―――首筋に触れた指先の感触に、少しだけ目眩を覚えた。
もう何度もこうして抱き合っているのに。こうして肌を重ね合っているのに。吐息を奪い合い、濡れあっているのに…。
「―――ここ、凄い音がしているな。手のひらまで伝わってくる」
胸のふくらみに手を重ねて、耳元で囁かれる言葉。低く少しだけ掠れた声で。その声が何時も。何時も私の意識を溶かしてゆく。
「…ハールさんが…触れているからですよ……」
甘い吐息を零すのが悔しくて、さらりと言ったつもりだった。けれども。けれども、そんなささやかな嘘も、貴方の触れている指先が見破ってしまう。それが少しだけ…悔しい。
「俺のせいか?」
汗の匂いがする。それは戦場を駆け抜けている時の匂いとは違う。今ここだけで嗅ぐ事の出来る匂い。夜の、におい。
「…あなた以外誰が私をこんなにさせると思っているんですか?」
この香りに包まれ、私は淫らに溶けてゆく。それを止める事は出来ない。このひとの腕の中で、私はただの『女』になってゆく。
「おまえがいけないんだぞ」
くすりとひとつ、微笑うのが分かった。どんな表情をしているのかは見えなかったけれど、でも分かった。それは私だけが知っている貴方の顔。悪戯を思いついた子供のような…無邪気だけど、でも雄の顔。
そうして覆いかぶさるように、口づけられる。貪るような口づけに酔わされ、触れてくる手の熱さに溺れ、私は貴方と言う名の海に溶けていった…。
長崎さんのサイト 忘却の翼