――――私は、禁断の存在。
歓喜の罪に身を委ね、そして少しづつ壊れてゆく。
何を望んだ訳でもなく、何を願った訳でもない。
ただひとつのささやかな願いを叶える為に。
私は全てのものを代償にしただけだった。
全てを引き換えにしても、どうしても叶えたい事が、あった。
ただ一夜の幻でも、いい。ただ一夜の、夢でもいい。
『…ユリア…本当によいのか?…』
私はその言葉に迷う事無く頷いた。私は禁断の存在。この血を子供に受け継がせる事は出来ない。この大陸に強大なナーガの血を、残すわけにはいけない。平和になった今、強い力は争いの火種以外の何物にもならないのだから。
「…いいのです…これで…これで…私はセリス様の障害になりたくはない……」
争いは何時も、血だった。何時しか私の血とセリス様の血が争いの元になりえないとは限らない。ナーガの血を100%受け継いだ子供が現れれば、その子供こそが正式な後継者だと…。何時か権力を巡る醜い争いが起きないとも限らない。それならば。それ、ならば…。
『二度と子供を産むことの出来ない身体になるぞ…それで、いいのか?』
「…はい…いいのです…ナーガの強い血は…セリス様の障害にはなっても、盾にはなりません…だからこれで、いいのです…」
―――そうして私は『女』である事を、自ら放棄した。
子供を産む事の出来ない身体。
子宮のない私の身体。女ではなくなった身体。
でもこれで。これで私は。
私はずっとセリス様の傍にいられる。
…それだけが…私の小さな願い…でした……
―――艶めく膣を裂く、ああ歓喜の罪。
「…ユリア……」
ベッドに横たわる私にセリス様は真っ青な顔で駆け寄って来た。息も途切れ途切れに、なりながら。私はそんな貴方にひとつ、微笑む。
「セリス様…どうされたのですか?…お城の方は?」
まだ日は落ちきっていない時間。この時間貴方は公務で追われている筈、それなのに。それなのに私の元へと来てくれた事が何よりも…嬉しい……。
「そんなのどうでもいいっ!ユリア君は―――」
その先の言葉を貴方は言い淀んでいる。言えない、ですよね。私が子供を産めない身体に、なった事なんて。優しい貴方の口からは。
「…僕の…僕のせい…なのか?……」
にっこりと微笑おうとして上手く微笑えなかった。切り取られた部分が悲鳴を上げている。もうなくなってしまったのに、おかしいね。
「違います、セリス様…違います…私のためです……」
「―――ユリア?……」
「…私が…セリス様のそばに…そばにずっと…いたかったから……」
震える手を伸ばして、そっと。そっと貴方の頬に触れた。今の私にはそれが精一杯だった。これ以上言葉を紡いだら、きっと。きっと私はもっと、もっと願いを述べてしまうかもしれないから。
ただ一夜の、幻でもいい。夢でも、いい。その身体を重ねたい。
ずっと思っていた事だった。どうして君は僕の妹なのかと?こんなにも君が好きなのに。こんなにも君だけを愛しているのに。どうして?どうして君と僕は兄弟でなければならないのかと。
――――許されない…ただひとつの恋……
僕は全てを手に入れた。父親と母親の名誉も、祖国も、親しき仲間も、大切な人達も。けれどもただひとつの。たったひとつの一番欲しいものだけが、それだけが手に入らない。それさえ手に入れられるのなら僕は全てを引き換えにしてもいいとそう思っているのに。そう、願っているのに。それだけがどうしても、手に入らないものだった。
「…ユリア……」
今もしも、僕が君を好きだといったらどうする?今君を抱きたいと言ったらどうする?
