みどりいろ



――――溺れたい、貴方に溺れてそして。そしてただ静かに沈んでゆけたのならば。


瞼を開いた先に在るみどり色の瞳に映る憐れな女の顔を見つめながら、その唇を塞いだ。唇のぬくもりは暖かい筈なのに、その口づけはひどく冷たかった。
「…二度と夢から目覚めなければ良かった…浅い眠りでも、二度と瞼を開かなければ良かった」
唇を離してもう一度その瞳に映し出された自分を見つめる。鏡のようにただ。ただ、己の姿を映し出すしかしない瞳を。
「―――そうしたらこんな想いは知らずにすんだのに」
背中に腕を廻し、その広さを指先で確かめた。強靭な肉体は少しの力でも弾む。それがひどく悔しくてわざと爪を立てて抉ってみた。
「…知らずに…すんだのに……」
抉って、細かな傷を作って。それが、自分がこの背中に残した痕だという事にどうしようもない自己満足を感じて。そんなみっともない感情に自分を満たして。
「…それでも…好き…貴方が好きよ…ソーンバルケ……」
決してその奥を見る事の出来ないみどり色の中に自分を浸してゆく。足許から髪の先まで、その鏡のように反射するみどり色の瞳に。


二度と目覚めなければ良かった。二度と瞼を開かなければ良かった。全てを閉ざして丸まって眠っていれば、もう。もう誰も傷つけずに、私も傷つかずにいられたのに。それでも開いてしまった。塞いでいた耳を、きつく閉じていた瞼を。
「ミカヤ、私はお前を憐れな女とは思わん。ただ『女』だと、それだけを思う」
伸びてくる指先に自ら舌を伸ばし、そのまま口に含んだ。大きくて節くれだった指先は、私が知っているものとは違っていた。けれども今は。今はこの指先がどうしようもない程に欲しい。
「…ん…ふ……んっ……」
舌を絡め、指を嬲り、柔らかい肉を噛んだ。そこから零れ落ちる生暖かい紅い液体を舌で掬い、そのまま飲み干した。口の中に広がる鉄の味が、醜い欲望を少しだけ満たした。
「…罪悪感よりも…痛みよりも…貴方が欲しい…それだけしか私には残ってなかった……」
口許に一筋の血を滴らせながら、自ら傷つけたその指先を胸元へと導く。その指は私の言葉に答える代りに、胸のふくらみを掴んで揉んだ。
「…それだけしか…ない…のっ…ぁぁっ……」
大きな手のひらが敏感になった乳房を揉みし抱く。その刺激に喉元が震えた。唇からは甘い喘ぎが零れ、身体が崩れ落ちるのが分かる。そのまま冷たい床に押し倒され、胸元を肌蹴させられた。直に指が、触れる。大きな指が、触れる。
「…あっ…ぁっ…あぁんっ……」
外側を強く揉まれ、胸の突起を指の腹で転がされる。もう一方の乳首は口に含まれ強く吸われた。歯を立てられ、先端を舌先で突かれる。その刺激に耐え切れずに髪を乱し、吐息を淫らにした。
「…あぁっ…もっと…もっと…苛めて…ああんっ……」
自ら胸を押し付け、より深い刺激をねだった。髪に指を絡め自らに引き寄せて、もっと、と。もっと、してと。もっともっと甚振ってと。
「…いいよぉ…気持ちイイ…もっとぉっ…もっ…ああんっ…あんっあんっ!」
何も考えられなくなるくらいに溺れたい。貴方に溺れたい、そのみどりの中に浸りたい。水浸しになるほどに、貴方の中に沈みたい。


