身体の境界線がなくなってしまえばいい。全てが溶けあって何もかもがぐちゃぐちゃになって、そして。そしてひとつになれればいい。そうすれば、きっと。きっと、淋しさという感情は消えるから。
――――どうしようもない程に俺はお前が欲しい。お前だけが、欲しい。
見かけよりもずっと柔らかいその髪に指を絡め、そのまま噛みつくようにキスをした。このまま全てを貪りつくしたいと、そんな叶いもしない願いを瞼の裏に思い浮かべながら。
「…ソーン……」
名前を、呼ぶ。自分でも驚くほどに濡れた声で。けれどももうそれを恥ずかしいと思う気持ちすらなくなっていた。お前の前では何もかもが無意味だと理解していたから。そう、何もかもが無意味だ。心を隠す事も、閉じ込める事も。
「―――随分と欲情した声だな…私が欲しいのか?」
耳元で囁かれる声が睫毛を震わせる。低く少しだけ掠れた夜の声が耳の奥まで忍び込み、そこから全身を駆け巡りその声に支配される。全身に浸透し、乱されてゆく。
「…欲しい、お前が…全部、欲しい……」
どんなに否定しようともその声が暴くから。どんなに目を閉じてもその瞳が見透かすから。だからもう何も隠す事は出来ない。この想いを、この欲望を。このどうしようもない程に醜い欲情を。
「お前だけが、俺は欲しいよ」
だから求める。全てを求める。お前の全部を、俺の全てで。髪の薫りから、爪先の冷たさまで。全部、全部欲しいから。
「我が儘だな。だが私はそんなお前の望みを…いやそれすらも私のものだ。お前の願いすらも私だけのものだ」
うん、そうだよ。全部俺はお前のものだ。それが俺の出した答えだ。全てを捨てて手に入れた唯一のものだ。だから、埋めて。俺の全部を、お前で埋めて―――お前だけを…愛しているから……。
「うん、俺は…お前だけのものだ……」
もう一度唇を重ねる。貪るように口づける。全てを奪うように口づける。全てを奪われるように、口づける。
心が乾く日があるのだろうか?こんなにもお前への執着で溢れた心が…乾いてそして穏やかに佇む日が来るのだろうか?
冷たい床にその身体を倒した。絡まるようにもつれ合いながら。そうして逞しいその肢体に跨れば、口許だけで微笑うお前の顔があった。俺はその顔だけで欲情した。ぞくりと、身体の芯が疼いた。
「私が欲しいのなら、私をその気にさせるのだな」
冷たいとすら思える碧色の瞳が俺を見上げてくる。その視線に射抜かれれば口許から零れるのは疼く溜め息だけだった。
「―――お前はもうその気みたいだが…な」
「…あっ……」
布越しに重なった俺自身は言葉通りに既に熱を持ち始め形を変化させていた。それを見抜いた相手が軽く腰を動かして自身を刺激してくる。そんなもどかしい程の動きですら、俺の身体は感じた。
「もっとして欲しいなら、分かっているなサザ」
優しいとすら思える声でそっと髪を撫でる相手の瞳は、無情とすら思えるほどに穏やかだった。全てを見透かす鏡のような瞳で、雌猫のように欲情する俺の顔を映しだすだけだった。
「…ソーン…んっ…ふっ……」
覆い被さる様に唇を重ねながら、相手の衣服を脱がしてゆく。熱を持ち始めた指先はボタンを巧く外せなかった。けれども必死になって外すと、逞しいその肉体を眼下に晒した。無駄なモノが何ひとつない研ぎ澄まされた筋肉。指先で力を込めて触れれば強い弾力で押し返される。その感触にすら、ぞくぞくした。そこから染み出す雄の匂いに眩暈すら覚えた。
「…ふぅ…んっ…んんん…んんんっ……」
唇を離せば唾液の糸が二人を結ぶ。それすらも欲しくて舌で舐め取った。そのまま濡れた舌を首筋に移し喉元に咬みつくように口づけた。そこから広がる野獣の薫りに身体の芯を熱くさせながら。
「…はぁっ…ぁ…ん…んんんっ…ふっ…んっ……」
喉元からくっきりと浮かび上がる鎖骨のラインを辿り、そのまま逞しい胸元に顔を埋めた。普段自分がされているように胸元を胸の果実を舌と指で辿る。けれどもその唇からは乱れた息は零れなかった。うっすらと目を開いてその顔を見つめれば、変わる事のない穏やかな鏡のような瞳が俺を映し出しているだけだった。そう頬が上気し目が潤み欲情している俺の顔を映しだすだけで。
