子供の頃好奇心から始まった、その『イケナイ遊び』は、ふとした瞬間にそれを思い出させて、俺を悩ませた。
まだ何も知らなかった頃。そこには性という名の意味すら分からなかったまま。ただ。ただ子供の頃の『秘密を共有』するという甘い共同意識と、誰にも知られてはいけないという課せられた被虐の喜びだけが満たしていた頃。
―――共通の誰にも言えないという秘密を持つ事の甘美な思い。
ただあの頃は意味も分からず。ただあの頃は後ろめたい思いの喜びの為に。ただそれだけの為に、この遊戯に溺れていた。
…その意味に気づいた時には…もう戻れなくなっていた……
手が触れた瞬間に、あの頃の想いが。閉じ込めて封印していた想いが、呼び戻された。
「…パーンさん…やめっ……」
身体を引き寄せられ、服の中に手を忍ばせられる。ひんやりとした手が俺の肌に直接触れて、俺の背筋をぞくりとさせた。
「―――久々に逢ったんだ…お前の成長を確かめさせろよ」
「…やめっ…や…あっ……」
抵抗しようとして身体を捩るが、胸の突起に辿りついた指先に摘ままれると。きゅっと摘ままれると…背中から、記憶から、蘇って来るもの。蘇ってくる…あの感覚。
「…駄目…だって…やめ……あんっ…」
指の腹で転がされながら、上着を下から捲り上げられた。外界の冷たさに触れた肌が、ぞくりと震える。けれどもそれは身体中を滑る手のひらのぬくもりのせいで、次第に熱を灯していったけれども。けれども。
「…やぁっ…あぁ…パーン……やめろっ……」
「ふ、やっとあの頃のように呼び捨てになったな。そのまま呼べよ。そしてイイ声で鳴けよ」
「…やぁっ…駄目だ…もう…俺は…俺はあの頃の…あっ……」
舌が顎のラインを辿りそのまま鎖骨の窪みを吸い上げる。その感触に瞼が震えるのを抑えきれない。ぞくりと震えるのを。
「…はぁっ…あ…もぉ…あの頃の俺じゃ…ないっ…んっ!」
鎖骨を辿っていた唇が俺の唇に触れる。そのまま口を強引にこじ開け、舌が忍び込んでくる。それはあの頃と…あの頃の味と変わらない。変わら、ない。
秘密。誰にも言えない秘密の遊戯。
誰もいない小さな廃墟の中で。
誰も知らないその場所で。
誰にも知られずにふたりだけで。
ふたりだけの秘密の遊戯。
互いの服を脱がし合って、まだ未熟な性器をみせあった。大人になりきっていない、ソレを。
「こうして触ると…おもしれー…でかくなんだな」
「…あっ……」
お前の手が俺のソレに触れる。その手の感触が何とも言えずに気持ちよかった。ただ気持ちよかった。言葉にならない、言葉に出来ない感覚。ふわりと宙に浮いたような、そんな。そんな感覚。その手が触れるたびに。その手が辿るたびに。
「…あぁ…何か…なんか…へん…あ……」
身体からじわりと汗が噴き出してきて、肌が総毛立つのが分かる。鳥肌が立つような感覚。そしてその感覚とともに俺のソレはどんどん大きくなっていって。
「…あぁ…へん…へんだよぉ……」
「お前のソコから、零れてきてるぜ。白いモンが」
「…あぁ…あ……ああっ!」
どくどくと先端から零れて来る白い液体。流れて来て、そして強く握られればソレは飛び散った。
「――っきたねーな…でもどうだった?」
聴いてくるお前に俺は答えることが出来なかった。荒い息のままただ。ただお前を見つめるだけで。そしてそんなお前は。お前のソレも大きくなっていた。
「まあいいや、俺のも触れよ…いや…その口で舐めろよ」
「…な、何で…俺が……」
「いいから舐めろよ…そーすんとイイって…教わったんだよ」
そう言ってお前は俺の頭を掴んで、ソレを俺に咥えさせた。俺はただ。ただ言われた通りに舐めるしかなかった。
その後、口に苦くて生臭い液体が注がれて。
注がれてそれを飲めと言われて。言われて俺は、飲んだ。
そして俺はその時を境に、お前にこの廃墟に呼び寄せられて。
呼び寄せられて、お前のソレを。ソレを飲まされた。
「―――んっ!!」
髪を掴まれ、お前は剥き出しになった下半身を俺の前に出すと、そのまま突き出した性器を口に突っ込ませた。あの頃とは比べものにならない大きさのソレが、俺の口の中をみっしりと満たした。