少しだけ色彩の違うみどりが私のそばにあった。ずっと、そばに在った。それは何よりも大切で、何よりも愛しく、何よりも大事なものだった。

――――けれども、消えてしまった。この世界の何処にもそのみどりはなくなってしまった。

分かっていた事だったのに。ずっと理解してきた事だったのに。身体の中を刻む時計の針の長さが違う事など、ずっと。ずっと、知っていた事だったのに。
それなのに私は壊れた。内側から、壊れた。そのみどり色のない世界に自らの生を刻む事が出来なくて、居場所を見出せなくて。目を閉じ、耳を塞ぎ、現実の世界から逃げ出した。耐えられなくて、認められなくて、眠った。浅い眠りに身体を浸し、偽りのまどろみの中で身体を丸めて眠った。


『―――生きろ、ミカヤ。お前は生きなければいけない。それが、あいつが生きていた証になる』


壊れて、狂って。全てを閉ざした私を無理やり目覚めさせる声があった。強引に中に入ってくるみどりがあった。それは私の知っている色彩とは違う、もっと強くもっと深く。そしてもっと。もっと、残酷な色彩だった。


一番深い場所に忍び込む指先に、声を堪える事は出来なかった。節くれだった指が、濡れた蕾を掻き乱す。くちゅくちゅと淫らな音とともに。そのたびに私の媚肉はひくひくと蠢き、熱く痺れた。
「…くふっ…はっ…はぁぁっ…あぁっ……」
入り口をなぞられながら、奥を掻き回される。何度も、何度も。そのたびに意識は剥がされ、剥き出しになった快感だけが暴かれた。
「…ぁぁ…もぉっ…私…わたしっ…あぁんっ!」
中で指を折り曲げられ一番感じる箇所を爪で抉られた。もう限界だった。欲しい。欲しい、その熱いモノが。硬くて巨きいコレガ。コレが…欲しい……。
「…お願い…コレを…コレが……」
震える指を伸ばし、熱く滾った肉棒に触れた。それはどくどくと脈を打ち、圧倒的な存在感を指先に伝えた。
「…欲しいよぉ…コレが…欲しいのっ…お願い…挿れてっ!」
挿れて欲しい。私の中に挿ってきて。激しく貫いて中を掻き乱して。一番奥まで貫いて、引き裂くくらいに私を貫いて。
「―――そうだ、ミカヤ。もっと私を求めろ…そうして生きるんだ…『女』として生きろ」
「ああああっ!!!」
中に、挿ってくる。みっしりと私の中に。圧倒的な存在感が私の中を満たしてゆく。熱くて硬くて巨きなソレが、私の中を犯してゆく。
「…ああんっ!!あん!ああんっ!!ああああっ!!!」
生々しい熱が私を覆い、激しい摩擦が私を狂わせる。隙間が何処にもなくなるほどに中を支配され、溢れる程の快楽が私を襲う。気持ちイイ。ただ、ただ気持ちイイ。もう何も考えられない。考えられない。このまま溢れて、溺れたい。満たされ、浸りたい。
「――――ああああんっ!!あああああっ!!!」
ぜんぶ、ぜんぶ、あなたで。あなたのみどりのなかで。わたしはとけてなくなりたい。


恋をした。ただ恋をした。だから目覚めたの。だから瞼を開いたの。貴方に恋をしたから、私はもう一度『ここ』に戻ってきたの。
「…すき…すき…あなたが…すき…あなたを…あいしている……」
今までの私の全てを裏切っても、自らの心をずたずたに傷つかせても。それ以上に私は貴方に恋をしてしまった。ただそれだけだった。それだけだった。それしか、なかった。
「…あいしているの…あなたを……」
知っている。貴方は私を愛してはいない。それでもいいの。私が貴方を愛しているから。空っぽになった器の私は、今までの私すらも流されてしまう程に貴方への想いで溢れたの。
「…愛しているわ…ソーンバルケ……」
そのみどり色の瞳に映る私はただの恋する女でしかない。けれども生きている生身の女だ。命ある器だ。私は恋の為に生きている。



――――そのみどり色に溺れて、溢れて、そして。そして満たされ沈んでゆく……