「…セリス様……」
だってもう僕等には障害が何もないじゃないか?君と僕の間には何も。何も。
「…いや…無茶しないように今日はゆっくりと休んでくれ…」
ああダメだ。こんな事を君らさせておきながら、今それを言ったしまったら僕はただの自分勝手な男になってしまう。ただのどうしようもない男に。
「…はい…セリス様……」
君の髪をひとつ撫でて、僕は静かに部屋を後にした。そこに残る君の髪の残り香をひどく切なく感じながら。
―――お母様……
私は悪い子供なのでしょうか?
お母様は私を産んでくれた。大切に想いながら。
そして、セリス様も。何よりも大切な想いで。
どちらもお母様にとってはかけがえのない命。
かけがえのない子供。なのに私は。
私は、セリス様が好きなんです。どうしようもない程に。
どうにも出来ないほどに、好きなんです。
…どうにかなる想いだったならば…初めから好きになりはしなかった……
両手でお腹を押さえる。もう痛みなどないのに、やっぱり何処か引き裂かれるように痛い。後悔は何もない。何も、ない。でもやっぱり私はセリス様を好きで。好きでどうにもならないと言う事だけは、変わらなかった。
「…ごめんなさい…お母様……」
今まで歯止めとなっていたものが、崩れてゆく。血が、女と言うものが、崩れてゆく。私達は兄弟、血の繋がった兄弟。許されるはずはない。けれども。けれどももう私は女ではないのだから…だから…子供は産めないのだから……。
―――ユリア…好きだよ……
「…あ……」
私の手は無意識に自らの胸に触れていた。不思議だった、今までこんな事自分からしたことも、ましては他人から触れられる事もなかった場所に。その場所に自ら触れている。
「…はぁっ…あぁ……」
子供の産めない身体になったのに、女ではなくなったのに、私の胸の果実はぷくりと立ちあがった。薄手の寝巻きの上からその突起が形を成しているのが分かる。
「…あぁん…ぁ……」
尖った乳首を自ら指で摘んで、きつく握り締めた。びくんっと身体が跳ねるのを止められなかった。
「…あぁ…セリス…様…はぁ……」
寝巻きをたくし上げ、自らの指でじかに触れた。胸は指を待ち構えていたように、はちきれそうに乳首が立ちあがった。それを指の腹で転がした。
「…セリス様…セリス様…あぁ……」
多分私は確かめたかったのだろう。子供の産めない身体になっても、それでも。それでも気持ちは女としてのものが消えないと言う事に。セリス様、貴方への想いに。
「…あぁぁっん…っ!」
膝を立てて下着を足首の所まで降ろした。そして薄く毛が生えているその秘所へと指を刺し入れた。
「…あぁ…はぁんっ…あんっ……」
ソコは自分が女である事の証である愛液がとろりと、零れていた。零れて、いた。
「…ああっ…セリス様…セリス…様ぁ……」
嬉し、かった。その時は、私は何もかもを忘れてただそれだけ思っていた。セリス様の事を想って、セリス様の事だけを考えて蜜を零している自分。ひくひくと求めているソコ。
―――私はこんなにも…こんなにも女だと言う事に……
「…あぁぁんっ…はぁ…セリス様…セリス様……」
指を何本も入れて、中を掻き乱す。空いている方の手で、胸を激しく揉みながら。ただセリス様の事だけを。貴方の事だけを、考えて。
『…好きだよ…ユリア……』
「…あぁ…私も…私も…セリス様……」
『…ユリア…君が欲しいな……』
「…ユリアも…ユリアも…セリス様が…あぁぁ……」
『―――君が、欲しいな』
「―――あああっ!!!」
喉を仰け反らせて喘いだ瞬間、私のソコからは大量の蜜が溢れ出した。どくんどくんと、シーツの上に流れる。染みを作るほどに、いっぱい。いっぱい私は零した。
―――何故だか、涙が零れてきた。
それは嬉しかったのか、哀しかったのか。
苦しかったのか、幸福だったのか。私には分からない。
ただ私はこれで。これでもう。
もう戻ることは出来ないのだと。それだけを。
…それだけを…思っていた………