―――貴方は、獣。
鋭い牙と爪を持った…何よりも綺麗な獣。
その牙に噛み切られたい。
その爪に抉られたい。
そして。
そして残酷に食らい尽くされたならば……
一目で、貴方を欲しいと思った。
「…ガルザス……」
口付けは噛みつくように激しくて。微かに香る体臭は雄の香りで。その全てに私は狂わされる。
「…ガル…ザス……」
ねだるように名前を呼べば、貴方はそれに答えるように口付けをくれる。けれども。けれどもそこに愛はない。貴方の口付けは激しいのに、貴方の唇は冷たい。
―――分かっている、これは『契約』だから。そこに愛なんて甘いものは存在しないから。
「お前は…本当に淫乱だな……」
口付けから離れた先に零れる言葉に、甘い囁きなんて存在しない。それで、いい。それでいいから。優しい言葉なんていらない。貴方に冷たくされたい。冷たく、されたい。
「そうです、私はただの淫乱です。だからその腕で、抱いて……」
その大きくて太い指先で、私の身体を滅茶苦茶にして。何も考えないように。何も何も考えられないように。
「抱いて、犯して、そして。そして食らい尽くして」
綺麗な、獣。私だけの獣。決して飼いならすことの出来ないしなやかな野獣。けれども。けれどもこうしている間だけは、貴方は私のもの。私だけの、飼い犬。
「――ならば望み通りに…これも契約だからな……」
そう言ってまた噛みつくように口付けられる。このまま。このまま噛み切られたいと、思った。
―――貴方が、欲しかった。
初めて貴方と出逢った時から。
貴方が欲しくて、欲しくて。
どうしても手に入れたくて。
それは、衝動。それは、衝撃。
綺麗な獣。綺麗な野獣。
決してその爪と牙は他人に懐く事はない。
その弧高な瞳は決して他人を見つめることはない。
それでも。それでも、欲しくて。
欲しくて、欲しかったから。
―――私は貴方を、買った。
金で、買った。
それがかりそめのものだとしても構わない。
構わないから。構わないから。
その腕が、私を抱いてくれたのならば。
浅はかな想い。
忘れたいから、逃げた。
逃げようとして捕らわれた。
――その瞳に。
「ラインハルト様、だったっけ?」
貴方の手が私の胸の果実に触れるとそのままきつく、摘まれた。乱暴な愛撫に、私の身体は火を灯される。
「お前の前の飼い主は」
「…はぁっ…あ…」
――そうです、と言おうとしてそれは言葉にはならなかった。限界まで張り詰めた胸の突起に爪を立てられ『かりり』と抉られたせいで。
「飼われていた反動で、俺を飼うのか?」
指が胸から脇腹に滑り、そのまま私の弱い箇所を的確に攻めてゆく。無駄のない行為。確実に私を追いつめてゆく指。でもそれが。それが、私が何よりも求めているもの。
「…あぁ…違う……」
「じゃあ何故?」
言葉を綴りながら、貴方は私の胸を咥えた。舌でつつきながら、歯で噛む。その痛みすら私にとっては快楽だった。溺れそうなほどの快楽。
「…何故って…貴方が…欲しかった…から…」
溺れて、流されて。そして何もかもが見えなくなりたい。胸に積もる罪悪感も、胸を抉る罪の意識も。その全てを。
「…欲しいんだ…貴方が……」
髪に指を絡めて、胸元により一層引き付けた。欲しいから、もっともっと貴方の愛撫が欲しいから。
「…欲しいの…貴方が…」
その欲求を貴方は拒むことは決してない。貴方は私に買われたのだから。だから、決して。
―――それだけが。その事実だけが、私の唯一の逃げ道……
貴方を、愛したの。
何よりも綺麗な貴方を。
貴方を愛したの。
最初は逃げ道だった。
ラインハルト様を忘れたくて。
忘れたいから、貴方に逃げた。
その瞳が何も映さないと分かっていたから。
このひとは決して誰のものにもならないと分かっていたから。
だから、貴方の腕に逃げた。
貴方なら決して。決して私を優しくしないでしょう。
貴方なら決して。決して私を同情しないでしょう。