「どうした?口が疎かになっているぞ。もっと私を楽しませろ」
傲慢とも言える口調で告げられる言葉、それすらも今の俺にとっては欲望を煽られるだけだった。煽られて、そして濡れるだけだった。
「出来るだろう?さあ」
命じられるままに唇をその肉体に落とす。舌と指で何度も嬲ってそのまま。そのまま下半身へと移動する。少しだけ形を変化させたソレに布越しに触れれば、熱が指先に伝わる。それだけで、心が悦んだ。その熱に、形を変化させられた事に。
「―――ソーン…んんっ……」
ズボンの金具を口に咥える。そのままジィーと音を立たせながら金具を降ろして、形を変化させたソレを外界へと曝け出させる。剥き出しになった肉棒はまるで凶器のようで、俺の背筋をぞくぞくさせた。そうだ、コレが。コレが俺を貫いて、俺の中を掻き乱す。みっしりと埋め込まれ、限界まで押し広げられて、そして―――
「欲しいのだろう?コレが。ならばどうすればいいか、分かっているな」
唇を熱いソレがなぞってゆく。濡れた唇を煽るように、辿ってゆく。もう何も考えられなかった。何も考える事が出来なかった。欲しくて、ソレが欲しくて…俺は夢中になってしゃぶった。口の中に含んで、熱くて硬い肉棒を味わった。
「んんんっ!…んんんんっ…ふっ…はっ…んんんんっ……」
口の中に広がってゆく絶対的な存在感が。喉の奥まで犯してゆくその圧倒的な存在感が。何もかもを狂わせ、何もかもを乱してゆく。脳みそまで熱に犯されて、何も考えられない。
――――ただ、欲しくて。お前だけが欲しくて。どうしようもない程に、欲しくて。
唇を離し自らのズボンを脱いだ。もつれる脚がもどかしかった。早く欲しいのに。お前が、欲しいのに。早く俺の中に挿ってきて欲しい。そしてぐちゃぐちゃに掻き回してほしい。俺の中に隙間すらなくなるほどにみっしりと埋めて、そのまま。そのまま引き裂くほど激しく俺を貫いてほしい。
「良く出来たな―――さあ、来い」
力強い腕が俺の腰を引き寄せる。そのまま何も準備していない俺の入り口に硬いモノがあてがわれた。その感触に俺は背筋をぞくぞくさせるのを止められなかった。止められない。これから自分がされる事を思えば…芯が疼くのを止められない。とめられ、ない。
「―――――っ!!!あああああっ!!!!」
腰を掴む腕が一気に引き寄せられ、ずぶずぶと肉棒が俺の中へと埋まってゆく。狭い入口が押し広げられ、奥へ奥へと。引き裂かれるような痛みと、そして意識を奪われるほどの快感。もう何も考えられない。考える事が出来ない。ただ、ただ快楽を、刺激を、追うだけで。少しでも逃したくないから夢中になって腰を振った。そのたびに擦れる媚肉の感触が、ぐちゃぐちゃと濡れた音が、ただ、ただ気持ち良かった。気持ち、イイ。頭が真っ白になる。熱に飲み込まれ、何も分からなくなる。ううん、もう。もう何も分からなくていい。このまま溶けてしまいたい。お前に溶かされて、どろどろになって。そして。そしてお前とぐちゃぐちゃに混じり合えたならば。そうしたら、もう。もうどうなってもいい。
「出すぞ、サザ」
「ああああああああっ!!!!」
注がれる熱が溢れたらいいのに。俺の中全てに注ぎこまれ、そして俺という器から零れるほどに注がれたらいいのに。そうしたら、俺はもう。もう淋しくないから。
――――お前がいないと、俺はもう。もう生きてはゆけない。お前と出逢う前の俺を思い出せない。だから、離さないで。だから、全部埋めて。
「――――愛している…サザ…この言葉をどれだけ言えばお前は満足するか?それとも永遠に満足せずに私を求めるか?…それならばそれでいい。お前が求める以上に…私のお前への想いは、尽きる事はないのだからな」
注いで、溢れるほどに注いで。その全てを埋もれさせても貪欲に私を求めるのならば、その全てに答えよう。答えて捕えて、そしてがんじがらめに縛りつけて離さない。離さない、お前を。お前は私だけのものだ。私だけの、ものだ。
意識を失ったその唇に咬みつくように口づけた。獲物を捕らえる野獣のように、激しく貪った。