――――唇を重ねる寸前の睫毛が触れ合うこの瞬間が、何よりも大好きだから。


「何が可笑しい？」
唇が重なる寸前、零れてきた言葉にカリオンは思わず声を上げて笑った。それが益々不可解になってケインの片方の眉毛が微かに上がる。そんな些細な変化が嬉しくてまた口許に笑みが零れそうになってしまい、それを堪えて目の前の恋人の顔を見つめた。
「本当にお前ってカッコいいなぁって思って見惚れていた」
背中に廻した腕に少しだけ力を込めて告げる言葉に、今度は逆の眉が上がった。普段から無表情で無口な相手を解読するのには、こうやって些細な変化も見逃さない事が大切だ。そうは言っても何時も呆れるほどにその顔を見つめているから…大切も何もないのかもしれないが。
「―――全くお前は……」
その先の言葉も告げられなくても分かるようになった。呆れながらも少しだけ照れている事も、他の誰もが見破れなくても自分だけは手に取るようにその気持ちが分かるから。
「そんなカッコいいお前を独りいじめ」
ぎゅっと力を込めて抱きつけば、答える代りにそっと背中を撫でてくれた。こんな所も何よりも大好きだ。凄く凄く、大好きだ。
「お前は俺と居ると子供みたいになるな」
「うん、お前に甘えているから」
カリオンはもう一度大好きな顔を見つめて、そのまま瞼を閉じた。睫毛が触れて、そして唇が重なる。それはどんなものよりも甘いキスだった。


指を髪に絡めて楽しそうにくすくすと笑う。そんなカリオンを見ているのがケインは好きだった。普段の大人びた気真面目な表情よりも、こんな風に見せる無邪気な笑顔が。
「でも僕が甘えるのは、ケインが僕を甘やかすからだよ」
自分の前でだけ『僕』になるのも、屈託ない笑みを絶やさない事も、その全てがどうしようもなく愛しいものだった。だからこんな風に甘やかさずにはいられなくて。
「大好き、ケイン」
「ああ、俺もだ」
もう一度唇を重ねて、そのままソファーの上に押し倒した。ふわりとその瞬間栗色の髪が揺れて、それがひどくケインの瞳には煽情的に映った。
「…ケイ…ン…んっ…ふ…んんっ……」
薄く唇を開けば待ち構えていたかのように舌が忍び込んでくる。それを根元からきつく絡め取ってやれば、積極的に答えてくる。その様子を薄目を開いて見つめながら、ケインは誰にも分からないようにひとつ微笑う、唇を触れ合せながら。普段のきっちりと着こなした衣服の下にはこんなに淫らな身体が潜んでいる事を、知っているのは自分だけだから。
「…はぁっ…ケイン…もっと…キス……」
唇を離せばねだるように舌が追いかけてくる。艶やかに唇を濡らしながら。そんな淫らな誘惑を拒む事は出来ずに、再びケインは唇を塞いだ。衣服のボタンに手を掛けながら。
「…んんっ…んんんんっ！」
口内を貪りながら胸元の飾りを弄ぶ。指先で軽くなぞりながら、時々軽く爪を立ててやる。そのたびにびくんっと組み敷いた身体が跳ねるのを確認しながら、執拗に胸の飾りに愛撫を重ねた。
「…はっ…ふっ…んんんっ…あっ！…」
胸元だけを肌蹴させ、空いた方の胸の突起を口に含んだ。その瞬間零れた甘い悲鳴に満足すると、そのまま舌で先端を突く。もう一方の胸の果実を指で摘まみながら。
「…あぁっ…あんっ…ケイ…ンっ…あぁぁんっ……」
髪に指が絡まりそのまま自らに引き寄せてくるカリオンにひとつ苦笑すると、それに答えるようにより深い刺激を与える。こんな風に自らの欲望を正直に露わしてくる所も愛しかった。自分の前でだけ淫らになる彼が。
「――――っ！ああんっ！！」
一端胸から手を離すと、そのままズボンを下着ごと脱がせた。その先には待ちわびていたように小刻みに震えるカリオン自身が露わになる。その様子を楽しむ間もなくケインは口に含んだ。
「…あぁぁっ…ああんっ…やぁっ…んっ…ケ…インっ…だめっ……」
生暖かい舌に包まれソレは耐え切れずに、どくどくと脈を打った。口を窄めて吸ってやれば、先端からはとろりとした先走りの雫が零れてくる。それを舌で辿りながら、鈴口に軽く歯を立ててやる。それだけで、もう限界だった。
「…もぉっ…もぉ…出ちゃ…うっ……」
「―――構わん、出せ」
「…だめ…あっ…あ、あ、あ、…あああんっ！！」
先端をきつく吸われ耐え切れずにカリオンは、そのままケインの口の中に精液を吐き出した。


