LOVE LOVE LOVE



泣きたくなるほどのしあわせが、今ここにあって。手を伸ばせば届く場所にあって。こうして、そっと手を伸ばせば届く場所に。


――――夢すら見ない夜は、この場所だけが与えてくれた。この暖かい腕の中だけが。


ほとんど物のない生活感のない部屋だった。必要最小限のものしか置いていない部屋。けれどもそれを何よりもらしいと思った。
「もっと豪華な部屋だと思った。お前『王様』だから」
「皮肉か?サザ」
ベッドの上に腰掛けたソーンバルケを見下ろすようにサザは目の前に立てば、見上げてくる瞳がひどく優しい色彩を見せる。その穏やかさに何故かひどく安堵した。
「違うよ、俺が知っている支配者は少なくとも皆程度の差はあれそれなりの住まいだった…ミカヤですらそうだった…本人が望まなくとも他国に見せる為に」
「ベオクの理屈はここでは無意味だ。そんなものはこの国にはいらない」
伸びてくる腕に身を任せれば、そのまま膝の上に乗せられた。その動作に答えるように背中に腕を廻せば、唇がひとつ髪に落ちてくる。
「私が望むものは全てのものが同じように生きられる世界だ。甘い理想と言われようが、それを曲げる気はない」
「―――ソーン…その世界ならば……」
穏やかで全てを見透かすようなその瞳の奥に在る強い意志。それをこうして一番近くで見る事の出来る自分は、きっと。きっと誰よりもしあわせなのだろう。きっと、誰よりも。
「…その世界ならば…俺たちはずっと…一緒に生きてゆけるよな……」
ベオクもラグズも印つきも、全てはヒトだ。そこに違いなんて何もない。在るものは同じ『命』だ。それだけなんだ。
「私はお前と生きる。そう決めた。それは私の意思だ。お前とともに、生きてゆく」
理想と現実は違うものだという事は嫌というほどに分かっている。それでも諦めてしまってはそこで全てが終わる。変わらなくても変えられなくても、それでも進まなくては何も始まらない。
「うん、ソーン。俺はお前を選んだんだ」
自分自身の最期の殻を突き破って、手を伸ばして手に入れたもの。自らが望んで、そして選び取ったもの。この手で、掴み取ったもの。
「俺がお前を、選んだんだ」
この場所を護るためならばどんな事だって出来る。この手を掴み取る為ならば。それが『自分自身』が望んだものだから。
「―――ああ、サザ…私はお前だけのものだ…そしてお前は私だけのものだ……」
泣きたくなるほどの、しあわせ。それが今ここにある。確かにこの腕の中にある。それは生まれて初めて自分自身の意思で掴み取ったもの。―――自分自身が強く、願ったもの。


睫毛が重なり合う距離で見つめ合えば、その瞳に映るのは互いの存在だけで。もう他には何も映しだす事はなくて。
「――――身体が、冷たいな…外は寒かったから……」
吐息が触れあう距離で、互いの存在を確認して。ぬくもりが伝わる距離で、互いの想いを確かめ合って。
「…お前が、暖めてくれるんだろう?……」
「お前がそう望むならば」
口許に浮かぶ笑みを、ずっと見ていたいと思った。一番好きなその表情を、ずっと、ずっと。


