――――胸に残る甘い痛み。
それが私の心から永遠に消える事はないだろう。
決してこの胸から消える事はないだろう。
けれども。けれども癒す事は、癒される事は出来るから。
…貴方の腕の中で少しづつ、溶かされてゆくのが分かるから……
私は貴女の為だけに生きてきました。
私はフリージの騎士ではない。
ただ一人貴女の為の騎士なのです。
貴女の為だけの騎士なのです、オルエン様。
その手を取ってそっと、指先に口付けた。それが何よりもの貴女への誓い。私の貴女への、想い。
「…フレッド…貴方は何時も私の傍にいてくれましたね」
ええ、傍にいました。そしてずっと。ずっと貴女だけを見つめてきました。私のただ一人の主君。ただ独りの人。
「オルエン様、私の全ては貴女のものです。私は貴女の騎士です」
「―――騎士だけ、ですか?」
「…オルエン様?……」
「貴方にとって私は護るべき者…ただそれだけなのですか?」
「そんな事はっ!」
「…だったら……」
貴女はひとつ、微笑った。ひどく柔らかい笑みで。ひどく少女のような笑みで、ひどく大人の女の笑みで。そしてひどく、哀しそうに。
「―――私を見て…フレッド……」
そうして貴女は胸のボタンに手を掛けた……。
ずっと私は兄を追い駆けていた。ずっとずっと子供の頃から。
ただ独りの兄を追い続けていた。それが。
それが私の『子供』の全て。私の優しい子供の時間の全て。
けれども何時しか。何時しか私の手は、脚は大きくなっていた。
そして。幼い頃泣きながら追い続けていた背中は。
――――もう、何処にもいないのだから……
「…見て…フレッド……」
貴方は呆然とその場に突っ立ったまま私を凝視している。そうでしょう?今まで主君だと信じてきた人間が。従うべき人間だと信じてきた相手が突然。突然『女』を見せたのだから。
私は視線を感じながら衣服の全てを脱ぎ捨てた。そして一糸纏わぬ姿になると、貴方の前に立った。
「…オルエン様…お止めください」
その時になってやっと我に返った貴方は床に散らばった服を拾い上げると私に手渡す。けれども私はそのせいで貴方の両手が塞がったのをいい事に、裸のまま貴方に抱き付いた。
「オルエン様っ?!」
「…抱いて…フレッド……」
広い、背中。私が追い駆けていた背中とは違う。けれども優しい背中。暖かい背中。ずっと。ずっと私を護ってくれていた背中。
「―――それは…命令…ですか?」
「…違うわフレッド…これは…」
「女としての私の願いよ」
遠くまで来てしまった。兄を追い駆けて、そして。
そして気付いて立ち止まった場所はあまりにも遠かった。
けれども、不安になった事はない。だって。
だって振り返れば貴方がいる。何時でもどんな時でも。
―――貴方がいてくれた、から。
私はずっと貴女だけを見ていました。ずっと貴女だけを、見ていました。それは主君としてじゃない。女として。ただ独り私の愛する人として、ずっと見ていました。
「オルエン様…私は何も持ってはいません。それでもよいのですか?」
「フレッド?」
「貴女に見合うだけの身分もない。ましてラインハルト様のような力も…それでもよいのですか?」
「何を言うのフレッド」
また貴女は微笑った。ひどく優しく、そして少女のように。
「そんな外側の飾りなんて私にはどうでもいいの。私が貴方を選んだの。他でもない『貴方自身』を選んだの」
そうして貴女は背伸びをして、私にひとつキスをした。それが全ての答えだった。
「…あぁ…フレッド……」
普段隠されていて見えなかった白い肌。そして滑らかな身体のライン。柔らかい胸に指を這わせれば、ぴくんと睫毛がひとつ震えた。
「…あぁっ…はぁん……」
胸の果実を指で転がしながら、漆黒の髪に口付けた。そこから香る涼やかな香り。ずっと私が求めていた香り。このまま私だけの腕の中に貴女を閉じ込めてしまえたならば。
「…フレッド…」
「…オルエン様……」
薄く目を開いて私を見つめる瞳は夜に濡れ始めている。それは哀しいくらいに綺麗だった。とても、綺麗だった。
「…こんな時まで…様なの?」
「――あ、すみませんオルエン様…じゃなかった…オルエン…」
