年下の男の子★



俺の名はイリオス。ひょんな事からこのリーフ軍に寝返ってしまって、今現在こうして母国を裏切って戦っていたりする。
最初はちょっとだけ胸が痛んだが、あんなバカな上司に仕えるよりは遥かにマシだろうと思ったら何時しか胸の痛みも消えていた。そして。
そして何よりも俺のこのもやもやな気持ちを一気に吹き飛ばした出来事があった。
―――それは……

「どうした、ぼーっとして」
俺を見上げて来るその顔に、不覚にも見惚れてしまう。と言うかベタ惚れしているので、当然と言えば当然なのだが。
「あ、いや何でもねえよ」
あんたの事考えてましたなんて、なんかこっぱずかしくて言えない…いや、言ってもいいんだけど。だけどそうしたらまた頭撫でられて年下扱いされそうだしなぁ。
「くす、まあいいけど。それよりもイリオス、ケインが呼んでいたよ。君達って何時の間にそんなに仲がよくなったんだい?」
同じ穴のムジナだからさ、と言い掛けて止めた。やっぱりあんたにガキ扱いされてしまいそうだから。そんなのはイヤだ。俺はあんたを護れるくらい頼られるくらい強い男になりたいんだ。
「フレッドさん」
「ん?」
それでもつい『さん』付けをしてしまう自分が恨めしい…。何時になったら俺はあんたを呼び捨て出来るようになるんだろうかっ?!
「好きだ…」
そう言って手を掴んでそのまま抱きしめる。ここまでこぎつけるのにどれだけ掛かったのかと思うと、自分の努力にガッツポーズしてみたくなる。大体俺ってこんなに健気だったか?
「私もだよ、イリオス」
あんたは優しい笑みを浮かべて俺を見上げる。綺麗な、笑み。何でこんなにあんた美人なんだよっ!
あんたの腕が俺の首に絡まって。そして。そして小さなキスをくれた。それだけでしあわせを噛み締めている俺って…けっこう単純なのかもしれない。


実は一目ぼれだったりする。
初めて出逢った時から。
その淋しげな表情に目を奪われて。
どうしたら。
どうしたら笑ってくれるのかとそればっかり考えて。
あんたの事がずっと。ずっと頭から離れなくて。
オルエン様の部下だと聞いた。
戦死したオルエン様の。
ああだから。
だから笑わないのかと。
笑えないのか、と。
だから俺は。
俺は精一杯頑張った。
生きているあんたがしあわせになる事が死にゆく人への供養だと。
そうやって、俺は。
俺は何時でもあんたの傍にいた。
あんたに笑って欲しくって一生懸命に。
そして。そしてあんたが初めて笑ってくれた。

『君に逢えてよかったよ…イリオス…』

――と。それから俺達の中で何かが変わって。
変わって今の状態でいるんだけれど。
けれども、俺は。
…俺は……


「よお、ケイン」
ケインは相変わらず木の下で本を読んでいた。こいつは大抵ここにいる。まして自分から俺を呼び出したならば。
「イリオスか」
「なんだよ、それは。お前が呼んでいるって聴いたからわざわざ来てやったのにっ!!」
「いや、お前が俺を捜していたと聴いたからな」
相変わらずな無表情。と言うかこいつの表情なんてまともに見た事がない。何時もこうだ。何時もこの顔をしている。こいつの別の顔を見たかったら…いや、見れるのは世界で一人だけなんだが…。
「あ、そうそうそうなんだよっお前に相談があってっ!」
「…相変わらず自分勝手な奴だな…そんなんじゃフレッド様に捨てられるぞ」
「う、うるせー俺達はらぶらぶなんだっ!!お前こそカリオンにそんな無愛想だと何時か捨てられるぞっ!!」
「お前にだけは言われたくない」
相変わらずの無表情ででもその言葉の節々には自信さえ感じられる。同じ穴のムジナ…恋人は同じ年上同士それなのに。それなのに、一体この差は何なんだっ?!!
「それよりも相談事があるんだろ?」
無駄な言葉を一切喋らないケインの一言。一体普段どんな会話をカリオンとしているのか謎だ。けれども…けれども俺らよりも遥かにこいつらは…こいつらは……。
「…あ、いやその…そのだな…」

「男同士って…どうやって……するんだ?………」

俺の言葉に、珍しくケインの表情が変化した。それは本当に微妙な変化だったが。けれども。けれども確かに驚いて、いる。
「―――お前ら…まだ、なのか?」
その語尾には―――信じられないと明らかに付いている。ってそうだよっ半年経った今も俺は、俺はまだ手を出していないんだ…。
「う、う、うるせーーっ!!俺達は…俺達は純愛なんだっ!」
「……純愛なら永遠に手を出さなければいいだろう」
「そ、それはいやだっ!!俺だって一応成人男子だしこうやっぱり…」
「―――分かった、ついて来い」
そう言ってお前は俺の手を引っ張って歩き出す。ま、まさか俺がヤラれるって事は…な、ないだろうな……。


