子宮 <後編>



水が、零れてゆく。
ぽたり、ぽたりと。
私の髪先から、足許から。
零れて、ゆく。

―――破水して、広がる水の輪。


「…はぁ…はぁ……」
荒い息を押さえきれないまま、私はベッドから起き上がった。シーツに付いた染みを隠す為に、マットレスから剥ぎ取った。
「…ん……」
そのまま立ち上がると剥き出しの脚にどろりと、愛液が伝ってきた。それを剥ぎ取ったシーツで拭き取る。それはひどく『雌』の匂いがした。
部屋にある鏡に自分の姿が映される。それはひどく淫らなものだった。快楽の余韻を残す肌はほんのりと紅く上気し、衣服ははだけ白い胸が剥き出しになっている。敏感になっている乳首はぴんと張り詰め、足許からは愛液が伝っている。
――――みっともないと、思った。けれどもそれ以上にこれが私なんだと思った。
血の繋がった実の兄を思い、自慰をする自分。兄を思って、自らで慰める自分。こんな姿を見たらきっとお母様は哀しむだろうなと…ただそれだけが後悔。
「…でも…私は……」
でも。でもその後悔すらもどうでもいいものになってしまう程に、私はセリス様…貴方を愛しているのです。
「…ごめんな…さい……」
私はシーツを握り締めたまま、鏡の前の自分自身に謝った。泣きながら、ごめんなさいと。


ごめんなさい…せっかく綺麗な身体で産んでくれたのに。
私は自ら傷を付けました。自らの手で穢しました。
自らの意思で、自らの指で。

―――ごめんな…さい………


「…ごめんなさい……」
好きなんです、セリス様が。
「…ごめん……な……」
誰よりも貴方だけが。
「…さ…い……」
貴方だけを、私は愛しています。


―――カチャ…と、音がして扉が開かれる。その音に私が気付いたのは、鏡にその姿が映し出された瞬間だった。



僕は、けだものです。
ただの欲にまみれたケダモノです。
妹の自慰を見て、自らの欲望を滾らせました。
僕の名前を呼びながら果てる妹を見て。
僕も耐えきれずに、その手に白濁した液を零しました。


「――セリス様っ!」
鏡に映ったその姿の存在を確認する前に、私はその腕に抱きしめられていた。
「…ユリア……」
「…あっ……」
きつく抱きしめられ、私の身体に硬いモノが当たっているのを感じる。これは……
「…ユリア…ユリア…僕は……」
「だ、ダメですせりス様…あ……」
剥き出しになった私の胸に貴方の手が触れる。敏感になった私の乳首を摘みながら、ぎゅっと胸を掴んだ。
「…あぁ…ダメです…止めて…セリス様…ああ…」
「―――好き、なんだユリア…僕はずっと……」
「ダメです…ダメ…あぁ…やめ………」
激しく胸を揉まれ耐えきれずに鏡に手を付いた。けれども胸をまさぐる手は激しくなるばかりで。そして。そして鏡に映る私の姿はひどく淫らだった。
「…あぁ…あ…セリス…様ぁ……」
髪に口付けられ、首筋をきつく吸われる。その間も胸は私を弄ったままで。そして。そして後ろから当たるセリス様自身はどんどんと大きくなってゆく。
「…あぁぁ…あん…はぁぁ……」
私の中の何かが切れた。そう、もう私達を縛るものは何もない。私はセリス様を愛していて…そしてセリス様も私を求めてくれる。こんなにも熱く私を求めてくれる。
「ユリア…ユリア…僕は…」
「―――ああんっ!!」
裾が上げられ、下半身が剥き出しにされる。先ほどの行為のせいで私は、その下は何も身に付けてはいなかった。双丘の柔らかい肉に貴方のソレがじかに当たった。
「…あぁ…セリス様…セリス様ぁ……」
胸を激しく揉みながら、双丘の狭間にセリス様のソレが擦り付けられる。何度か擦られて、そして。
「――――っ!!」
私の尻の上に大量の精液がぶちまけられた。