――――泣きたくなるほどのしあわせがそっと降ってくる。それを失いたくなくて必死に手を伸ばしたら、お前に触れた。お前のこころに、触れた。



ぴちゃんと雫がひとつ、頬に跳ねた。それを拭おうと手を伸ばしたら、大きな指に包み込まれた。
「こんな風に誰かと風呂に入るなんて…生まれて初めてだ」
抱きかかえられるように身体を湯船に沈められて、そのまま後ろから抱きしめられる。水を通して重なり合う肌の感触が何だか不思議だった。
「そうか、それは光栄だ」
予想外の言葉が返ってきたので気になって顔を見上げれば、髪から雫が零れてきて思わず目を閉じる。その途端、唇がそっと塞がれた。
「…ソーン…バルケ……」
唇が離れても、触れあっている肌は離れない。包み込んでいた指は何時しか、水面下でサザの肌を滑ってゆく。
「…どんな事であろうともお前の『初めて』が私ならば喜ばしいことだ」
水面越しに触れる愛撫はもどかしい程に柔らかく、生み出す熱すらもじれったくて。偶然とでも言うように敏感な個所に触れる瞬間だけが、ぴちゃんっと水滴を跳ねさせるだけだった。
「…お前…何処まで本気で…何処まで冗談なんだか……」
「お前に対しては、何時でも本気だ―――こんなふうに、な」
「―――あぁっ!」
両の指先がそれぞれの胸の突起をぎゅっと摘まんだ。その刺激に耐えきれずにサザの口からは甘い悲鳴が零れる。
「…こんな…所で…お前…っ…あ…あっ……」
捏ねくり回すように弄られて、痛いほどに胸の突起は張りつめる。それを楽しむかのように、何度も何度も胸を嬲られサザは耐え切れずに身体を震わせた。
「こんな所で?―――違う、こんな所だからだ」
「…あぁんっ…はぁっ…ぁぁ……」
耳元で息を吹きかけられるように囁かれる声。低く少しだけ掠れたその声。自分だけが知っているこの男の夜の声。それだけで濡れる自分がいる。それだけで…感じる自分がいる。
「…ソーン…っ…んんっ…んんんっ……」
顎を掴まれ上を向かせられれば、そのまま唇が降りてくる。唇の感触を確かめる間もなく深く貪られ。舌を絡め取られた。深く、深く、口中を貪られる。
「…んんっ…ふぅ…んっ……んんっ!!」
何時しか胸を弄っていた手が離れ、そのままサザ自身に触れた。それは既に十分な硬さになって、ソーンバルケの手に包まれる。ソレはどくどくと脈を打ち、正直に快楽の証を見せていた。
「随分と早いな、もうこんなだぞ」
「…そんな事…言う…なっ……」
「本当の事を言ったまでだ―――ほら」
「…ああんっ!……」
側面を撫でられぞくりとした快楽がサザの全身を駆け上った。もう何度もこうして触れられているのに、どうしてだろう?前よりもずっと。ずっと感じてしまうのは。
「…あぁっ…あぁんっ…もう…っ……」
先端の割れ目を指で擦られながら、側面を包まれる。その刺激に耐えられなかった。耐える事が出来ずに、サザは無意識に自分の手をソーンバルケ自身へと伸ばした。触れた瞬間に感じた熱さと硬さにぞくりと、した。この凶器のようなモノが自分の中に入って掻き回す瞬間を想像して。その淫らな妄想に、睫毛が震えるのを止められない。
「どうした?コレが欲しいのか?」
指で扱けばより硬く巨きくなってゆく。自分がこうして触れるたびに。自分がこうして乱れるたびに。それが、何よりも。何よりも、感じるから。
「…欲しい…よっ…コレが…欲しいっ……」
もう何も隠す事はしなくていい。何もかもを見せてもいい。全部、見せつけてもいい。こんなにも、自分がお前を求めているんだという事を。
「…お前が…欲しいよぉっ……」
剥き出しの想いを、溢れる気持ちを、どうしようもなく好きだという事を。どうにも出来ないほど、お前だけを求めているという事を。

――――浅ましい程に、俺はお前を求めているんだということを………

入り口に当たる硬い感触に、サザは安堵のようなため息を漏らした。そのため息を合図に、サザの中にソレが挿ってくる。入り口を押し広げ、媚肉を引き裂くように、奥へ奥へと。
「…ああぁっ…あああんっ!!」
中に楔が挿ってゆくたびに、ぴちゃぴちゃと水が跳ねる。それが顔に当たったが、もうそんな事気にもならなかった。それよりもこの熱を、硬さを、感じたくて。
「…あぁっ…ソーンっ…ソーンっ!!」
水を通して貫かれる身体は、何時もと違って何処かもどかしかった。繋がっているのに何処か遠く感じて…それが嫌で、キスをねだった。繋がっていたいから。ずっと、繋がっていたいから。
「―――サザ…お前は本当に……」
……可愛いな……ソーンバルケのその言葉は口内に飲み込まれてゆく。サザだけの中に落とされてゆく。それを感じながら、舌を絡め合った。息が出来なくなるほどに唇を貪り合った。身体を強く結びながら。身体をきつく、繋ぎ合いながら。
「…んんっ…んんんっ!…はっ…あああっ!!!」
唇が解放されると同時に、熱い液体が体内に注がれる。それを感じながら、サザも水中に自らの欲望を吐き出した。


――――手を、伸ばす。必死になって、手を伸ばす。その手を包み個でくれる指先は、力強く、そして暖かかった。



乱れる息を整えるよりも、今は唇を重ねたい。何度も何度も重ねて、そして安心する。繋がっている事に、触れあっている事に――――そばにいることに。
「…好き、ソーン…お前だけが…好き……」
全部見せたい。この想いを、もう隠さなくていいこの気持ちを。全部、全部、見せたいから。
「―――ああ、サザ…私もだ……」
だから呆れるほどに告げる。言葉にして告げる。好きだって、お前だけが好きだって。呆れるほどに…告げるから。

――――だから、そばにいて。ずっと、ずっとそばにいて。

もう一度見上げて、その碧色の瞳を見つめる。そこに映る自分の顔はひどく満たされていた。まるで自分とは思えないほど…しあわせそうな顔をしていたから。


生まれて初めて自分の事が好きだと思った。お前の瞳に映る自分の顔が好きだと…思った。