「…ふふ…でも私は貴方のそんな所が好き」
「…オルエン……」
「好きよ、フレッド」
背中に廻された腕の力が強くなる。私はそれを感じながらきつく、その身体を抱きしめた。
子供の時間に終わりが来る。
小さな私はもう何処にもいない。
最期の服を脱ぎ捨てて、私は。
私は貴方の腕の中で『女』に、なる。
「…くふぅっ…あ……」
脚を転げさせ秘所に辿り着いた指先が、中に侵入する。けれども硬く閉ざされた蕾は中々フレッドの指先を受け入れなかった。無理もない、今までそこに他人が触れることなどなかったのだから。
「――力を抜いて、オルエン」
「…あっ……」
フレッドは胸への愛撫を執拗に繰り返しながら、蕾を開かせてゆく。決して焦る事無く、丁寧に時間を掛けてそれは行なわれた。
「…あぁ…は……」
何時しかオルエンの声に甘い息が零れ始める。そして閉ざされていた花びらはゆっくりと開き、指を迎え入れ始めていた。
「…あぁっ…んっ……」
女性の一番感じる部分を探り当てると、重点的にフレッドはソコを攻め立てた。剥き出しになったクリトリスは痛い程に張り詰め、感じた事のない衝撃と快楽をオルエンにもたらした。
「…あああっ…んっ…はぁぁっ……」
とろとろと蜜が零れて来る。それを合図にフレッドは中に入れる指の本数を増やしていった。そうする事で少しでもこれから訪れるであろう衝撃を和らげようとしていた。
「…ぁぁ…はあ……やあっん…なんか…変……」
「大丈夫です、オルエン。私がいます」
「…ああ…フレッ…ド…あああんっ……」
瞼を開くと睫毛からぽろぽろと涙が零れ落ちた。快楽の為の涙なのか、それとももっと違うものなのか今のフレッドには分からなかったけれども。
「…フレッド…フレッド…あぁ…」
見つめてくる瞳の真っ直ぐさが。全ての問いの、答えのような気がしたから。
さようならと、子供の時間に終わりを告げて。
そして私に残ったものは、私が手に入れたものはなんだろう?
「ひあああっ!!」
侵入した瞬間、悲鳴がオルエンの口許から零れる。それと同時に繋がった個所からどろりとした赤い液体が流れてくるのが分かった。
「力を抜いて、オルエン」
何も知らない個所に打ち込まれた楔が、オルエンの秘所を傷つける。けれどもこのままフレッドは止める訳にはいかなかった。このままでは余計にオルエンに苦痛を与えるだけでしかないと分かっていたから。だからフレッドは。
「…ひぁっ…ああっ……」
痛みで硬直した身体を宥めるように髪を撫でながら乳首を吸った。ぴちゃびちゃとわざと音を立てながら、ソコを攻めた。そのお蔭か性感帯を刺激されて、次第にオルエンの身体が弛緩してゆくのが感じられた。
「…ひぁっ…ああ…はぁ…ん……」
艶めいた声に変わるのを確認してフレッドは一端止めていた動きを再開した。ずぶずぶと音を立てながら、根元まで呑み込ませる。零れた血が潤滑油となって思ったよりもスムーズにそれは成しえる事が出来た。
「ああああああっ」
抉じ開けられる痛みと、それ以外の違った感覚。それが同時にオルエンを攻め立てる。痛みと快楽の狭間の奇妙な感覚が、意識すらも飛ばしそうになった。
「オルエン、大丈夫ですか?」
けれどもそれを止めているのもまた繋がった個所の感覚と、そして。そして降り積もるフレッドの声。
「…大丈夫…私は…大丈夫…だから…だから…あぁ…止めないで……」
「―――愛しています」
「…うん……」
「誰よりも愛しています」
「…は…い……」
こくりと小さく頷くのをフレッドは確認すると、ゆっくりと腰を動かし始めた。オルエンの全てを、手を入れるために……。
小さな、甘い痛み。胸に宿る甘い、痛み。
消える事のないその痛み。
それはラインハルト兄さんの面影。
でも、その痛みは今分かった。
―――貴方とこうして共有出来る痛みだと言う事が……
「ああああああっ!!!」
最奥まで貫かれ、子宮に何かが当たったと思った瞬間。
―――オルエンの意識は真っ白になった。
子供の時間が終わって。たくさんのものをなくして。
そして。そして私が手に入れたもの。それは。
それは貴方の揺るぎない愛、だった。