ただ。ただ命じられたまま、金の為に。
金の為に私を抱いてくれるでしょう?その冷たい瞳のままで。
だから。だから貴方の腕に溺れた。
そんな貴方が欲しかった。決して私のものにならない貴方を。
なのに、何時しか。
何時しか、私は。
私は貴方を追い掛けていた。
決して誰のものにならないと分かっている貴方を。
貴方を手に入れたいと思っていた。
―――貴方を、愛している。
そうこれは歪んだ、愛。
歪んで、崩れた愛。
でもそれでいい。
そうでなくてはいけない。
貴方が私を愛していないと言う事実だけが。
それだけがラインハルト様への唯一の。
唯一の罪滅ぼしだから。
貴方が私を愛さないと言う事実だけが。
―――私のただひとつの、贖罪。
「…んっ…ふぅ……」
貴方の逞しいソレを私は夢中になって口に咥えた。熱くてそして硬いソレを。
「…ふ…んん……」
口の中でそれが硬度を増してゆくのがわかる。どくんどくんと脈を打ち始めたのも。それが。それが、嬉しい。私の口の中で貴方が変化してゆく事が。
「このまま、出してもいいのか?」
髪を掴まれて貴方にそう聴かれた。潤んだ瞳で見上げる私の顔は、ただの。ただの雌猫でしかないだろう。盛りのついた雌猫でしか…。
「…顔に…掛けてください……」
先端を吸い上げるととろりとした先走りの雫が零れてきた。私はそのまま指と舌で、そこを愛撫する。その瞬間、私の顔面に熱い液体が注がれた……。
ぽたり、ぽたりと。
顔から滴る白い液体を。
私は指で掬い上げ。
そして口許へと運ぶ。
ぴちゃぴちゃと音を立てながら。
その液体を飲み干した。
「―――今度は…私も満足させてください……」
達したばかりなのに、貴方のソレは充分な硬度を保っていた。触れただけで熱くて、そして硬いソレが、私は欲しくて堪らない。
「そのまま挿れるのか?なんの準備もせずに…本当に淫乱だな……」
貴方の逞しい身体に跨って、なんの準備もしていない自分のソレにあてがった。入り口はその熱さと硬さを求めてひくひくと、淫らに蠢いている。
「―――ああっ!!」
そのまま腰を落として、その衝撃を受け入れた。その途端、身体を真っ二つに引き裂くような痛みが私を襲った。けれども。けれども構わず私はそのまま身体を沈めていった。
―――引き裂かれ、たい。貴方に引き裂かれたい……。
「…あああっ…はぁ……」
やっとの事で全てを飲み込むと、私はそのまま腰を動かし始めた。ぴりぴりと引き裂かれる音がする。達してもいないのに私の器官からは液体が流れる。血、だった。限界以上の衝撃を受けたそこからは血が流れ出していた。それでも。それでも、私は構わなかった。
ただ今は。今は、貴方が欲しい。その凶器で私を引き裂いて欲しい。奥まで、もっと奥まで貴方でいっぱいになりたい。
「…ああんっ…ああっ…」
無が夢中で腰を振る私に、貴方の大きな手が添えられる。それだけで。それだけでイッてしまいそうになる。
「もぉ…ダメ…あああっ!!」
貴方の液体を体内に感じる前に、私はその腹の上に白い液体をぶちまけた。けれども。けれども私はまだ腰を振るのを止めなかった。
もっと。もっと、もっと。貴方が欲しいから。奥まで、もっと奥まで。
―――紅い色と白い色が交じり合うまで、私は貴方から身体を離さなかった。
噛み切って。
貫いて。
壊して。
貴方に、食らい尽くされたい。
全てを。全てを。
―――貴方に全てを取り込まれたい……。
愛している、から。
愛しているの。
全てが奪われたの。
もうどうにも出来ない程に。
―――もう何処にも戻れないほどに……。
「―――お前に金で買われていても…」
お前にはもう俺の声は聴こえないだろう。快楽の波へと飲まれてしまったお前には。
「…ああ……はぁ…」
もう聴こえない、だろう。
「…飼っているのは…」
「――俺のほうだ………」
どこまでも淫乱で、綺麗な獣を飼っているのは……