瞳の真実



ねえ、貴方の瞳に何が映っているの?
―――お前の顔だよ、リノアン。
本当に私だけを映していてくれる?
―――映している、お前だけ…

見つめる事しか、俺には出来ないから。

大きな、手。全てを包み込む優しい、手。
私だけの、ものならば。
私だけが手にいれることが出来たならば。
そうしたら。
そうしたら、淋しくないのに。

「…リノアン…」
瞳は告げている。愛してると。言葉に出来ない想いだから、瞳だけで告げる。それしか俺には出来ないから。それにしか俺には許されないから。
「…ディーン……」
言葉になんてしなくてもいい。言葉なんていらない。貴方の気持ちは、貴方の想いはこうして私に伝わるから。何も、言わなくてもいいの。
私だけが知っている、貴方の真実。私しか知らない貴方の真実。そして。
そして私の真実も貴方しか、しらない。
「空を、飛びたいな」
「リノアン?」
「貴方の竜で空を飛びたい」
手を、差し出した。そっと差し出した。その指が微かに震えるのを押さえ切れない。子供じみているなと思った。それでも。それでも私は貴方への想いにどきどきしていた。
この小さな胸をときめかせてした。
「――死ぬかも、しれない」
「死んでもいいわ。貴方となら、怖くない」
「…怖くないか?……」
「怖くないわ、ディーン」
微かに震えるお前の手をそっと。そっと握り締めた。小さな手。俺の手のひらにすっぽりと納まってしまう小さな手。そして何よりも愛しいその手。
―――ただひとり俺が、愛したひと。

貴方と、死ねるのならば。
どんなに幸せだろうか?
自分の運命と、宿命全てを捨てて。
何もかもを捨てて、貴方と。
貴方とともに死ねたならば。
それが私の『女』としての幸せだから。

でもそれは、夢。
淡く優しい儚い夢。
私は死ねない。
運命から脱け出せない。
そして。
そしてターラの人々を見捨てることは出来ない。

お前を背中に感じながら、空を飛んだ。
この自分だけの空間に。自分だけの世界に。
今、お前をこの世界に踏み入れさせた。
お前、だけ。
お前だけをこの蒼い空に。

「…気持ちがいい……」
揺れる長い髪。そこから零れる甘い香り。それが俺の鼻孔をつつく。その、甘やかな香りが。
「これがディーンの見ている景色なのね」
「怖くないのか?」
「どうして?貴方といるのに。貴方が傍にいるのに」
後ろから抱きつく手に力がこもる。このまま永遠にふたりで空を飛んでいられたならば。そうしたら、ふたり。ふたりもう罪に濡れる事もないのに。
―――許されない想いなのか?ただお前を好きになっただけなのに。
「それに貴方と同じ場所にいる」
好きで、好きで。どうしようもない程に好きで。消化出来ない想いはただ。ただお前を護ると言う言葉で擦りかえられる。
「…貴方と同じ空気を吸っている……」
―――それ以外、俺に出来る事はないのだから……

貴方と少しでも。少しでも傍にいたいから。
少しでも貴方と同じものを感じたいから。
だから。だから離れ離れになったとしても。
貴方を感じていられるように。
泣いたりしないように、淋しくないように。
独りで、いられるように。

貴方を遠くでも、感じられるように。

「…ディーン…今この瞬間だけは…」
「リノアン?」
「…私達だけの…ものですよね…」
「―――ああ」
「私一生この景色を忘れない。貴方とともに」
「俺も…リノアン……」

「お前と見た空は…俺の永遠だ…」

愛していると、言葉にしなくても。
貴方だけを愛していると、声に出さなくても。
伝わるよね、貴方には。
…私の気持ちが…伝わるよね……。

愛していると、言葉にしなくても。
お前だけを愛していると、声にしなくても。
お前には分かるだろう。
…俺の想いが…伝わるだろう……

空の上、死んでもいいと思いながら。
思いながら貴方の瞳を見つめた。
その先に見える真実は。
私と貴方しか知らない。
私と貴方だけが知っている。
瞳の、真実。

たとえ運命がふたりを引き裂いたとしても、淋しくない。
だって私は貴方の事を考えて。
そして貴方は私の事を考えてくれるから。
だから、淋しくなんてない。

この瞳の真実だけが、全てを知っているから。