貴方だけを、愛しています。
何時どんな時でも、どんな瞬間でも、私は。
私は貴方だけのものです。私は指先から、髪の先まで全て。
全て貴方だけのもの、だから。
――――だから、何時までも…そばに置いてください……
「…シグルド様……」
こんなにも、しあわせなのに。こんなにもしあわせな筈なのに。どうして?どうしてこころはこんなにも。こんなにも不安になるの?こんなにも…怯えているの?
「どうした、ディアドラ?」
抱きしめてくれる腕は、何よりも優しい。そっと私を包み込む優しい腕。この腕があれば私は何も。何も怖いものも、何も怯えるものもないのに。この腕の中に、いれば。
―――なのにどうして?どうして…不安になるの?
「…何でも…ないのです…ただ……」
どうしてこんなにも私は。私は貴方が好き?どうしてこんなにも貴方を愛しているの?自分でも分からない。分から、ない。好きになりすぎて、愛しすぎて。ただひたすらに想いが溢れてきて。貴方への想い、が。
「その割には瞳が…哀しく見える…僕は君にそんな瞳をさせたくはないのに」
見つめて、見上げて。そして泣きたくなった。理由も意味も分からない。ただ哀しくて。哀しくて、苦しくて。貴方にそんな言葉を、貴方にそんな表情をさせてしまった事が。
「…させたくないのに…ディアドラ…」
違います―――と、言葉で否定しようとして。その前に、言葉を紡ぐ前に。そっと唇で私の言葉は塞がれた。
私の世界の全ては、貴方から始まった。
だって私はもう思い出せないの。
貴方と出逢う前の自分を、思い出せないの。
どんな事を想っていたとか。どんな事を考えていたのか。
何を好きだったとか。何が嫌いだったとか。
そんな事すら、もう遠い昔の事に思える。
…そう…私は貴方と出逢って…初めて『生まれ』たの……
貴方と出逢ったから、知る事が出来た。
本当の喜びを。本当の哀しみを。本当の愛を。
貴方がいなければ分からなかった。こんな。
こんな胸を締め付けられるような苦しさも。
こんなこころが満たされる想いも。
何もかもを知らないままただ。ただ過ごすだけだった。
シグルト様。私にとって『世界』の全ては、貴方だけなのです。
貴方がいなければ私は『ひと』でいられない。
貴方がいなければ私は『こころ』が分からない。
だから私を、ずっと。ずっと、貴方のそばにおいてください。ずっと貴方の腕の中に閉じ込めていてください。
「…違うのです、シグルト様のせいじゃありません…ただ…ただ私は…」
貴方だけが好きです。貴方だけを愛しています。この想いをどうしたら。どうしたら貴方に全てを伝える事が出来るのでしょうか?この溢れて両手に抱えきれない想いを、どうしたら。どうしたら全てを、伝えられるのでしょうか?
「…貴方と離れ離れになってしまったら…と……」
それ以上私は言葉を紡げませんでした。言葉にしてしまったら、本当に。本当に離れ離れになってしまうような気がして。
―――言葉にしたら…不安が零れて…私を足元から埋めてゆくような気がして。
「僕がずっと、君を抱きしめているよ」
ずっとが永遠ならば。ずっとが、永久ならば。
「…どんなになっても、君の心を僕が抱きしめるから…」
何も怖い事なんてない筈なのに。何も怯える事などない筈なのに。
「…僕は永遠に君のものだ……」
どうして。どうしてこころから溢れてくる不安が消えないの?
「…私も…永遠に貴方だけのものです…どんなになっても……」
愛しています。愛しています、シグルド様。
貴方だけが私の全て。貴方だけが私の永遠。
どんなになろうとも。どんなになっても。
私のこころは貴方だけに、向けられるから。
どんなになっても。どんな事があろうとも。
神様、私。私全ての物に逆らっても。
神様貴方にすら、逆らっても。それでも。
それでもこの想いを止められなかった。
ひとを愛する事を許されず、森から出る事も許されなく。
それでも私は森を抜け、貴方を愛した。
ただひとりの貴方を見つけて、そして。そして愛してしまったから。
何故こんなにも貴方が好き?何故こんなにも貴方が好き?
幾ら考えても答えは見つからず、幾ら想っても想いは途切れることなく。
永遠に。永遠に注がれる、貴方への想い。ただひとつの想い。
「…シグルド様……」
例え何が起ころうとも。
「…愛しています……」
例えどんな運命が待っていようとも。
「…貴方だけを…愛しています……」
それは逃れられない運命だった。
それは仕組まれた運命だった。
ただひたすらに作られ、そして捻じ曲げられた愛。
逃れる事が出来ず、捕らえられた運命。
記憶を奪われ、そして作られてゆく新たな愛。
仕組まれ、そして。そして与えられるゆがんだ愛。
それでも。それでも永遠だった。
例え全ての記憶が奪われても。
例え何もかもを『無』に還えされたとしても。
それでも、永遠だった。それでも、とわ、だった。
記憶をなくした先に。
再会したふたりが見つめあった、瞳が。
その瞳が、知ってる。
――――それはふたりだけが、知っている。