―――星が、散らばる夜に。
きらきらと輝く星のかけらが、夜空から降って来る。
その星の下で、あたしは踊り続けた。
夢を描きながら、夢を見ながら。
何時しか誰かがあたしを救ってくれると信じて…。
大人のような表情で、子供のように笑った。
どちらが本当の顔なのかと、ふと思いながら。
どちらもお前の顔でそして、お前の顔ではないんだろうと思いながら。
お前を、見ていた。
夢のようで夢でない、お前を見ていた。
「お前名前は?」
「名前?ラーラ」
「ふうん、いい名だな」
「そう?あたしは嫌い」
「どうして?」
「だって私を捨てた親が付けた名前だもの」
「それでもそれはお前の名前だろう?お前をお前だと識別する為の」
「…識別なんてされなくていい…」
「何故だ?」
「だって辛いもの。生きているのが」
「ならば死ねば」
「死ぬのはイヤ。だってまだ私は幸せを見つけていない」
「だったら生きるしかないだろう?どんなに辛くても幸せがほしいなら」
「……変な奴………」
「どうしようもない程にイイ男だろう?」
「変な奴っ!」
「惚れたか?」
「だれがあんたなんかに…大体名前も名乗らないで何者よ、あんたは」
「パーン。世界一のイイ男」
「…バカみたい……」
「最高の誉め言葉だよ」
踊り続ける。今それしか生きる術がないのなら。
それしかないのならあたしは踊り続ける。
でも何故だろう?
前ほど踊る事をイヤじゃないと思っているのは。
貴方が見ているから、イヤじゃない。
貴方があたしを見ていてくれるから。
星の下で踊りつづける。足に見えない鎖を繋がれながら。
逃げたいのかと、思った。
お前はここから逃げたいのかと。
だったら俺が逃がしてやろう。
お前の望み通りに。
そんな顔をして踊る踊りなど見たいとは思わないから。
だからもっと。もっと違うものに。
もっと違う踊りを見てみたいと思ったから。
お前が心の底から嬉しいと思える踊りを。
「逃がしてやるよ、ここから」
「…パーン?……」
「逃げたいのだろう?」
「…で、でも…逃げられる訳が…」
「逃がしてやる。俺に不可能はない」
「パーン」
「逃げたいんだろう?幸せになりたいんだろう?」
「…幸せに…なりたい…」
「だったら俺の手を取れよ」
―――手を、伸ばした。貴方の手を掴む為に。
星が降る夜。
踊りつづけた夜空。
その闇を背に、あたしは逃げた。
貴方の手を取って逃げた。
逃げたかったの、何もかもから。
この辛い日々から。
なんの目的も目標もなくただ命じられるままに踊りつづける日々。
その全てから逃げたかった。
あたしは生きたかった。自分の意思で生きたかった。
自分の意思で、踊りたかったの。
救いの手は、貴方の手。貴方だけが私を救い出してくれた。
「あたしは見つけたかったの」
「何をだ?」
「生きる意味を、あたしが生きる場所を。自分の意思で見つけたかったの」
「あそこには無かったのか?」
「無かったわ。あそこには何も無かった。あたしはただ命じられるままに踊らされただけ。ただの人形のように踊っていただけ」
「踊るのは、嫌いか?」
「―――嫌い、だった。でも」
「でも?」
「自分の意思で踊るのは、嫌いじゃない」
「ならば踊れ。俺はお前の踊りが好きだ」
「好き?」
「ああ、好きだ」
ならば踊るわ。貴方があたしの踊りを好きだというのならば。
貴方が踊るあたしを好きだと言うのならば。
あたしは、踊る。この星の下で。降り続ける星の下で。
貴方が、望むのならば。
綺麗だと、思った。
大人の仕草で、子供の顔で踊るお前。
綺麗だと、思った。
お前が自らの意思で踊るのならば。
苦しい顔で踊るのではないのなら。俺は。
俺はそれだけで、いい。
お前が幸せだと感じるのならば。
「来るか?」
何処へ、とは言わない。そしてあたしも聞かない。
「ええ」
ただあたしは伸ばされた手を取って、付いてゆく。
「何処までも」
その唯一の救いの手を信じて。
それは降り続ける星だけが知っている、小さな祈り。