秘密



――――こんな貴方を知っているのは、私だけだ。私だけが知っている、貴方の秘密。


見降ろしてくる瞳を見つめながら、ひどく自分の頭が冷静になっている事に気付いた。こうした場面になったらもっと慌てるものだと思ったのに。不思議なほど冷静に、その顔を観察していた。
「―――こんな時ですら、冷静なのですね」
柔らかく微笑われるように言われ、何だかひどく安心している自分がいる。そう、この瞬間になって気がついた。目の前の男は常に微笑っているのだ。だから真剣な瞳で見つめてこられると、それがあまりにも珍しく感じてまじまじと観察してしまったのだ。
「冷静も何も、こんな時にどんな態度をすればよいのか私には分からん」
実際分からないのだから仕方ない。普通の女がするように恥じらうなりすればよいのだが、そんな事をしたら逆に目の前の男には爆笑されそうな気がするし…それ以上に恥じらうという行為があまりにも自分にかけ離れていて、出来そうもないのが本音だった。
「らしいと言えばらしいですね、タニス殿のそんな所も…私にとっては堪らないところなのですが」
「オスカー!」
「はい?!」
急に叱られるように名前を呼ばれ、オスカーにしては珍しく慌ててしまう。流石に鬼軍曹と恐れられているだけはある…その迫力は半端じゃなかった。こんな場面ですら発揮されるその威力に逆に感心してしまうほどに。
「こんな時になって『タニス殿』はないだろうっ!男なら男らしく呼び捨てにでもすればよい」
真剣に叱られた内容に、オスカーは噴き出すのを止められなかった。何でこんな恋人同士の甘い睦言が、この人にかかるとこうなってしまうのか。
「何がおかしい?オスカー、私は真剣なのだぞっ!」
「…すみません…貴方がそんな可愛らしいことを言ってくれるとは思いませんでしたので……」
「か、可愛らしい?のか??」
「ええ、とても可愛いですよ…タニス……」
「…あ……」
囁かれるように呼ばれた名前の威力は絶大だった。耳元がかあっと熱くなっているのが、自分でも分かる。けれどもやっぱりどうすればよいのか分からない。分からないから、オスカーの顔を見上げてみたら、優しく微笑まれて、そして。そしてそっと、その唇が降ってきた。蕩けるほどの、甘いキスが。


凛とした姿があまりにも美しくて立ち止まってしまった。
戦場を見つめる眼差しの強さがあまりにも綺麗で見惚れてしまった。
一見少年のように見えるその姿が、こんなにも。
こんなにも、綺麗な生き物だとは気付かなかった。
あまりにも近寄りがたくて、こんなにも。


――――こんなにもこのひとが、綺麗なひとだということに………


触れるだけのキスを繰り返しながら、オスカーは器用にタニスの衣服を脱がしていった。その手際の良さと唇の甘い感触に、タニスが気付けないほどに。
「…あ……」
上半身をはぎ取られ、両の胸が露わになって初めてキスのシャワーから解放された。解放されてもしばらく頭の芯がぼーとしていて、上手く思考が纏まらない。
「綺麗ですよ、タニス」
首筋に唇が降りてくる。それをくすぐったいと感じる間もなく、手のひらがタニスの乳房を包み込んだ。
「…あっ…!……」
無意識に零れた甘い声に、タニスは意識が引き戻される。自分がこんな…こんな声を出している事が不思議で仕方なかった。どこからこんな、甘い声が出てくるのか。
「…やめっ…ああっ……」
けれどもそんな考えもすぐに消し飛んで行ってしまう。胸のやわらかい部分を揉まれ、親指で乳首を転がされる。その刺激に、思考が追い付かなくなって。
「…あぁ…んっ…こんなっ…ダメ……」
首筋を辿っていた唇が鎖骨のくぼみに触れるとそのままきつく吸い上げた。それと同時にオスカーの手は乳房を鷲掴みにする。その両の刺激に耐えきれず、ぴくんぴくんっとタニスの身体が跳ねた。
「…だめだっ……ああんっ!……」
「―――貴方のそんな可愛い声聴けるなんて…私はラッキーだ」
「…バカ…何言って……」
「だって貴方のそんな声、知っているのは私だけでしょう?」
「…あ、当たり前だっ!…お前以外こんな恥ずかしい処…見せられるか……」
「こんな時まで、本当に貴方のカッコよさには目眩がしますよ。でも」
「―――ああっ!」
ぎゅっと親指と人差し指で、乳首が摘ままれた。強い刺激にソレはほんのりと紅く染まる。その様子を細目で見ながらオスカーは告げた。
「でも、それ以上に貴方の可愛らしさに…私はぞっこんですよ」
再び唇が降りてくる。手は胸をいじりながら、乳房を摘まみながら。戸惑う舌を絡め合わせ、口中の奥深くをたっぷりと味わいながら。
「…んっ…んんんっ…んん……」
…タニスの身体全てを、余すことなく味わいながら……


