―――それはただ一度だけの。ただ一度、だけの。
赦されぬ想いを胸に抱き、そして永遠の眠りにつくのならば。
それならば、一度だけでいい。ただ一度だけの夢でいい。
貴方の腕に抱かれ、そして指を絡めて眠りたい。ただ、それだけ。
…ただそれだけのことが…どうして私達はこんなにも…遠いのだろうか……
華奢なその肩を震わせながら、それでも自分を真っ直ぐに見つめる瞳。真っ直ぐに自分を見つめる瞳。泣けない瞳で。零れそうになる涙を必死で堪えながら。
「…私は…誰のものにもなりません……」
口許が微笑う。けれども瞳は微笑ってはいなかった。それをディーンは痛いほどに分かっているから、その先の言葉を告げられないでいた。痛い程に、分かっていたから。
「誰のものにもなりません。永遠に私は独りで生きてゆきます」
「――――リノアン……」
名前を呼ぶのがやっとだった。彼女の必死の、決意の真意は一番自分が知っている。他の誰よりも自分だけが、知っている。そう何時も誰よりもそばにいた。誰よりも近くにいた。そして誰よりも…彼女を見つめてきたのだから。
「…独りで生きてゆきます…それが……」
その先の言葉を聴きたくないと思い、聴きたいと切望する。それが自分の本心だと分かっているから、ディーンは何も言えなかった。いや何も言える筈がないのだ。自分には。自分、には。
そして告げられる彼女の言葉に、どうにも出来ない幸福と絶望を感じる以外には。
「…それが私の…貴方への愛の証だから……」
言葉にした事はなかった。言葉に出来るはずがなかった。
どんなに愛しても、どんなに愛されていても。自分には、そして。
そして彼女には告げられるはずのない想い。それでも。
それでも気付いていた。それでも分かっていた。ふたりが結ばれていた事を。
どんなに言葉にしなくても。どんなに言葉にならなくても。この指の糸が。
見えない小指の紅い糸が、ふたりをきつく結んでいる事を。
けれども今それを。それを最期だからと、彼女は言葉にした。声に、出した。
「…リノアン…俺は……」
「…もう貴方と生きている間に逢えないかもしれない…」
「―――俺は…リノアン……」
「貴方がアリオーン様の元へ戻ったら…もう二度と」
「………」
「だからお願い…ディーン…お願いだから私を受け入れて……」
震える指先を胸元に持ってゆくとリノアンは自らの服を脱ぎ出した。呆然と自分を見つめるディーンの前で生まれたままの姿になると、そのまま。そのまま腕の中に飛び込んでいった。
「駄目だ、リノアン…こんな事は……」
震える細い肩。透けるほどの白い肌。微かに零れる吐息。そのどれもこれもがディーンには狂おしいほど愛しいものだった。誰よりも何よりも愛した少女だった。アリオーンの命で彼女を護る筈だったのに、何時しか自分自身が彼女を護りたいと願っていた。
このただひとつのかけがえのない命を、この手で護りたいと願っていた。
アリオーンの婚約者だからと。主君の大切な人だからと、必死になって想いを抑えてきた。けれどもその想いは結ばれていた。決して言葉に出さなくても、言葉にしなくても。彼女自身の瞳が全てを語っていた。
だから離れようと思った。アリオーンに戻ってくるようにと言われた時、全てを捨てて戻ろうと。この想いを永遠に胸の奥に閉じ込めて、そして。そして自分は主君に仕える騎士として生きてゆこうと。
「…一度だけでいいの…私をただの女にして…ただの独りの女に……」
さよならだと。永遠のさよならだと、そう。そう決めて、そしてこの場所に来た。別れを告げる為に。それなのに。
「…リノアン……」
それなのに今こうして。こうして腕の中にあるぬくもりが何よりも愛しく、そして何よりも苦しく。激しいまでの想いが身体を駆け巡って。駆け巡る、から。だから。
「…愛しています…貴方だけを……」