「…んんんっ…んんんんっ!」
ぐいぐいと押し付けられ、喉元まで埋められる。あまりの苦しさに俺は何時しか目尻から涙を零していた。けれども。けれどもこの行為が止められることは無くて。
「キャンディーを舐めるようにって…教えただろう?ちゃんとしゃぶれよ」
「…んんっ…はぁっ…んんっ…ふっ……」
無意識に俺は舌を動かしていた。あの頃のようにお前のソレをしゃぶった。心は否定しているのに、身体が先に反応する。あの頃の被虐の中にあった悦びが、そっと。そっと頭を擡げるのが分かる。
――――こうして支配されていると言う事の…絶望の中の悦びが……
「…んふっ…はぁっ…ぁぁ…ぁ……」
「―――出すぞ…ちゃんと飲めよ」
「…んん…んっ――――っ!!」
…ドピュッと音とともにあの頃と同じ生臭い液体が…俺の喉を潤した……
初めての挿入はただの痛みでしかなかった。大量の血とともに、貫かれた痛みだけがただ。ただ俺の全身を支配した。
「―――ひぁぁっ…あぁ…痛いっ…痛いっ!……」
どろりと零れる血が俺の太ももを伝ってゆく。それでもその楔が俺の後ろから引き抜かれることはなかった。それどころか中のソレは次第に大きくなってゆき、益々俺を傷つけてゆく。
「痛いか?俺はイイぜ。すげー気持ちイイ」
「…あああっ…いあああっ!」
ずぶずぶと音を立てながら抜き差しをされる。それはただの暴力でしかなかった。無かった筈なのに。
俺の前に指が触れる。触れて握られて、弄ばれて。それが。それが、気持ちよくて。気持ちよくて…。
「…あああっ…はぁっ…あっ……」
何時しか俺はお前の動きに合わせて腰を振っていた。痛いはずなのに。痛いはずなのに、何時しかその痛みすらも、気持ちよくなって。気持ちよくなって、何も考えられなくなって。
「―――ああああっ!!!」
俺の中が熱い液体で埋められたと思った瞬間、お前の手のひらに同じモノを吐き出していた。
それからずっと。ずっとこうされる事が、俺の日課のようになっていた。
バカみたいに腰を振って、お前を求めた。そうされることが。そうされることが何よりも。
何よりもどんなことよりも、気持ちよくて。他に何も考えられなくなるくらいに。
何考えられなくなるほど、俺は。俺はこの秘密の遊戯に、溺れていった。
「あああああっ!!!」
深く突き入れられて、俺は喘いだ。忘れていた筈なのに、閉じ込めていた筈なのに。その肉の感触を俺は。俺はこんなにも、はっきりと覚えていた。俺の媚肉は刺激を逃さないようにとお前をきつく締め付け、そして。そして俺は無意識に腰を揺らしていた。
…刺激が欲しくて。もっと、もっと、刺激が欲しくて……
「相変わらずキツいな…いい身体だぜ」
「…あああんっ…あんあんっ!!」
パンパンと激しく腰がぶつかり合う音が。ぐちゅぐちゅと肉が擦れ合う濡れた音が。その全てが。その全てが気持ちよくて。気持ちよくて何も考えられなくなって…。
「――――あああああっ!!!!」
あの頃のように嬌声を上げて、俺はお前の欲望をその身体で受け止めた。
秘密の遊戯。ふたりだけの秘密。
誰も知らないふたりだけの秘密。
―――そう…誰も…誰も知らない…俺とお前以外……
「…パーン…どうして……」
手が髪に、触れる。それは優しい。ひどく、優しい。
「どうしてって?決まってんだろ?」
優しいから、ひどく。ひどく、切なかった。
「―――お前が俺のモンだって、確認するためだよ」
何故だろう?その言葉を聴いて。
その言葉を聴いて、ひどく。
ひどく満たされてゆく自分がここに。
ここに、いるのは?
――――ゆっくりと俺を…満たしてゆくのは?
「誰にも渡さねーよ…リフィス…俺だけの」
撫でる指先。抱きしめる腕。そっと降りてくる唇。それが。
「…パーン…俺は……」
それが。その、全てが。その全てが俺を。
――――俺を…満たして……
秘密。ふたりだけの秘密。
その事が何時も俺のこころを。
俺のこころを、満たしていて。
『ふたり』しか知らないという事が。
「…俺は…本当は…お前を待って…いたんだな……」