「…ユリア…好きなんだ…ずっとずっと…好きだった…今までどれだけ僕が気持ちを押さえてきたか…分かるか?」
欲望を吐き出してもセリス様のそれは収まる事がなかった。それだけ私を求めている事が。それだけ私を欲しがっている事が、今は何よりも嬉しい。
「…セリス…様……あ……」
脚を広げられ、一番恥ずかしい部分が鏡に映し出される。そこはひくんひくんと淫らに蠢いていた。
「ユリアのココ…綺麗だね」
「…あっ…あぁ……」
指で外側の肉を押し広げられ、深い部分を映し出される。そうして指がくちゅっと侵入してきた。
「…やぁ…セリス様…は、恥ずかしい…あぁ…」
「どうして?こんなに。こんなにユリアは僕を欲しがってくれている」
「…やぁぁんっ…ああん…はあ……」
ぐちゃぐちゃと中を掻き乱す指。それを求めて浅ましくひくつく花びら。それが鏡にはっきりと映し出されている。私は目を反らし逃れようとしたが、セリス様の空いている方の手で顔を押さえられてしまった。
「見て、ユリア。君のココこんなにひくひくしているよ。蜜もいっぱい出ているどろどろだね」
「…やぁんっ…そんな事…そんな事言わないでぇ…ああ……」
羞恥に顔がかああっと染まる。けれども私はソコから目を反らせなかった。てらてらと蜜のせいで光り濡れるソコに。
「ユリアは意外とイヤラシイんだね」
「…ち、違います…違います…それは…セリス様…だから…」
「うん?」
「…セリス様だから…ユリアは…こんなに…こんなになるんです……」
「こんなにぐちゃぐちゃに?」
「…セリス様だからぁ…あぁ…あ……」
何時しか指は三本も入れられいていた。押し広げられ、ぐりぐりと中を抉られる。私は得きれずにがくりとセリス様に体重の全てを預けた。
「…あぁ…あぁぁ…もぉ……」
「―――もう?」
「…我慢…出来なぁ…い…あぁ…もぉ…もぉ……」
「もう何が、欲しい?」
「…セリス様がぁ…セリス様が…あぁぁぁ……」
「僕もユリアだけが、欲しいんだ」
耳元に囁かれた言葉に、私は快楽以外の涙が零れて来るのを堪えられなかった。


ずっと、欲しかったんだ。
君だけが、欲しかった。
ただ独りの妹でも、僕には。
僕にはただ独りの愛する人。
君だけを愛している。


「―――ユリア…愛している……」


ずぶりと、熱い塊が私の中に入ってきた。先端の部分だけだったが、指とは比べ物にはならないその巨きさに私は堪えきれずに悲鳴を上げた。
「―――ああああっ!!」
それでもセリス様は動きを止めなかった。ずぶずぶと私の中にそれが収まってゆく。鏡越しにその肉棒が私の中に収まってゆくのが見えた。ぐちゃぐちゃと接合部分が淫らな音を発する。愛液と血の紅がまみれて繋がった部分から足許へと垂れていった。
「…あぁ…いたい…あぁぁぁ……」
「痛いのは最初だけだ…我慢してくれ……」
「…はい…セリス様…セリ…あああっ!!」
一端全てを埋め込むとセリス様は繋がっている部分を指でなぞり始めた。その感触の中に痛み以外のモノがじわりと広がってくる。
「…あぁぁ…あああ…ああんっ!」
腰に手を掛けられ、上下に揺さぶられる。そのたびに繋がっている個所から、セリス様のそれが私の中を出入りするのが見える。
「…あぁ…あああ…ん……」
何時しか私はセリス様の動きに合わせて自ら腰を振っていた。がくがくと我を忘れて、髪を乱して貴方を求めた。
「ああああっ!!!」
どくんっと私の中で音がして、熱い液体が注ぎ込まれる。それを感じながら私は限界まで背中を仰け反らせて喘いだ。


後はもう覚えていない。
ただ私はセリス様を求め続けて。
そしてセリス様も私を求めてくれた。
何度も何度も、繋がりあって。
何度も何度も愛液を溢れさせ。
下半身の感覚がなくなるまで、抱き合った。


―――ずっと、ずっと、愛している……


「…もう何処へも戻れなくていい…ユリア…君が僕のものになるなら……」
「…セリス様……」
「この想いが罪だと言うならそれでも構わない。もうどうでもいい、君が好きなんだ」
「…私も…です…私も…」

「……セリス様…だけが………」


これが罪だと言うのなら、何処までも堕ちよう。
そんなものは怖くない。君が手に入った今。
僕は何も怖いものなんてないんだ。


もう、何も怖くはない。
私の存在事態が罪だと言うなら、もう。
もうこれ以上。これ以上何があろうとも。
何があろうとも、貴方が。
貴方がそばにいてくれるなら。


破水した水。
私の子宮から零れた水。
それは、甘く激しい罪の味。
深くて歓喜な、罪の匂い。


――――例え誰が何と言おうとも…私達はしあわせだった………