「…もぉ…ケイン…汚…い…よ……」
「お前のだ、汚くなんてない」
口許に伝う精液を指で拭いながら答える恋人に、カリオンはひどく欲情した。今果てたばかりなのに、その雄の表情に背筋がぞくぞくとする。このまま。このまま、食らい尽くされたいと、思った。
「…ケイン……」
自らの精液で濡れた指を口に含んで、舐め取った。指に舌を絡めて充分に湿らせて口から離すと、そのまま自らの秘所へとその指先を導いた。そこは既にこれから与えられるであろう刺激を思い浮かべひくひくと切なげに震えていた。
「…ココに…お前の……くふっ！」
ずぷりと濡れた音ともに長い指が忍び込んでくる。そのままくいっと指を折り曲げられて、中を掻き乱される。そのたびに貪欲な媚肉は指環きつく締め付けた。けれどもその抵抗すら楽しむかのように指は中を駆け巡る。くちゅくちゅと中を掻き回され、押し広げられて。
「…くふぅっ…はぁっ…あぁ…んっ……」
中がじわりと熱い。熱が這い上がってくる。けれども、身体は求めている。もっと、もっとと。もっと激しくて、もっと熱くて、もっと硬いモノを。欲しいと告げている。
「…ケイン…もう指は…いいから…指じゃなくてお前の……」
カリオンの言葉に答えるようにケインの指が体内から引き抜かれる。その代わりに秘所に充てられた硬くて熱いモノに瞼が震えるのを止められない。
「―――コレが、いいのか？」
「…うん…ケインの…ケインの…ソレが…いい…ソレが欲しい…よぉ…っ……」
「ああ、やろう。幾らでもお前に」
「――――っ！！あああああっ！！！！」
中に、挿ってくる。きつく閉じられた内壁を引き裂くように、硬く強いソレが。奥へ奥へと、挿ってくる。その圧倒的な存在感に喉をのけ反って喘いだ。
「あああっ！！ああああっ…ケインっ…ケインっ！！ああああんっ！！！」
腰を掴まれ、がくがくと揺さぶられる。そのたびに抜き差しを繰りかえすソレはより巨きく、硬くなってゆく。隙間なく埋められ、最奥まで貫かれる。擦れ合う媚肉が濡れた音を繰り返し、全身に痺れるような快楽を侵入させる。
「…もぉっ…ケインっ…もぉっ…だめっ…あああああっ！！！」
「―――くっ………」
ぐいっと腰を引き寄せられ、一番深い場所を抉られた。その瞬間に熱い液体が中に注がれる。それと同時にカリオンも二度目の射精を、した。


唇を重ねる前の睫毛が触れ合う瞬間が好き。
「…ケイ…ン…大好き……」
お前の一番優しい顔が見られるこの瞬間が。
「―――ああ、俺も。俺もだ…カリオン……」
瞼の裏にずっと閉じ込めておきたいこの瞬間が。


――――何よりも、好き。何よりも、大好き。お前の優しい笑顔が……


意識が途切れる前に触れる唇の甘さに、カリオンは無意識に微笑う。その瞬間がケインは何よりも好きだった。唇が重なるこの瞬間が。何よりもしあわせなカリオンの笑顔が。

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