君の望み通りにしてあげたかった。君が求めるままに抱いてあげたかった。
「…あんっ!…はぁぁっ…あぁ……」
ちろちろと舌先で嬲りながら、口に含んで乳首を吸った。軽く歯を立ててやれば、耐えきれずに腕の中の身体が跳ねるのが分かる。ピクンッ、と。
「…あぁん…アゼル…いいよぉ…いい…あぁ……」
「ティルテュ、可愛いよ。大好き」
「…アゼ…ルぅ…ああんっ…あん……」
唇を乳首に含んだまま、指先を下腹部へと滑らせた。脚を開かせて、茂みを掻き分ければそこはじわりと濡れていた。
「…あぁんっ!…アゼル…ああ……」
指を忍ばせて、ぐりぐりと中を掻き乱す。とろりと零れる蜜の感触を楽しみながら。
「…はぁ…はぁ…あぁ……」
「ティルテュ、こっち向いて」
「…アゼ…ル……んっ……」
君の蕾を指先で犯しながら、僕はその唇を塞いだ。生き物のように蠢く舌を絡ませながら、何度も何度も口付けを繰り返す。
「…んんんっ…んん…ん――――っ!!!」
ドクンっと君の身体が跳ねて、そして。そして僕の手のひらに大量の蜜を零した。


泣けないのなら、必死で耐えているのなら。
僕が。僕が、君が泣けるように。僕の前でだけ。
僕の前では泣けるように。君が。
君が心の奥に哀しみを独りで貯めてしまわないように。

―――君の哀しみは、僕の哀しみでもあるのだから。


「――――ああああんっ!!!」
ずぷりと音を立てながら、僕自身が飲み込まれてゆく。生き物のように蠢く君の中が、僕をきつく締め付けてきた。
「…あああっ…ああああ……」
その抵抗感を掻き分け、僕は君の奥深くへと侵入する。途中でぎゅっと締め付けられ、動きが止まりそうになったけれども。
「…はあんっ…あああんっ…あぁぁぁ……」
熱くて、きつい君の中。じっとしていても僕はイキそうになる。絡み付く内壁が、僕に開放を促す。
「――ティルテュ…キツいよ……」
「…あああんっ…あぁぁ…もぉ…もぉ……」
「うん、僕もイキそうだよ」
「―――あああっ…あああんっ!!」
細い腰を掴むと僕は一気に君を貫いた。何度も挿入を繰り返し、子宮まで届くように激しく貫いて。
「…あああんっ…あんあんっ!!」
君は我を忘れて、喘ぐ。その瞳から快楽の涙を零しながら。涙を、零しながら。それを見てふと安心して、僕は。
「――――ああああああっ!!!!」
僕は君を追い詰めて、そしてその中に白い欲望を吐き出した。


君が苦しいと、僕も苦しい。
君が嬉しいと、僕も嬉しい。

君が想っているよりもずっと。ずっと僕は君を近くに感じているんだよ。


「…ティルテュ……」
行為の後の気だるい身体を持て余しながらも、僕は腕の中の身体をぎゅっと抱きしめた。そして。
「もっと泣いてもいいよ」
そして君の涙の跡にキスをしながら、多分君が一番欲しい言葉を告げた。分かるから。僕には、分かるから。
「―――涙は、綺麗なものだから……」


君が哀しいと、僕も哀しい。
君がしあわせなら、僕もしあわせ。


「…アゼ……」
「泣いて、ティルテュ。僕の前で我慢しないで」
「…ア…ゼ……」
「だって僕達は、夫婦だろう?」


僕の言葉に君は。君は声を上げて泣いた。
ずっと我慢していたものを吐き出して。
辛かった気持ちを吐き出して。でもね、ティルテュ。
僕も辛いんだよ。君が辛いと僕も辛いんだ。
だから、今はいっぱい泣いて。そして。

…そして、また微笑って欲しいから………


「…アゼル…あたし…あたし……」
「うん、ティルテュ」
「…お父さん…優しかったの…あたしにはね…優しかったの…」
「うん、分かっているよ。大丈夫」
「…本当は…平気じゃない…平気じゃないよぉ……」
「大丈夫、君の優しさは僕が…」

「僕が一番分かっているから」


辛い事、哀しい事を。
ふたりで分け合えたなら。
分け合えたら、半分になるから。
だから君が哀しい時は。

―――ふたりで、哀しみを分け合おう……


「…うん…アゼル…アゼル……」
「そう言う風に泣ける君が、僕は好きだから」
「…あたしもアゼル…」

「こんな風に…泣かせてくれる…あんたが…大好き……」


しあわせになろうと、誓ったから。
どんな事があってもしあわせになろうねって。
そう誓ったから。だから、この哀しみも。
ふたりで乗り越えてゆこう。ふたりなら乗り越えてゆける。




こころに優しい花束が降り続ける限り…僕等は大切なものを見失ったりはしないから……。