―――そこで待っていろ。と言われて俺は窓の前に立たされた。何故?と思う間もなく、その窓の先の室内にケインとカリオンが現われる。
「…ケイン…」
窓は隙間が空いているせいで中の声が丸聞こえだった。それにしてもカリオンもケインもふたりとも普段とは想像付かないくらい甘い顔をしている…って俺もフレッドさんの前ではこんな顔しているんだろうか…。
「カリオン――愛している……」
「…んっ……」
いきなりキスを始めやがった。それも、それも舌まで絡めあっている。畜生っ俺はまだそこまでした事ないんだぞっ!!
「…ふぅ…んっ……」
ぴちゃひちゃと音を立てながら舌を絡め合う。そしてそのままケインは器用にカリオンの服を脱がしてゆく。
上半身を全て脱がすと、そっとベッドへと押し倒した。そしてそのままカリオンの胸の飾りに指を這わせる。
「…あっ…あんっ……」
キスから解放されたカリオンの唇から甘い声が零れる。それは普段の彼からは想像も出来ない声で。
「カリオン」
「…ケイン…あぁ……」
空いている方の胸を口に含んで、そしてそのまま両の突起を玩ぶ。そうしながらも何時しかもう一方の手がカリオンの下腹部へと辿りついていた。
「…やぁっんっ……」
ケインの手がカリオン自身に絡まるとそのまま手のひらで包み込んで、扱き始める。それだけでケインの腕の下にいたカリオンの身体がぴくんぴくんと震え出す。そして。
「…ああ…ダメ出ちゃ…う…」
「いいよ、出して」
その言葉を合図にケインはより一層カリオン自身を強く握り締めた。その瞬間。
「ああっ!」
―――カリオンはケインの手のひらに白い欲望を吐き出した……。


はっきり言ってこれから先は俺には…俺には口に出来なかった。
けれども。けれども取り合えずどうしたらいいかだけは分かった。
―――分かったけど…刺激が強過ぎる…。
あんな色っぽいカリオンと、そしてケインの睦言に俺は俺は不覚にも最後の方は半分腰を抜かしてしまった…けれども。けれどもこれで。これでっ!

―――フレッドさんを押し倒せるっ!!!


「男同士の熱い友情?」
「気付いていたのか?」
「気付いてた。でも今回は許してあげる」
「すまない、カリオン」
「いいよ、僕は」

「僕はそんなお前が好きなんだ」


「お帰り、イリオス」
柔らかい笑顔。本当にこの笑顔が俺は大好きで…大好きだから。
「ただいま、フレッドさん」
「ケインとは何を話ていたの?」
ずっとずっと見たかったあんたの笑顔。今はこうして自然に。自然に俺の前にその笑顔を向けてくれる。向けてくれる、から。
「それは…フレッドさん…」
「何?」
見上げてきた瞳を瞼の裏に焼きつけて、俺は。俺はそっとその唇を塞いだ。何時もならここまでだが、今日は。今日こそはっ!
「…フレッド…さん……」
「…あ……」
唇を開いたのを見逃さずにそのまま舌を絡めた。そしてそのまま根元をきつく吸い上げる。
「…あ…ふ……」
あんたの手が俺のシャツをきつく握り締める。けれども舌は逃げなかった。だから俺は。俺は―――。
「…あっ……」
そのままベッドの上に押し倒して、そっとボタンに手を掛ける。そこに来てもあんたは拒否しなかった。それどころか俺のが脱がしやすいように身体の位置を微妙にずらしてくれる。
「…イリオス……」
「あ、あの…フレッドさん…」
バカみたいだが逆に。逆に押し倒した俺の方がかちかちに緊張してしまっている。服を脱がす手が微妙に震えていたりする。
「…い、いいのか?……」
「いいよ、イリオス。私もずっと」

「…ずっと…待っていた……」

その言葉に励まされるように俺は。俺はもう一度その唇に口付けて、そして今度はスムーズに服を脱がす事が出来た。そして、そのままゆっくりと身体中に唇と指先を落としてゆく。
「…あ…んっ……」
触れるたびにあんたの口から甘い吐息が零れる。時々的を得たようにぴくりと震えるのは、そこが弱い部分なのだろうか?だったらちゃんと覚えておかないと。
「…はぁ…ああ……」
―――全部、覚えておかないと……


「いい、フレッドさん?」
「こんな時までさん付けなのか?」
「あ、そのじゃあ…」

「―――いい?フレッド……」


そのまま俺は、あんたの中に入っていった。そこは熱くて火傷しそうで。それでも。
それでもやっと。やっと俺達はひとつになれたから。
それが。それが何よりも嬉しくて。嬉しくて俺は無我夢中であんたの名前を呼んでいた。


―――これでやっと…ひとつに…なれた……。


隣ですやすやと眠るそのまだあどけない表情が残る顔を見つめながら、フレッドはひとつ笑った。そしてそっと。そっとその髪を撫でながら…

「こんなに頑張ってくれて…カリオンに感謝しないとな」


それは、年上の恋人達だけが知っているひ・み・つ。