黄金の髪を靡かせ、真っ直ぐに前を見据え。
その双眸から覗く強い眼差しが。
その眼差しが。俺を捕らえて離さなかった。
―――お前の強さと、そして弱さ…その全てを愛しているから……
戦いの女神は、俺の元へと舞い降りた。ただひとつの愛をこの腕に抱きながら。
「…ジャムカ……」
戦いの時とは違う、お前の柔らかい笑み。でもその中にあるのは何よりも揺るぎ無い芯の強さだった。俺はこの強さに惹かれ、そして。その見え隠れする儚さに惹かれた。
「血が付いているわ」
手が伸びて俺の頬に触れ、そのまま指先が血を拭う。この手で戦場を渡り歩いているとは思えないほどの細い指先だった。細くて綺麗な指先。けれどもこの手が弓を射、敵を倒してゆく。
「ありがとう、ブリギッド」
頬に触れた手にそのまま自らの手を重ねて、そしてそのまま抱き寄せた。一瞬ぴくりと身体が震えたが、それ以上に安心したように俺の腕の中に身体を預けてきた。
「怖くなかったか?」
腕の中の暖かい身体を抱きしめながら、黄金の髪を撫でる。この髪が青空の下で風に靡くのが、何よりも綺麗だった。
「…私、戦っている時…怖いと思った事は一度もなかった…でも…」
「―――でも?」
「貴方を好きになって、私は初めて死ぬのが怖いと思った」
真剣に見つめてくる瞳を瞼の裏に焼き付けながら、俺はただひとつの想いを込めてそっと口付けた。
――――お前だけを愛していると云う…ただひとつの想いを……
お前は言った―――本当に私でよかったの?と。
真っ直ぐに俺を見つめながら、それでも何処か不安げな瞳で。
少しだけ潤んだ瞳で、お前はそう言った。
―――愛している……
この気持ちに偽りはない。この想いに揺るぎはない。
確かにエーディーンに惹かれていた事はあった。
彼女の神秘的な雰囲気と、そしてひどく儚げな所に。
でも、俺は。俺はそれだけでは駄目だと気が付いたから。
俺にとって『護りたい』という想いは、愛とは結び付かない。
護ってやりたいと言う想いは…ただの保護欲でしかなかった。
お前に出逢って、その違いに初めて気が付いた。
ともに戦い、ともに戦場を駆け抜け。
俺の隣に立ち、あくまでも対等に。
俺と同じ目の高さで、俺と同じ強さで。
そして何よりも美しくお前は、居る。
俺の目の前に、立っている。
―――愛して、いる……
お前のその強さに。お前のその脆さに。
その全てに俺は惹かれている。
他の誰でも駄目なんだ。お前でなければ駄目なんだ。
俺とともに歩み、俺とともに歩き。そして。
そして俺が護り、お前に護られ。
同じ位置で、同じ目の高さで指を絡められる相手。
―――ただ独りの、相手。
こうして、指を絡めるだけで愛しさがこみ上げてくる。
「…愛している…ブリギッド……」
「……私も…ジャムカ……」
「出逢った時間なんて関係ない。長さなんてそんなもの俺には無意味だ。俺がお前に惹かれ、お前がそれに答えてくれた。時間や運命すらも分からない場所で俺は。俺はお前を愛したんだ」
「…嬉しい…ジャムカ……」
「……ありがとう………」
ひとつ、お前の瞳から涙が零れ落ちた。俺はそっと指先でその雫を拭った。暖かい涙、だった。綺麗な涙、だった。あまりにも綺麗だから…このまま手のひらに閉じ込めたいと思うほどに。
お前がもしも少しでも俺の想いに不安があるのならば、俺は全てを懸けてお前に想いを告げるから。どんなになろうとも、このただひとつの想いを。
そんな事は何でもない。そのくらいお前を愛しているから。
この胸を引き裂いても構わない。
俺のこころをお前見せられるなら。
この声が潰れても構わない。
俺の想いをお前に告げられるなら。
この腕はお前を抱きしめる腕。この指はお前の涙を拭う指。
「…怖いくらい…しあわせで…」
「大丈夫ずっと俺がいる」
「…うん…ジャムカ……」
「ずっといるから。ふたりで」
「ふたりで、生きてゆこう」
俺の言葉にお前は真っ直ぐ俺を見上げて。そして小さく頷いた。瞳にはまだ涙の痕が残っている。けれども瞳の色は優しく微笑っていたから。
「――はい…ジャムカ……」
生きてゆこう、ふたりで。
死がふたりを、分かつまで。
いいや、死からすらも。
―――俺の腕は決して、お前を離しはしないから……