耐えきれずにリノアンの瞳から涙が零れ落ちた。それが彼女の必死の決断だと、最期の我が侭だと。最期の…一度だけの願いだと伝えたから。
「――――俺もだ…リノアン……」
一度だけ、告げた。永遠に閉じ込めるこの想いを、一度だけ。そしてディーンは耐えきれずにその愛しい身体をかき抱いた。強く、強く、抱きしめた。
一度だけで、いい。一夜の幻でいい。夢で、いい。
貴方を感じたかった。ただの私として貴方を感じたかった。
ただそれだけ。それだけだった。
――――私はただの女になりたかった。貴方を愛したただの女に。
「…あっ……」
ディーンの無骨で大きな手がリノアンの胸の膨らみに触れる。まだ少女の瑞々しさを残す身体は、触れるだけで指を押し返す弾力があった。
「…あぁっ…ディーン……」
大きな手が乳房を全て包み込み、柔らかく握る。その感触にリノアンの長い睫毛が震えた。ぴくりと、震えた。
「…リノアン……」
「…ディーン…好き…貴方だけが…好き……」
そっと身体を床に押し倒し、ディーンはリノアンを見下ろした。微かに上気した頬と、潤んだ瞳。それが迷う事無く自分を見つめている。見上げて、いる。それはこの世のどんなものよりも綺麗だった。綺麗で、哀しかった。
「…リノアン…俺もだ…俺もお前だけが……」
唇を重ねる。それすらも二人には許されない行為だった。だからこそ、貪った。飽きるまで貪った。舌を絡めあい、激しく口中を弄る。くちゅくちゅと濡れた音を響かせながら。
「…んっ…んんっ…ふぅっ……」
リノアンの口許から飲みきれない唾液が伝う。それでも二人は口付けを止めなかった。止められなかった。ずっとずっと願い想っていた相手だからこそ、溶けるまで…蕩けるまで貪り合いたかった。
「…はぁっ…あっ……」
全ての吐息を奪われ唇が痺れて感覚が麻痺する頃になって、やっと。やっと二人は唇を離した。それでも零れ落ちる唾液を、ディーンは指先と舌で拭う。そうする事で触れ合っていた。触れて、いた。
「…あぁっ…あ……」
再び胸に指が這わされる。乳房を鷲掴みにし、尖った乳首に舌で触れる。桜色の突起が舌で突つくたびに朱に染まり、そのまま痛い程に張り詰めていった。
「…ああんっ…あっ…くふっ…んっ……」
胸の谷間に舌を落とす。そこにきつく口付けた。胸の突起を指の腹で転がしながら。消えないようにと、痕を付けた。そしてそのまま舌と指を下腹部へと滑らせてゆく。時折的を得たようにぴくりとリノアンの身体が跳ねる個所を、集中的に攻めながら。
最期だからと。最初で最期だから、と。ディーンはリノアンの全てに触れた。自分が知らない個所など何処にもないように。何処にも、ないようにと。全ての肌に指と舌を落とす。離れても、永遠に逢えなくても、自分の全てで彼女を覚えていられるようにと。
「―――ああんっ!!」
脚を開き薄い茂みの中に指を忍ばせた。その途端にぴくんっとリノアンの身体が跳ねる。蕾の入り口をなぞりながら、指を埋めてゆく。ちゅぷりと濡れた音を立てながら。
「…ああっ…あぁんっ…ディーンっ!……」
初めて与えられる刺激にリノアンの身体が痙攣をした。ぴくぴくと跳ねて、目尻から涙を伝わせる。口を閉じようとしても喘ぎが零れて叶わずに、口許には自然と唾液が零れて来た。
「…やぁんっ…あぁ…熱い…はぁぁっ……」
指が感じる個所を探り当てソコを集中的に攻め立てた。剥き出しになったクリトリスを指で摘みながら、媚肉を押し広げる。そのたびにリノアンの脚ががくがくと震え、睫毛が震えた。
「…熱い…っソコ…熱いよぉ…あぁっ…あっ……」
「リノアン」
「…あぁんっ…あんっ…はぁぁっ…んっ!」
名前を呼ばれるだけで身体が感じる。じわりとディーンの指が湿り、蜜が蕩け出した。それをディーンは指の腹で掬うと、リノアンの秘所に塗りつける。媚肉に擦りつけ、何度も中を掻き乱した。
「…ああっ…もぉっ…もぉ…私…あぁぁっ……」