「…私の…胸…あまり大きくない…だろう?……」
胸の突起を口に含まれれば、零れるのは甘い吐息だけだった。けれどもその甘さを堪えながらタニスはオスカーに告げる。
「貴方はそんな事を気にするのですか?意外、ですね」
一旦乳首から唇を離して、オスカーはタニスを見下ろした。潤んだ瞳が自分を見上げてくる。きりりとした少年のようにも思えるし、大人の隠避な女にも見えるその瞳が。
「シグルーン隊長のような大きな胸が…男は好きなのだろう?……」
「そんなのは個人的な好みによって違いますよ。私は貴方の胸が好きですよ」
「…そうか…そんなものか……安心した……」
ほっとしたような表情を浮かべるタニスに、オスカーは優しくひとつ微笑むとそのままキスをした。思いを込めて、キスをした。そして。
「―――私は貴方が、大好きですよ」
再びオスカーの唇が胸の果実を含む。それと同時に空いた方の手が、乳房を摘む。カリリと音を立てながら軽く乳首を噛んでやれば、組み敷いた肢体は面白いほどの反応を返した。それが嬉しくて、オスカーは乳首が痛くなるほどに、両の胸を攻め立てた。
「…あぁ…もう…そこはっ…そこは…いいからっ……」
胸を攻め立てられているうちに下腹部がむずむずして、もどかしくてたまらなかった。無意識に脚を動かしてしまうのを止められない。
「いいから?どうして欲しいんですか?」
囁く声は優しいのに、意地悪に聴こえるのはどうしてだろう?けれども今はそれよりも。それよりも、このどうにもならない疼きをどうにかしてほしくて。
「…いいからっ…コッチを……」
止められなかった。止められない。もう何も考えられない。自分が今何をして、何を言っているのかも分からなくなっていて。
「…コッチを…触っ……あっ!」
タニスは耐えきれずにオスカーの手を自らの茂みに導かせる。その行為に答えるように、オスカーの指がゆっくりと埋め込まれてゆく。既にしっとりと濡れて、ひくひくと刺激を求め蠢いているソコに。
「…ああんっ……」
与えられた刺激に満足げにタニスは喘いだ。気持ちイイ。濡れたソコを指で掻き廻される刺激が。気持ちよくて、堪らない。
「…あんっ…あんあんっ…あぁ………」
「気持ちイイですか?タニス」
その問いに答える代りに喘いだ。言葉が紡げないから、感じていることを伝えた。指の動きに合わせるように自らの腰を揺らし、与えられる刺激を堪能した。止められないから、本能のまま、追い求めた。
「―――貴方のそんな顔見ていたら…私も限界です…私も気持ち良くさせて…くださいね」
囁かれた言葉の意味を理解する前に、中を蠢いていた指が引き抜かれる。刺激を消失したソコは我慢できず、疼いている。その疼きを沈めたくて潤んだ瞳でオスカーを見上げれば、唇が一つ降りて来て。
「…一つに、なりましょうね…タニス……」
足首を掴まれ、そのまま広げられた。秘孔がオスカーの眼下に晒される。その恥ずかしさに、タニスはシーツに顔を埋めて耐えた。だから指以外のモノが入口にあたっても、瞬間ソレが何なのか理解出来なかった。理解できた時には…ソレはタニスの中に埋められていった。


「…ひっ…あああっ!!」


指の刺激で十分に濡れほぐされたといっても、初めて受け入れるソレは指とは比べものにならない巨きさと硬さで。貫かれるたびに、身体が悲鳴を上げるのを止められない。
「…ひあっ…ああぁ…痛っ……」
戦場で血を流す痛みとは違う、別の痛み。全身が真っ二つにされるような、下腹部が圧迫されるような、そんな痛み。こんな痛みに世間の女性は耐えてきたのかと思うと、女性というものを尊敬せずにはいられない。自分も同じ女性なのだが…。
「大丈夫ですか?無理なら…」
「…大丈夫…だっ…こんなことくらい…耐えられねば…副団長として情けない……」
この場合それは何の関係もない気がするが、あえて余計なことをオスカーは言わなかった。それよりも少しでも負担を軽くしてあげられるように、胸を揉み性感帯を刺激してやる。
「…あぁ…あっ…ああ……」
声が艶めくのを感じ取りながら、オスカーは身を進めた。タニスの中へと、その肉棒を埋めてゆく。ずぷり、と。
「動いても、いい?」
全てを埋め込むと、一度動きを止めた。そしてタニスの表情に快楽の色を確認して、そう告げた。その言葉にひとつ、タニスは頷いた。言葉にするのは舌が痺れて出来なかったから、動作で告げる。
「あああっ!!」
頷くのを確認して、オスカーはその細い腰を掴むとそのまま上下に揺さぶった。そのたびに敏感になった肌がシーツに擦れ、それすらも刺激になっていく。
「…ああ…ああぁ…オスカー…オスカー…ぁぁ…っ……」
接合部分が濡れた音を立てる。その上に喘ぎ声と熱い吐息が重なる。その音にすら、身体が反応した。芯が疼いた。
「…タニス…タニス……好きですよ……」
「…あぁぁ…はぁ…ぁ…ぁぁっ…」
「…愛して、いますよ……」
囁くように告げると同時に、オスカーはそのまま最奥までその楔で貫いた。そのままどくどくと欲望を体内に注ぎ込む。暖かいモノが身体の中に入ってゆく感触に、タニスは悲鳴のような声で、喘いだ。


貴方がどんなに綺麗なのか。貴方がどんなに淫らなのか。
貴方がどんなに甘い声を出すのか。貴方がどんなに女らしいのか。


――――それを知っているのは、私だけ。私だけの秘密だから……


汗で濡れた髪ですら、愛しい。
「…オスカー……」
快楽の名残を見せる瞳の色彩ですら。
「…はい?……」
戸惑うことなく結ばれる綺麗な指先ですら。
「…これで私たちは……」
全てが、愛しい。全てを、愛している。


「…『恋人同士』…なのだな……」


タニスの言葉にひとつオスカーは微笑って。そして告げる―――私は初めからずっと…ずっとそのつもりでしたよ、と。