その刺激にリノアンの腰が淫らに蠢き、目尻から零れる涙は首を左右に振るせいで髪先に散らばった。そんな彼女の髪をディーンはそっと撫でて、そして。
「…はぁっ…あっ……」
指を引き抜くと、自らのズボンを下着ごと下ろして、拡張した自身を取り出した。リノアンの膝を立たせて、入り口にソレを当てる。その硬い感触にびくんっとリノアンの身体が跳ねた。
「…リノアン…いいか?……」
入り口に何度かソレを擦り合わせながらディーンは聴いた。その言葉にこくりと小さくリノアンは頷くと、震える両腕をその背中に廻す。広くて大きなディーンの背中に。
「…来て…ディーン…早く…貴方とひとつになりたい……」
きつくしがみ付き、リノアンは襲ってくる衝撃に必死で耐えた。ずぷりと濡れた音ともに指とは比べ物にならない肉の塊がリノアンの中に入ってくる。先端を埋め込んだだけなのに、初めての挿入はリノアンに激しい痛みをもたらした。それでも必死で耐えて、リノアンはディーンを迎え入れる。
「…ひっ…あああっ!…あああっ!!」
額に汗を掻きながら、瞳から痛みの涙を零しながら、それでも必死に。必死に愛する者の証をその身に埋めようとする。必死に。
先端部分のくびれた個所まで埋めこんで、一端ディーンは動きを止めた。リノアンの苦痛が過ぎ去るのを待つために。激しい痛みが収まった頃を見計らって、そりのまま一気に残りの竿をディーンは埋め込んだ。そのたびにずぷずぷと音がし、処女膜が破れる音が…リノアンの身体に響いた。
「…あああっ…あぁぁっ…はぁぁぁっ!!!」
ディーンの背中に深く爪を立て、リノアンはその痛みに必死で耐えた。そんな彼女を少しでも助けるように、ディーンは何度もリノアンに口付ける。顔中にキスの雨を降らせて、少しでも痛みを和らげるようにと。
「…リノアン…平気か?……」
耳元で囁かれる優しい声に、リノアンの身体は感じた。物理的な痛みはまだ消えなかったけれど。けれども言葉に、声に、キスに感じた。精神的な想いが、女の部分を感じさせた。
「…へぇき…だから…だから…ディーン…私だけの……」
「ああ、リノアン。お前だけのものだ。ずっと、俺は…俺はお前だけの…ものだ……」
「ああっ!ああああっ!!」
腰に手をかけられ、リノアンの身体が揺さぶられる。楔がリノアンの中で抜き差しを繰り返し、そのたびに硬く太くなってゆく。揺さぶられるたびにリノアンの胸が揺れ、髪が乱れて。
「…あああっ…ああ…ディーンっ…ディーン…あぁぁっ!!」
突き刺さる爪が、背中に突き刺さる爪から。そこから紅の血がぽたりと零れた。それでもディーンは動きを止めなかったし、リノアンも止めて欲しくなった。痛みは何時しかひとつになれたと言う悦びの前で消えてゆき、愛しているという想いで満たされた。
零れる悲鳴は甘いものへと変化し、目尻から零れる涙は痛みではなく快楽の涙へと変化した。そうしてふたりは、感じた。感じていた。ひとつになっているこの瞬間を。狂うほど願い、そして想っていた。この愛が今、成就した事に。ふたりがひとつになっている事に。
…永遠とも思える間、ずっと願っていたことが…今この瞬間に叶えられた事に……
「…あああっ…ディーンっ…あぁんっ!」
腰を打ちつけ、媚肉を抉り。中を掻き乱し。
「ああっ…もぉっ…もぉっ…私…あぁぁっ……」
そしてひとつになる。ひとつに、なる。
「―――ああああっ!!!」
それが何よりもの。何よりもの、願いで想いだった。
愛している。愛して、いる。例え二度と逢えなくても。例え二度と結ばれなくても。
永遠に告げられないと思っていた、言葉。
「―――愛している…お前だけを……」
永遠に言葉に出来ないと思っていた、言葉。
「…永遠に…愛している……」
それが今生の別れであろうとも、今伝えているから。
「…私も…愛しています…貴方だけ……」
愛の言葉は、そして永遠に。永遠にふたりの胸の一番深い部分へと…堕ちていった。